前回のあらすじ
『助け舟を叩き壊した、ガチャ神の運命やいかに……』
外注さんの今日のひとこと
『新作もこっちで投稿したいんだけど、どうすっかなぁ……』
『力が……欲しいか……?』
地獄耳のクマイヤーが捕らえた相手の第一声は、ひどく……厨二病くさいものだった。
「あの、今取り込んでおってな……。冗談を言うために電話したのなら、後でかけなおすのじゃ」
『ガチャ神ちゃんってばマジメかっ! 俺がそっちの状況分かってないとでも?』
「まぁ、そうじゃよな……」
『で、どうすんのさ。うそつき神様?』
「ワシにはどうにもできんのじゃ……」
電話しながらも、ちらりと横目に見たのは、鬼若とクロだ。
鬼若はクロを抱きしめ、必ず俺がなんとかしてやるから、となだめていた。
『そんなアナタにお得なお知らせ!
なんと! 今なら! 全知全能パワーが前借りできちゃいます!!』
「詐欺の予感がするのじゃ……」
『詐欺なんてとんでもない! 純度100%の下心だよっ!!』
「それダメなやつじゃ……」
あのガチャ神が押されている……。
多分会話の内容から、相手は例の上司なのだろうが、非常にテンションが高い。
それに言ってる事も滅茶苦茶で、いつもは俺達を振り回すガチャ神が、ツッコミ役に回らされている。ヤバイ相手だ。
『じゃあどうすんのさ? 毎日御参りに来てくれるような信心深い子を見捨てんの?
鬼ってんな!』
「しかし能力の前借りなんて、元の約束と違うが……」
『それはアレだよ、大きな大きな貸しひとつって事で』
「後で泣きを見るパターンじゃな。やはり詐欺ではないか」
電話越しに押し問答が繰り返されているが、その内容が……、なんともユルい。
先ほどまでの鬼若のプレッシャーや、カオリとクロの哀愁溢れた話に繋がる内容とは思えないな。
『まぁいいや。その気になったら能力付与されるようにしておくから、考えておいてね。
あと、クロとカオリによろしくー』
「まさか……、クロとカオリのために?」
『さて、どうだろうね。あっ、あとさっきから立ち聞きしてるキミ!』
えっ!? まさか気付かれてた!?
『そう、君だよ君! 電話の内容盗み聞きするなんて、趣味悪いぞ?』
考えてる事まで読まれているのか……。スミマセンデシター。
『分かればよろしい。そんじゃ、またねー!』
言うだけ言って、電話は切れてしまったようだ。
暗くなった画面を見ながら、少女はがっくりと肩を落としている。
「……はぁ」
そして、誰もが気付くほどの大きなため息をつく。
その気持ちは分かるが、ため息が問題を解決してくれるわけはない。
「で、どうするんだ? 借りは作ると、後が怖そうだが」
「いや、あれはほぼ命令じゃ。他の選択肢などないのじゃ」
「そういうもんなのか?」
「あれで相手は全知じゃて、他の方法がない時にしか手は貸してくれんのじゃ」
「なるほど。上司が出ないといけない時点で、詰みってことか」
「しかし……、後の事を考えるとのぅ……」
少し考える時間が欲しかったのか、ブツブツと言いながら、手に持っているスマホをくるくる回している。
そんなガチャ神であったが、覚悟を決めたようで、よしっ、と気合を入れた。
「いいのか?」
「クロのためじゃ。多少のリスクは覚悟の上! ワシはやるぞ!!」
リスク扱いされる上司って……。とツッコミを入れようとしたその瞬間、ガチャ神は光に包まれた。
何事かと皆が一斉に注目する中、眩い後光によって彼女の姿は見えなくなり……。
そして……。
何一つ変わらぬ姿で再び現れた。
「なんも変わんねーのかよ!」
「世の中そういうもんじゃ」
正直どうなるのかと期待してしまったので、肩透かしを食らってしまったが、大事なのは能力だ。
きっと上司が助けに入ったのだから、そちらは大丈夫だろう。
「うむ、これが全知全能というものか……。つまらんのう……」
「ちょっ、感想がそれ!?」
「“全てを知っている”など、犯人にマーカーが引かれた推理小説を読むようなもんじゃ。
あやつが全知を制限しておったのも、納得のつまらなさじゃ」
「そういうものなのか……?」
納得できるような、できないような……。
そんな俺を横目にガチャ神……。いや、全知全能になられたのだから、女神様とでも呼ぶべきか。
ともかく彼女は、クロの前に立ち、問うのだ。
「クロよ、おぬしの“御主人様”の助けにより、願いを叶える事が可能となった。
今一度おぬしの望みをここで宣言するがよい。
ただし、願う事ができるのは一つだけ、よく考えるのじゃ」
「本当の本当ですか? やっぱり無理はナシですよ?」
クロの疑念の眼差しに、女神はゆっくりと頷く。
しかし、なぜもう一度言わせる? 前に聞いていたはずでは……。
「クロの願い事はですね……」
「クロ! 待て!!」
「ひゃいっ!?」
突然の俺の“待て”に、クロは尻尾をピンと立て、気をつけの姿勢で固まった。
あぁ、犬の本能が“待て”に過剰反応したのか……。
「全知全能の女神様、一度相談させていただいてよろしいでしょうか」
「おぬし……。前から思っておったが、相手によってかなり対応に差があるのう……。
まぁよい、好きに相談でもなんでもするがよい」
確認を済ませると、俺はいそいそといつものメンバーを集めた。
「どうして止めたんですかっ!」
「クロ、お前なんて言うつもりだったんだ?」
「それはもちろん、ごしゅじんと一緒に居られるようにって……」
「お前、それだとカオリがここに残る事になるかもしれないだろ?」
「あっ……。じゃぁどうすれば……」
「まくま君、私はそれでいいよ」
「そうはいかないだろ。クロも、カオリを帰したいよな?」
「もちろんですっ! じゃぁクロをごしゅじんと一緒に……。
でもそれだと、他のみんなが一緒じゃなくなるのです……」
おそらく、おそらくではあるのだが……、もう一度願いを言わせる理由、そしてわざわざ“よく考えるよう”言った理由。それは最善の未来を“知った”からだ。
だからこそ“全知はつまらない”や“犯人の分かっている推理小説”などと言ったのだ。
最善のエンディングに、彼女は俺達を誘導している、そう俺は信じたかった。
『本文初登場……、でもないんだけど、テンション上がってるなアイツ』
「それよりも、上司ってのは全知を制限してたんだぜ?」
『あぁ、局長は知らんよね。180連目の後書き参照やで。他にもあるけど』
「いや、私はそれ見れないんだぜ……」
『簡単に言えば、愛と欲の違いを“知らなかった”んだよね』
「違いがわからないんだぜ」
『愛されたいって思うのは欲かも? 愛したいと思うのもある意味欲か?』
「哲学なんだぜ……」
『ガチャ神と同じ結論に達してるな』
「……そこはかとなく嫌なんだぜ」
『はい、終わろか』
「次回もゆっくり読んでいってね!!」
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