爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

1030連目 なってみるとつまらない

公開日時: 2021年2月11日(木) 18:05
文字数:2,374

前回のあらすじ

『助け舟を叩き壊した、ガチャ神の運命やいかに……』


外注さんの今日のひとこと

『新作もこっちで投稿したいんだけど、どうすっかなぁ……』



『力が……欲しいか……?』



 地獄耳のクマイヤーが捕らえた相手の第一声は、ひどく……厨二病くさいものだった。



「あの、今取り込んでおってな……。冗談を言うために電話したのなら、後でかけなおすのじゃ」


『ガチャ神ちゃんってばマジメかっ! 俺がそっちの状況分かってないとでも?』


「まぁ、そうじゃよな……」


『で、どうすんのさ。うそつき神様?』


「ワシにはどうにもできんのじゃ……」



 電話しながらも、ちらりと横目に見たのは、鬼若とクロだ。

鬼若はクロを抱きしめ、必ず俺がなんとかしてやるから、となだめていた。



『そんなアナタにお得なお知らせ!

 なんと! 今なら! 全知全能パワーが前借りできちゃいます!!』


「詐欺の予感がするのじゃ……」


『詐欺なんてとんでもない! 純度100%の下心だよっ!!』


「それダメなやつじゃ……」



 ガチャ神が押されている……。

多分会話の内容から、相手は例の上司なのだろうが、非常にテンションが高い。

それに言ってる事も滅茶苦茶で、いつもは俺達を振り回すガチャ神が、ツッコミ役に回らされている。ヤバイ相手だ。



『じゃあどうすんのさ? 毎日御参りに来てくれるような信心深い子を見捨てんの?

 鬼ってんな!』


「しかし能力の前借りなんて、元の約束と違うが……」


『それはアレだよ、大きな大きな貸しひとつって事で』


「後で泣きを見るパターンじゃな。やはり詐欺ではないか」



 電話越しに押し問答が繰り返されているが、その内容が……、なんともユルい。

先ほどまでの鬼若のプレッシャーや、カオリとクロの哀愁溢れた話に繋がる内容とは思えないな。



『まぁいいや。その気になったら能力付与されるようにしておくから、考えておいてね。

 あと、クロとカオリによろしくー』


「まさか……、クロとカオリのために?」


『さて、どうだろうね。あっ、あとさっきから立ち聞きしてるキミ!』



 えっ!? まさか気付かれてた!?



『そう、君だよ君! 電話の内容盗み聞きするなんて、趣味悪いぞ?』



 考えてる事まで読まれているのか……。スミマセンデシター。



『分かればよろしい。そんじゃ、またねー!』



 言うだけ言って、電話は切れてしまったようだ。

暗くなった画面を見ながら、少女はがっくりと肩を落としている。



「……はぁ」



 そして、誰もが気付くほどの大きなため息をつく。

その気持ちは分かるが、ため息が問題を解決してくれるわけはない。



「で、どうするんだ? 借りは作ると、後が怖そうだが」


「いや、あれはほぼ命令じゃ。他の選択肢などないのじゃ」


「そういうもんなのか?」


「あれで相手は全知じゃて、他の方法がない時にしか手は貸してくれんのじゃ」


「なるほど。上司が出ないといけない時点で、詰みってことか」


「しかし……、後の事を考えるとのぅ……」



 少し考える時間が欲しかったのか、ブツブツと言いながら、手に持っているスマホをくるくる回している。

そんなガチャ神であったが、覚悟を決めたようで、よしっ、と気合を入れた。



「いいのか?」


「クロのためじゃ。多少のリスクは覚悟の上! ワシはやるぞ!!」



 リスク扱いされる上司って……。とツッコミを入れようとしたその瞬間、ガチャ神は光に包まれた。

何事かと皆が一斉に注目する中、眩い後光によって彼女の姿は見えなくなり……。


 そして……。


 何一つ変わらぬ姿で再び現れた。



「なんも変わんねーのかよ!」


「世の中そういうもんじゃ」



 正直どうなるのかと期待してしまったので、肩透かしを食らってしまったが、大事なのは能力ナカミだ。

きっと上司が助けに入ったのだから、そちらは大丈夫だろう。



「うむ、これが全知全能というものか……。つまらんのう……」


「ちょっ、感想がそれ!?」


「“全てを知っている”など、犯人にマーカーが引かれた推理小説を読むようなもんじゃ。

 あやつが全知を制限しておったのも、納得のつまらなさじゃ」


「そういうものなのか……?」



 納得できるような、できないような……。

そんな俺を横目にガチャ神……。いや、全知全能になられたのだから、女神様とでも呼ぶべきか。

ともかく彼女は、クロの前に立ち、問うのだ。



「クロよ、おぬしの“御主人様”の助けにより、願いを叶える事が可能となった。

 今一度おぬしの望みをここで宣言するがよい。

 ただし、願う事ができるのは一つだけ、よく考えるのじゃ」


「本当の本当ですか? やっぱり無理はナシですよ?」



 クロの疑念の眼差しに、女神はゆっくりと頷く。

しかし、なぜもう一度言わせる? 前に聞いていたはずでは……。



「クロの願い事はですね……」


「クロ! 待て!!」


「ひゃいっ!?」



 突然の俺の“待て”に、クロは尻尾をピンと立て、気をつけの姿勢で固まった。

あぁ、犬の本能が“待て”に過剰反応したのか……。



「全知全能の女神様、一度相談させていただいてよろしいでしょうか」


「おぬし……。前から思っておったが、相手によってかなり対応に差があるのう……。

 まぁよい、好きに相談でもなんでもするがよい」



 確認を済ませると、俺はいそいそといつものメンバーを集めた。



「どうして止めたんですかっ!」


「クロ、お前なんて言うつもりだったんだ?」


「それはもちろん、ごしゅじんと一緒に居られるようにって……」


「お前、それだとカオリがここに残る事になるかもしれないだろ?」


「あっ……。じゃぁどうすれば……」


「まくま君、私はそれでいいよ」


「そうはいかないだろ。クロも、カオリを帰したいよな?」


「もちろんですっ! じゃぁクロをごしゅじんと一緒に……。

 でもそれだと、他のみんなが一緒じゃなくなるのです……」



 おそらく、おそらくではあるのだが……、もう一度願いを言わせる理由、そしてわざわざ“よく考えるよう”言った理由。それは最善の未来を“知った”からだ。

だからこそ“全知はつまらない”や“犯人の分かっている推理小説”などと言ったのだ。


 最善のエンディングに、彼女は俺達を誘導している、そう俺は信じたかった。

『本文初登場……、でもないんだけど、テンション上がってるなアイツ』


「それよりも、上司ってのは全知を制限してたんだぜ?」


『あぁ、局長は知らんよね。180連目の後書き参照やで。他にもあるけど』


「いや、私はそれ見れないんだぜ……」


『簡単に言えば、愛と欲の違いを“知らなかった”んだよね』


「違いがわからないんだぜ」


『愛されたいって思うのは欲かも? 愛したいと思うのもある意味欲か?』


「哲学なんだぜ……」


『ガチャ神と同じ結論に達してるな』


「……そこはかとなく嫌なんだぜ」


『はい、終わろか』


「次回もゆっくり読んでいってね!!」

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