前章のあらすじ
「まくらがバージョンアップを果たしたのじゃ」
ガチャ神の今日のひとこと
「ワシは帰ってきたのじゃ!!」
魔の放課後から数日が過ぎ、カオリというマネージャーを得た俺は悪目立ちする事も減り、平穏な学校生活を取り戻していた。
そんな平日をまったりと過ごし、待ちに待った今日は土曜日、学生の特権である完全週休二日を満喫しているのである。今日も今日とて、異世界は平和で平穏である。
今目の前で繰り広げられている光景は、平穏とはかけ離れているのだが……。
「ひえぇぇぇ……! もう許してくださいぃぃぃ……!!」
「捕まえたらオヤツ! 捕まえたらオヤツ! 捕まえたらオヤツ!!」
オヤツというご褒美に釣られ、全力でエモノを追いかけるクロの目は、本物のオオカミのようだ。
対してエモノである兎獣人のイナバは、泣きながらも必死で逃げている。
この様子だけを見たなら、イナバがオヤツになりそうな雰囲気であるが、さすがに俺もそこまで鬼ではない。
ちゃんと骨孫を用意するつもりだ。
そんな二人を、俺はベンチに座るベルの膝の上で眺めている。
なぜこんなことをしているのかと言えば、あまりにイナバがビビりなもので、バトルで全然動けていないのを見てどうしたものかと悩んでいたのだ。
そんな時に「もしかして、バトル以上に怖い思いすれば、バトルくらい平気になるんじゃ?」なんて思いついたのが事の発端だ。
バトルはしょせん、学園運営局のルールで行われる、いわば試合みたいなもんだ。
ならば「本当の恐怖というものを味わえば、もしかするとバトル程度怖くなくなるかも?」なんて発想だ。
その発想元が、俺を恐怖のどん底に叩き付けた、あの放課後の出来事であった事は言うまでもない。
カオリは最初反対していたが、ベルが賛同してくれたし、「ただの鬼ごっこだよね?」なんて言えば、渋々ではあるが了承してくれた。
クロは最初からやる気満々だったので、イナバには逃げ道はなかった。
もしクロがやりたがらなかった場合でも、鬼若にやらせようと思ってたけどね。
その鬼若は、まだここには来ていないけれど。
ただ、今の状況を見ている限りでは、イナバの中でのクロに対する恐怖度が上がってしまっただけかもしれない。
見てられないなぁ、と言わんばかりのカオリは、自身の気を逸らすかのように話しかけてくる。
「ところでまくま君、例の三人組は、その後なにもしてきてないの?」
「あぁ、ケモナー三銃士な。あいつらなら、あの後謝ってきたよ。今後は手を出さないってさ」
「ケモナー三銃士? なにそれ?」
「俺が勝手につけた名前だ。
本当は5人居て“ケモナー戦隊! ジュウジンジャー!”なのかもしれないけど」
そんな俺の冗談に、カオリは思わず噴出して笑っている。
うんうん、うまくクロの事から意識を逸らせたようでよかった。
「なんで戦隊モノになってるの? まさか、あと二人もああいう人がいるの?」
「そんなだったら面白いだろ?
それに意外とああいう奴らは、大きなコミュニティー持ってるかもしれないしな」
実際のところは、この世界がゲームを元にしたものだから、モブたちは五属性で、各属性が最低一人ずつ存在するはずだ。
つまり、どこかにあと二人は確実に居ると踏んでいる。
まぁ、そんな話をカオリにできるはずがないけどね。
「とりあえず、今後の心配はあんまりしなくていいって事だよね」
「まぁな。なんなら、奴らには感謝されたくらいだし」
「感謝されるような事なんて、あったけ?」
「それは……。色々と、な」
感謝された理由は「最低五人にる」なんて話より、もっと言いにくいんだよなぁ……。
俺とひと悶着あったおかげで、あいつらがレオン先生を、いつでももふもふできる権利を得たなんて話……。
しかも、ブラッシング用具まで準備して、俺に自慢してきたとかさ。
おかげでレオン先生の毛並みが、日に日に良くなっていくとかさ……。
この話は黙っておこう。レオン先生の名誉のためにも。
「まぁ、なんだかんだあったけどさ、あいつらとは仲良くなったんだよね。
それで、なぜか“獣人を愛でる会”の会員にされたんだよね。
あ、俺の会員ナンバーが7番だし、あと3人いるのかな?」
「まくま君……、それは断った方が良かったんじゃ……?」
「俺も悩んだんだけどさ、会員になっておくと、契約者と同じ扱いになるらしいんだよ。
だから、バトルの時に助けてもらえるわけ。
やっぱり、いざと言うの時のために、仲間は多い方がいいだろ?」
「私は、まくま君が詐欺に遭わないか心配だよ……」
カオリの心配性は相変わらずだなぁ。
てか、詐欺ってなんだ? 「今登録するとこんなにお得!」みたいなのに引っかかりそうだって事か?
うん、今の俺の発言を聞くだけだと、そう思われても仕方ないな。
いや、実際のところは俺はそこまでおバカさんではないぞ。
今回の事も、しっかりと考えた上での判断なんだから。
というのも、奴らはゲーム内では「低レアリティのくせに使いやすいキャラ」として有名だったんだ。
そのスキルというものが「パーティー全体が受ける、獣系キャラクターからのダメージを大幅減」というもので、一人パーティーに入れておくだけで、生存率が段違いに上がるキャラだったんだ。
俺も、ゲームを始めてすぐの頃に手に入れておけばかなり楽になったのに……、と悔しがったもんだ。
え? 「手に入れられなかったのか?」だって?
俺は運0だぞ? NとN+が、クエストのドロップで手に入るからって、ドロップ運があると思うか? ……自分で言ってて泣けてくるな。
ともかく、あれば嬉しいなと思っていた奴らなので、ある程度のリスクには目を瞑ろうという結論に至った訳だ。
そうこうしているうちに、イナバはクロに捕まり、その垂れた耳を甘噛みされていた。
少し、いかがわしさを感じるその光景だが、クロはオヤツを待ち切れず、イナバを食べる気だろうか。
「クロ、イナバ、少し休憩しようか」
「ごしゅじんっ! ちゃんと捕まえましたよっ!」
「うぅ……。まくらさん……、怖かったです……」
各々の反応をする二人だが、ふと思い出せば、イナバは高校生でクロは小学生だ。
イナバよ、もう少ししっかりして欲しいぞ。
まぁ、身長はイナバのほうが少し高いくらいで、あまり年の差を感じないんだけどね。
思えば、イナバは小柄すぎるな。
そんなイナバになんと言うべきかと悩んで、「脱兎のごとくとは、ああいうのを言うんだな」と言いかけたが、やめておこう。
「イナバ、お疲れさん」
そう言ってやるのが精一杯だ。今の俺は、ホントに余計な事を言いかねない。
これはやはり、年末のガチャの爆死で引いたのがイナバだから、無意識にイラついてしまっているんだろうか。
いやいや、それは俺の運が0なのが悪いのであって、イナバは悪くない。
悪いのはガチャ神だ。落ち着け俺……。
「まくまさんっ! オヤツですよ! オヤツっ!!」
「はいはい、鬼若が来てからな」
少しドス黒いモノに侵食されそうな気持ちを、クロが吹き飛ばしてくれた。
まぁ、そのクロが要求しているのは、“俺のオゴリ”でのオヤツなんだがな。
その程度の事なら、ゲーム時代に溜めに溜めたお金があるので問題ない。
ガチャ神の運0にはうんざりさせられるが、この世界を俺のゲームデータを元に創ってくれた事だけは感謝しておこう。
おかげで、金策に苦労する事はなさそうだからな。
ってことでガチャ神ちゃん、出張お疲れ様。
「後書きファンの皆様! お待たせしましたのじゃ!」
残念ながら、ファンレターは届いてません。
「なんじゃと!? 全国5億6千万人のファンは、どこへいったのじゃ!?」
日本の人口軽く超えてるんですが、それはどこの全国なんですかね?
「動物を含めれば、そんくらいおるじゃろ」
それを含めるなら、“何人”と表現するのは不適当ですよね?
「細かいことは気にするもんでないのじゃ!」
まぁいいか。〆よう。
「感想・ツッコミ・ファンレターお待ちしておるのじゃ! 特にファンレターを!」
必死すぎる……。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!