前回のあらすじ
「鬼若もおだてれば木に登るのじゃ」
ガチャ神のワンポイント情報②
「来訪者を仲間にするためには、契約式でそのキャラクターを引き当てねばならんのじゃ」
“物欲センサー”それはスマホゲー界隈に限らず、この世の真理とも言われる。
「欲しいものは出ない」もしくは「欲しい物は手に入らない」
運なき者の嘆きにも似たその真理。俺はそれに幾度と無く打ちのめされてきた。
「俺、ガチャ運ないんだよなぁ……」
スマホの契約式画面を見ながら、ため息をつく。
「主様……。お力になれず申し訳ありません」
さっきまでのドヤ顔やらなんやらが嘘のように、鬼若はショゲている。
対して当の本人であるベルフェゴールは……、何を考えているかわからない。
ただ、眠たそうな目でこちらの様子をうかがっている。
放っておいてどこかに行かないのだから、何か意図があるとは思うのだけど。
「それにしてもさ、なんで目の前にいる相手と契約できないんだろうな」
「我が説明いたしましょう」
解説役は任せろと言わんばかりに、ベルフェゴールが話し始める。
もしかして、本人は意外と契約に乗り気だったりするのだろうか。
「我ら来訪者が異世界から来た者であるのは知っての通り。
しかし、我らの魔力等はこちらの世界のものではなく、元居た世界より供給されておる。
そして、その供給元の世界とこちらの世界の間に立ち、我らの能力をコントロールしているのが学園運営局だ。
契約式とは、異世界と来訪者の繋がりを断ち切り、契約主と繋ぎなおす儀式である。
そのために、こちらの世界と異世界とを一時的に繋ぐ訳だが、繋がる先の異世界は指定できぬ。
ゆえに誰と契約できるかは、“神のみぞ知る”というわけだ」
ガチャなんてものは、運営が稼ぐための手段でしかない。だから課金させるためにランダムで排出させる。
そういう裏を知っているのはゲームプレイヤーだけで、この世界に住む者達にとってはこういうファンタジーな設定があるようだ。
それにしても“神のみぞ知る”か。その神を知っている俺としてはなんとも言えない気分だ。
「主様、この理を覆す方法は無いのでしょうか」
方法? それって裏技ってヤツかな?
う~ん……、無いわけではない。
他のゲームであれば俺は“ギリギリセーフ”な裏技を何度か使った事がある。
運ゼロの俺がゲームを攻略するには、徹底的に調べ上げ、あらゆる手段をなりふり構わず使う必要がある。
その中で「運以外の要素ではどうしようもない時」の最終手段、それが「乱数調整」という技だ。
学生ならイメージしやすいと思うが、授業で教師が日付と同じ出席番号の生徒を当てる事があるだろう。
24日なら出席番号24番が当てられるみたいにね。
ゲームのプログラムも似たような内容になっている事が多い。
といっても、そんな単純なもではなく、日付の代わりに“コマンドを入力してから経過した秒数”や“キャラクターが何歩歩いたか”など、ある程度ランダム性の期待できる数字から結果を出していたりする。
もちろんさらに色々と複雑に計算させることで、簡単には見破れないようになっているのだが、世の中の暇人はそういうのを調べたり、もしくは内部プログラムを直接見るけしからん輩も存在する。
そういう人たちの情報のおかげで攻略させてもらった俺が、非難できる立場ではないのだけどね。
そんな訳で契約式で出るキャラクターの選出方法が解れば、俺であっても狙ったキャラを引き当てる事は、理論上不可能ではない……はずだ。
データが無い今の状況では、どうする事もできないのだけどね。
むしろ俺の場合は、運ゼロなんていう特殊ステータスによって、常に“ガチャで爆死するよう乱数調整されている”ようなものだ。
おのれガチャ神め……、許さんぞ……。
「鬼若、俺の代わりに契約式回せ」
「えっ!?」
色々と考えを巡らせ、黙りこんでいた俺の突然の発言に、鬼若はビクッと体を震わせた。
「しかし主様、俺は契約主の素質を持っておりませんし、端末は所有者本人しか操作できませんよ」
「わかってる。だから俺のココを持って、お前の思うタイミングでスマホを操作してくれ」
そう言って俺はまくらの角……、ミミ(?)をぴこぴこと動かしてみせた。
これがネコやウサギなんかの小動物なら、さぞ可愛いかったんだろうな。
「そういう事でしたらやらせていただきますが、俺でよろしいのですか?」
「いや、鬼若だからこそだ。今までお前は、学園運営局の不手際で不当な扱いを受けてきた。
けど、それもさっきのメンテで最強に返り咲いたんだ。つまり今のお前には、最大の運気が巡ってきている! 乗るしかないだろう、このビッグウェーブに!」
色々考えての結論ではあるが、正直なところ自分で回して爆死したくないというのが本音である。
「わかりました! この鬼若、必ずや主様のご期待に応えてみせます!」
「おう! 頼んだぞ!」
俺に期待され目を輝かせる鬼若を見て、少なからず罪悪感が沸く。
俺が回すよりは期待が持てるとは思う。けれど結局の所、ガチャ結果を人のせいにしたいだけだからね。
しかし、この鬼若の乗せられやすさを見ていて、ちょっとからかってやりたいという悪戯心も沸いたのもある。単純なやつめ……。
「主様! いきますよ!」
「よし! いつでもこい!」
フッと小さく息を吐くと、鬼若は俺を抱え上げた。
不意に視界が高くなり、よく晴れた秋空が気持ちい。
ここは「わ~、おそらをとんでるみたい~!」なんて言うところだろうか。
そして次の瞬間、俺はスマホに向けて急落下する事になる。
「ちょっ! 扱い雑っ! ってか、スマホ壊れる!!」
人間であればスマホに全力で頭突きをしたような格好になっていたが、幸い今はまくらだったためスマホが壊れる事も、俺の頭が大破する事も無く済んだ。
なんだかんだこちらに来てから、まくらの体で助かっている事が多い気がする。
いや、もしかすると、このスマホはこちらの世界の不思議端末なのだから、人間の頭突きくらいでは壊れなかったかもしれないけどね。
神は賽を振らぬ。プログラムは賽を振れぬ。
「ランダムに見えて規則性があるというのは、意外と多いのじゃ」
ちなみに、乱数調整って実際やれるもんなのかな?
「外部ツール使わないと出来ない事がほとんどらしいのじゃ」
そりゃ、コンマ以下の秒数が関係してたりすると無理だよな。
「中の人も『人生の乱数調整したい』って言っておったのぅ」
この小説の復活も、その一環だったりしてね。
「復活……?」
スルー推奨。
「あっ、はいなのじゃ」
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