前回のあらすじ
『局長、消滅(本文から)』
外注さんの今日のひとこと
『後書きが本編言われてるけどナー』
えらく可愛らしいスマホを取り出し、誰かに電話するガチャ神。
その表情は、焦りが隠せてはいなかった。
「ちょっと待つのじゃ、心当たりが一人おるのでな。確認するのじゃ……」
「えぇ……。神を自称するのに、電話なのかよ……」
少女の姿というのもあるが、やはりどこか神っぽくないその姿に、俺も疑念よりも不安のほうが大きくなる。
今まで俺に語っていた事が全て嘘だったなら説明が付く、などと思っていた。
しかし、この少女ももっと大きな存在に利用されていただけ、そう考える方が納得できるような悲壮感を覚えさせるのだ。
そして数コールののちに、電話の向こうの相手に喋り出す。
「あっ、いつもお世話になっておるのじゃ。ガチャ神なのじゃが……」
『おかけになった電話は、現在電波の届かない所にあるため、お繋ぎできません』
「ってなんでじゃ! 神のスマホに圏外なんてあるわけなかろう!!」
クマの地獄耳が捕らえた音声案内に、ガチャ神は鋭いツッコミを入れながらも、自身のスマホを床へと叩き付けた。
それは板の間に跳ね返され、きれいな放物線を描きながら社の外へと飛び出し、水溜りへダイブする。
完全に水没して画面も割れているし、普通のスマホならもうダメだろうな。
「……で、どうすんだよ?」
「だっ……、大丈夫じゃ!
もう一人話を聞けそうなヤツがおるのでな!」
「ホントかよ」
あわあわという擬音が聞こえそうなほどに焦りを見せながらも、不思議な力で水溜りの中のうさぎを手元へ引き寄せ再び操作している。
そのスマホは手元に戻る時に、画面の傷は修復され、泥ひとつ無い状態へと戻っていた。
「神の力を持ってはおらんが、外注のあやつなら、事情くらい知っておるはずじゃ……」
言い訳がましく操作しながらそう呟くが、これが演技であるならたいした演技力だ。
本当にそんな相手がいるのかどうか、まだ信じたわけじゃないけどな。
そして再び数コール後……。
「ワシじゃ! ガチャ神じゃ!!」
『おかけになった電話は、お客様のご都合により、お繋ぎする事ができません』
「なんでや! 着信拒否かっ!!」
「……無様だな」
ガックリと膝と両手を付くその姿は、さすがに哀れみを覚えた。
しかし、それ以外は振り出しに戻っただけだ。
「結局なんの進展もなく、信用するに足る情報もなかったな」
「ねぇ、ガチャ神様。相手はどういう人なの?」
「ワシの上司にあたる神と、仕事仲間じゃ……」
あぁ、そういえば前にもそんな話は聞いた事あったな。
だからといって、それらが全て本当であるという証拠にはならないが。
しかしカオリは信用する気か、もしくは口を滑らせて矛盾する発言をさせるためか……。
真意は分からないが、詳しく話を聞くようだ。
「その神様の事、教えてくれる?」
「別によいが……。上司は全知全能の神でな。
昔、人間とひと悶着あったらしく、地上を離れ天へと昇ったのじゃ。
そして、自ら手を出すのをやめ、代理にワシを置いて永い眠りについておったのじゃ」
「ん? 今電話しようとしてたし“眠りについておった”って過去形だとな。
今はそうじゃないんだな?」
「そうじゃ。おぬしをこちらへ転生させてしばらくした頃に、目覚めたようなのじゃ」
今の所矛盾らしい矛盾もなく、嘘か本当か判断に困る。
というか、昔にひと悶着あったとか、色々気になる事もあるけどな。
「えっと、どんな姿してるの?」
「全能じゃて好きに変えられると思うのじゃが、基本的には朱色の髪をした少年の姿じゃ。
だいたい15、6歳くらいの姿じゃな。長くもない髪を後ろでしばっておったな」
容姿をすらすらと説明できるのは事前に考えていたのか、もしくは神を名乗るだけあってその辺をでっち上げるのも造作もない事なのか……。
核心には迫れずにいる。
「……そうなんだ。それで、ガチャ神様は普段、その神様と一緒なの?」
「四月にこちらへ来るまではの」
「年末も……?」
「1月はこちらに来ておったが、それ以外は基本的に一緒じゃな」
「年末はなにをしてたの?」
カオリは何故か年末にこだわっているようだ。
俺には理由はわからないが、何かあるのだろうか。
「年末は忘年会をして、正月に向けて鏡餅をつくったのう。つきたての餅も堪能したのじゃ」
「神へのお供え物を作る神って……。っていうか、あの幻聴それだったのかよ!!」
年末にサンタの爺さん主催で行われた忘年会、その時に聞こえた餅をつく幻聴は、こいつらのせいだったらしい……。
というか話を聞くに、イベントを普通に楽しんでる様子がなんともいえないな。自由な神々だ。
「あのね、ガチャ神様の上司さんなんだけどね……。
その神様が、私をここへ連れてきてくれた人だと思うの」
「マジで!? っていうか、なんでそんな事わかるんだよ?」
「朱色の髪の男の子……。私がこの世界に来た時に、色々説明してくれた人が同じ姿だったの」
「なんじゃと!? いや、あやつなら可能ではあるのじゃが……」
確かに、この世界の成り立ちに関わった神がもう一人居たのなら説明は付く……かもしれない。
だが、世界を創った時期のズレなどは説明できない。いや、ただ俺が疑り深いだけかもしれないが。
「だからって、同じヤツとは限らないだろ?」
「まくま君も見てたよね? 私が初詣の時にお汁粉を持っていたの。
あのお餅って、その男の子に貰ったものなの」
「そんな事もあったな……、っておい! 普通に神様と会ってたのかよ!?」
「それは……、私もその人が神様だと思ってなくてね……。
こっちの世界の事を教えてくれる人ってくらいにしか思ってなくて……」
あぁ、つまり俺にとっての、カオリポジションの人だと思っていたわけか。
もし俺がそいつに会っていたなら、ゲームに存在しないキャラだから、不自然な事にすぐ気付いたんだけどな。
しかし、他の奴らとの関わりを持とうとしなかったカオリが“知り合い”に餅を貰う事に、多少違和感を覚えていたが、まさかその相手がガチャ神の上司だったとはな……。
いやでも、それでも話が噛み合わない。
たとえ餅という物証があったとして、この世界の成り立ちの件は未だに解決していない。
「じゃあ、ソイツがこの世界を10年前に創ったって事か?
そうなると、やっぱりガチャ神は嘘をついてるって事になるんだが」
「それは……、そうなっちゃうね……」
カオリと二人顔を合わせ、急に黙り込んだガチャ神を同時に見つめると、何やら少女はモジモジしていた。
「えーっと……、その……。もしかしたらワシ、勘違いしておったかもしれん……」
『カオリ尋問官、核心に迫った模様です!』
うむ、ご苦労。
「お前ら! なに着信拒否してるんだぜ!?」
『ほら、俺って部外者やん?
本文にずけずけ入っていくわけないやん?』
だってそのほうが面白そうじゃん?
「お前ら最低なんだぜ!!」
褒めるでない、褒めるでない。
『たぶん褒めてない』
「たぶんじゃなく、全然褒めてないんだぜ!!」
はいはい。
『せやなー』
「後書きのツッコミが、こんなに大変だとは思わなかったんだぜ……」
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