爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

420連目 ふたつのイベント

公開日時: 2021年1月11日(月) 18:05
文字数:2,969

前回のあらすじ

「イナバとクロが、本気の鬼ごっこをしてたのじゃ」


ガチャ神の今日のひとこと

「イナバをいじめると、会員権を剥奪されそうなのじゃ」

 鬼若が来るまでの間、クロにはオヤツを我慢してもらって、再びイナバとの練習試合バトルを行っていた。

しかし、先ほどの鬼ごっこが意外にも効果あったのか、今までよりはイナバの動きが良くなった気がする。

「実際に追いかけられるより、バトルで立ち向かった方がマシ」と思ってくれたなら成功だ。

もしかすると、ただやけっぱちになってるだけかもしれないな。


 うん、開き直りってのは時に必要だからね、どっちであっても、俺は良いと思うよ。

だからと言って攻めのバトルができるようになったわけじゃないので、勝てるようになるにはもう少し時間がかかりそうだ。



 そんな姿を見ていれば、学ラン姿の鬼若がやって来た。

鬼若も、イナバの様子には少し驚いてるみたいだな。


 なぜ鬼若土曜にも関わらず制服かと言えば、今日は学年末に行われる試験に向けた勉強会なんだそうだ。

クエスト等で呼び出されたりして、勉強が遅れている生徒への救済処置らしく、鬼若も参加して、留年などという事態は避けたいのだろう。

ちなみに鬼若は中等部であり、義務教育ではないのかと思っていたのだが、この世界では義務教育という概念が無かったようだ。


 考えてみれば、何歳で異世界から来訪者としてやって来るか分からないのだから、年齢で学年を決める訳にもいかず、ならば何歳であろうと、各人に合わせた教育レベルの学年に入れる必要があるのだろう。この辺も前世とは大きく違う所だね。


 俺が驚いたのは、そういった制度よりも、「勉強なんてナンボのもんじゃーい!」なんて言いそうだと思っていた鬼若が、実はマジメに勉強して、留年を回避しようとしている所だったけどね。

イメージと違って、意外にも脳筋タイプではなかったようだ。



「主様、お待たせいたしました」


「おう、お疲れさん。勉強会はどうだった?」


「なんとか、いい結果を残せそうです。それよりも、イナバさんはどうされたんですか?」



 妙に落ち着いた雰囲気の鬼若に少し違和感を覚えるが、とりあえず今は様子をみよう。

何かあっても、鬼若が自分から言い出すまで待つ、そう決めたんだし。


 それで、さっきまでやっていたクロとイナバの鬼ごっこの話をしてやれば、ブッっと鬼若は吹き出して肩を震わせている。

おおっぴろげに笑うのはイナバに悪いと思ったのだろうか。


 しかも、「主様もなかなか酷い事を思いつきますね」などと言われてしまった。うーん、ベルは良いアイディアだと、賛同してくれたんだけどなぁ。

いや待て、もしかすると最近ベル基準で物事を考えるようになってしまっているのではないだろうか。


 仮にもベルは悪魔なんだし、結構酷い仕打ちであっても、「イイネ!」で済ませている可能性はある。

その辺の判断基準は、鬼若に合わせる方が妥当かもしれないな。

勉強会の件もだが、鬼若は意外と常識人だしね。



「それじゃあベル、みんなのオヤツと、明日の買出し頼んでいいか?」


「承知いたしました」


「明日の買出しとはなんですか?」


「あ、鬼若には説明してなかったっけ? 明日は、料理教室を開こうと思ってるんだよ」


「最近仲良くなった獣人の子が居てね、その子の得意料理を、ベルさんが教わる事になってるの」



 カオリが足りない情報を補ってくれた。

といっても、俺や鬼若、プラスしてクロもだろうが、食べる専門になると思う。

なので、別段鬼若に詳しく教えておく必要もなかったんだけどね。



「そういう事だから、来て早々悪いんだけど、荷物持ち手伝ってやってくれ」


「えっ、俺も買出しに行くんですか!?」


「だってさ、ベル一人じゃ大変だろうから」


「まくら様に言われずとも、自身から申し出るくらいできぬものか……」



 ベルは呆れ顔だ。そんなベルに、俺は事前に用意してあった買うものリストとお金を渡す。

リストを書いている時に、結構な量になるだろうし、鬼若を付き添いで行かせようと考えたのだ。


 アイテムBOXがあれば荷物持ちなど必要ないのだが、所有権が自身にないものはアイテムBOXに入れられない。

だから、俺の代わりに買出しに行ってもらう場合は、どうしても手で持って帰る必要があるんだよね。


 俺が一緒に行けば問題ない話ではあるのだけど、ベルは「そんな雑用させられない」とかたくなに同行するのを嫌がるのだ。

俺も、その時間をイナバの特訓に当てたいし、それ自体は別にいいんだけどさ。

気を使われすぎていると感じるな。



「あと、クロのオヤツに、骨孫ホネガムを頼むよ」


「あっ! 一番大きいのをお願いしますねっ!!」



 オヤツという言葉に反応したのか、練習試合中だというのにクロがリクエストしてきた。

余所見できるとは、余裕なんだなぁ……。イナバ、もうちょっと頑張れ。


 そんなこんなで、ベルと鬼若を見送り、俺達は再び練習試合を眺めていたのだ。

まぁ、ほとんどの時間が魔力回復のために、イナバにもふもふされていたんだけどね。

その間はまだ平和だったな。帰ってきた二人の様子を見るまでは……。



「主様! 明日は、節分の行事を行うのですよね!?」


「えっ? 一応そのつもりではいたけど、どうしたんだ?」


「いえ、買うものを見て恵方巻の材料だと気付いたのですが、豆を買おうとしたら止められたんですよ!」


「豆など、リストにはなかったでしょう」


「お前もリストにないチョコを買ってたじゃないか! 太るぞ!?」


「我が自らの金で何を買おうと、勝手であろう!」



 なんだこの低レベルな争いは……。とりあえず、鬼若は落ち着け。

話を聞いてみれば、どうやらベルは節分を知らなかったらしい。

なので、鬼若が勝手に俺の金で余計な物を買おうとしたのを、注意したとの事だ。



「鬼若、俺が豆をリストに入れなかったのは、豆まきをする気が無いからだ」


「!? 主様、それが節分の一番大事な部分でしょう!?」


「いや、ほら……。豆まきって鬼を祓う行事じゃん? だからその……」



 ふと、その場に居る全員の目線が、鬼若の額のツノに集まる。



「なるほど、鬼を祓う行事であるなら、豆は大量に買わねばなりませんね。

 まくら様の“書き忘れ”に気付かぬとは、我もまだまだ未熟にございます」


「はぁ!? まさかお前俺を追い出すつもりじゃないだろうな!?

 主様の一番の契約者の座は渡さんぞ!」


「えっとだな、ベル。一応言っておくが、鬼には妖怪とか悪魔とか、そういうのもひっくるめて鬼と呼ぶ事があってな……。

 それに、マメを撒くのは、“する”っていう、言葉遊びという説もあるし……」


「さすがまくら様。悪魔であれ鬼であれ、来るものを拒まぬ姿を見せるため、豆を撒かない事にされたのですね。

 誰かにも、その懐の深さを見習って欲しいものですわ」


「ちょっ!? お前さっきと言ってること真逆だろ!

 主様、やはりコイツは信用なりませんよ!」



 うん、鬼若の言いたいことも分かる。

ここまで素早い手のひら返しには、俺も驚きを隠せないぜ。


 ほら見ろ、カオリがまた苦笑いしてるじゃないか。

イナバまで、いつもは鬼若達にビビりまくってるのに顔が引きつってるぞ。

ま、イナバにはSSR★7であっても、こういう“普通の奴ら”なんだと分かってもらえたならいいけど。



 それにしてもチョコレートか。そういえば、2月はそっちのイベントもあったなぁ。

俺は貰うだけだから関係ないけど、それを暴露されてしまって、ベルはさぞかしご立腹だろうなぁ。


 なんて悠長に構えていたが、後からカオリに衝撃の事実を突きつけられる事になるのだった。

秘儀! 光速手のひら返し!!


「衝撃波がひどいので、やめるのじゃ」


ところで、ガチャ神ちゃんは豆撒きしたい?


「片付けが大変じゃし、豆がもったいないのじゃ」


それじゃ、千葉式で落花生まこうか。


「拾って食べられるが、食べているうちに飽きそうじゃな」


それじゃぁ、リサイクルしてピーナッツチョコに加工しよう。


「ふたつのイベントを無理やり繋げんでもよかろうに…」


イベントは後で考えるとするか!

へへへ、どうしてやろうかな……。


「この邪神も、豆を撒いて祓うのじゃ」


誰が邪神だ。

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