前回のあらすじ
「迷子のまくらを探しに出たのじゃ。ふぁいんでぃんぐまくらじゃ」
ガチャ神の今日のひとこと
「ワシも本文での出番が欲しいのぅ……」
しかし寒くなったなぁ。そりゃもう11月も終わりなんだから当然か。
俺は空を飛びながらのんびりと考える。こういう時は慌てても仕方ない。
こんなに冷静なのは、これがゲームの世界だと割り切っているというのもある。
それ以上に、この程度のトラブルは、今までの人生でもそれなりにあったからだ。
まぁ、今回みたいに「うっかりボタンを押したら、人間ロケット発射装置だった」なんてのは、さすがに経験ないけどね。
しかし、こちらに来てから体感で4時間くらいだろうか。それなのにスマホに写る日付は、すでに11月だった。
俺が転生したのは10月の初旬だったように思うのだが、どうやらこの世界の時間の流れは前世とは違うらしい。
いや、それならこの世界基準の時計表示にして欲しかった所なんだけどな。
そんな事を考えながら空を散歩していると、どうやらアイテムの排出が終ったようだ。
う~ん、高度100メートルくらいはあるかなぁ? もちろん適当だ。高さの目測ができるほど俺は器用じゃないしな。ただ、結構な高さまで来ている事は確かだ。
遠くの山々が綺麗に見えるし、足元には広場から続く道と、その先にはアパートか、もしくは寮のような建物が並ぶ住宅地が見える。
ゲーム世界ではあるが、ゲーム設定が現代を舞台にしていたのもあって、普通に見慣れた街並みといった感じだ。
中央には噴水のある公園も見えるな。この宅地はなかなか生活環境は良さそうだ。
ふっと意識を残して、体だけが落ちる感覚にビクりとする。
ジェットコースターの最初の下り坂で感じるあれだ。ただし落ちる先にコースがあるわけではない。
言葉で表すなら「紐なしバンジー」である。
あー、こりゃ人間だったら潰れトマトの完成だな。
そんな不穏な想像に、一瞬ブルっと震える。
しかし、今はまくらだし、何より痛覚があるわけでもない。ただひとつの問題は、この体が衝撃に耐えらるかどうかだ。
さすがにこのまま落ちれば、ただでは済まないだろう。
俺は、スマホを操作していた側と逆のミミをピクピク動かしてみる。
「うん、いけそうかも?」
なんて誰に確認するわけでもないけれど、言葉にすれば少し安心感が出るものだ。
俺は四方のミミをピンっと伸ばし、風を全身で受け止める。
そう、モモンガのように滑空すれば多少ダメージを軽減できると考えたのだ。
ビュッと風を切る音と共に、滑らかに下る俺。目論見どおりだ。けれどひとつ、考えが足りない事があった。
もし俺が、モモンガに転生していれば問題なかったかもしれない。けれど俺は、手がちゃんと手として機能しない、まくらだったのだ。
それに気付いた時には、右手に握っていたつもりだったスマホは、眼下に広がる木々の中へと消えていった。せめて下に人が居て、落下物で怪我をしたなんて事が無いことを願おう。
順調に滑空で高度を落とし、速度も風の受け方を変えれば若干落とせた。
やってみると意外となんとかなるもんだ。これなら3階から落ちた程度の衝撃で済みそうだ。
人間であれば、それでも助からないだろうけどね。
そんな事を考えつつ、木々の間から見える道を目指す。
獣道ほどではないが、除草されただけの道だ。遊歩道かな?
泥だらけになるだろうが、硬い舗装された道よりは、ずっとダメージが少なく済みそうだ。
「まくら選手! 今華麗に着地します!」
なんて脳内実況を楽しもうとしていたその時、下にある人影に気付いた。
黒い髪を頭の後ろで束ねた女の子だ。長袖長ズボンだが、ズボンからは黒く短い尻尾が見えた。
束ねている髪も短く、その髪型はハムスターの尻尾を連想させる。
身長から考えて、小学生の高学年か、小柄な中学生といったところだろうか……。
このままではぶつかってしまうので、俺は体勢を変えて、女の子の上を通り過ぎてから着地する事にした。
「んっ? 何か落ちてきますぅ~!」
俺を見つけたその子は、誰か連れが居るでもないのに、そう言って俺を追いかける。
う~ん、まいったな。まさか人に見付かるとは想定外だ。
さすがにここで拾われて、「やぁ! ぼくは喋る不思議なまくらなんだ!」なんて言ったら、この子は夜寝る時に、怖くてまくらを使えなくなるか、逆に「まくらちゃんおしゃべりしよ~」なんて言い出す、不思議ちゃんになってしまう。
ぬいぐるみならまだ救いはあっただろうが、さすがにまくら相手だと親が心配するだろうな。
仕方ないのでここは“空から降ってきただけの不思議なまくら”でいることにしよう。
俺は滑空の体勢から力を抜き、単なるまくらを演じるが、それとは対照的に普通の女の子だと思われたその子は、手を地面に付き、四足歩行で駆けて来た。
そして俺の目前でジャンプし、俺をガブリと口に咥えたのだった。
この運動神経、オリンピック種目にパン食い競争があれば、金メダル確実だろう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
……とそんなわけで、その少女に齧られたまま野山を駆け回っているわけです。
ながっ! 暇だからって手紙風に回想したけど、俺の回想長すぎ!?
まぁ、実際のところ、あのガチャ神に手紙を書くつもりもないし、もしかしたら俺の事ずっと見てるかもしれないよな。なにせ俺は“実験動物”らしいし、実験対象の観察はしているだろう。
あ、もし俺の声が届いているなら、もうちょっと動きやすい体が欲しいです!
さすがに手も足も出ないまくら姿は、不便すぎるんだよなぁ。
と、長い長い回想と神頼みをした所で、俺を咥えた少女は目的地へと着いたようだ。
「ごしゅじ~ん! へんなもの見つけましたぁ~!」
やって来たのは、上空から見ていた噴水のある公園。
公園に入るやいなや、四足歩行から二足歩行に進化し、俺を左腕で抱え、右手はぶんぶんと振りながら、彼女の“ごしゅじん”に声をかけた。
その“ごしゅじん”というのは、噴水の前に立つ少女のようで、服装はブレザーとスカート。
背格好は、少女や女の子と呼ぶには少し大人びていると感じる。
まぁ、いまどきは「女の子」を自称する成人女性も多いし、女の子呼びでいいか。
端的に言えば、制服っぽい装いからして、女子高生だと思う。
少し赤みの乗った暗めの茶髪で、肩に掛かるかどうかくらいの長さに切りそろえられている。
顔は地味めなものの、可愛らしさがあり、どことなくハーフかクオーターのような雰囲気がある。
でも、この異世界人が居る世界なのだから、外国系の血筋の人が居ても不思議ではない。
というか、純日本人のような人のほうが少ないかもしれないな。
俺を拾った少女も尻尾があったわけだし、人と獣人のハーフなのかも。
“ごしゅじん”と呼ばれた彼女は、少女の姿を見ると駆け寄って抱きしめる。
「よかった、無事だったのね。警報が出たから、すぐに避難するよ!」
警報? 避難? 空は晴れ渡り、大雨などの警報ではなさそうだ。
いったい何があったのだろうか? 海が近くて津波警報とか? 空から海は見えなかったけど。
俺は、そんな事を二人の少女の間に挟まれながら考えていた。
出番が無いのなら作ればいいじゃない。
「出番は欲しいが、神の力を安売りしたくないのじゃ」
複雑な神心なのかー。
「それよりもずっとここにおるが、他の仕事せんでええのかのぅ?」
俺ってば、一応全知全能なのでー、なんとかなるんですよー。
「意外とやる事はやっておるのか」
まぁ、やってないんだけどね?
「やっとらんのか……」
さてと、そういえば本編の話してないんだけどさ……。
「あっ、ごまかそうとしておるな?」
チッ……。感想などもお待ちシテマース。
「やっぱりごまかそうとしておるな??」
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