爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

490連目 悔いなき選択を

公開日時: 2021年1月15日(金) 12:05
文字数:2,693

前回のあらすじ

「まくらも契約主の使命を果たそうと、がんばっておるのじゃ」


ガチャ神の今日のひとこと

「ワシも昇進に向けて頑張らんとのぅ……」

 ひとしきり泣いて、少し落ち着きを取り戻した鬼若は、観念したように秘密を吐き出す。

その様子は、いつもの覇気をどこかへ置いてきてしまったような……。

いや、最近はずっとどこか元気が無かったな。


 その抱えていた問題といえば、俺にとっては些細な事だ。

しかし、えてして問題というものは、周囲には小さな事でも、本人にとっては一大事だったりするもんだ。



 鬼若のバグが修正され、強化されたメンテナンス。つまり俺がこちらの世界にやって来た日のメンテナンスだな。

それによって鬼若は必殺技アクティブスキルが強くなり、その強さは属性相性すらも覆すものだった。

実際に、ベルやサンタの爺さんとのバトルで、相性最悪にも関わらず勝利を収めているのだから、大幅強化なんていう表現では足りないくらいだ。


 しかし、その超大幅強化が、本来運営の意図した状態でなかったなら?

 それを聞かされた鬼若は、何を思う?


 ゲームであれば、キャラクターに意思はない。どんな強化も弱体化も黙って受け入れるだろう。

そのキャラクターを使っているプレイヤーは、文句の一つや二つ……、どころではないレベルのクレームを入れるだろうけども。



 だが、残念な事に、この世界はもうゲームではない。

キャラクターは意思も感情も持ち、強化に喜び、弱体化に悲しむ。

そして、学園運営局うんえいを恨むだろう。


 けれど鬼若は、強化に喜びはしたが、それが行き過ぎた強化だという事実を知っても、学園運営局うんえいを恨むことも、ただ悲しみに暮れることもなかった。

たった一つ「俺の力になれなくなる」ただそれだけを恐れたというのだ。



「で、カオリはこの事を知っていたんだな?」


「うん……。

 サンタのお爺さんセイヤさんとバトルになったときに、鬼若君のスキルを見たのね。

 そしたら、ダメージの数字が白抜きになってて、おかしいなって……」



 ダメージの数字といのは、学園運営局うんえいが公正にジャッジしている事を示すための数字だ。

誰から見ても数字を確認すれば、一方に忖度することなくバトルが行われていると判断できる。

……という事に、こちらの世界ではなっている。まぁ、元プレイヤーであった俺には思うところはあるが、そういう事にしておこう。

そして、その数字は、属性攻撃ならば属性に対応した色で表示される。その数字が白ならば、無属性攻撃と判断できるわけだ。


 鬼若の必殺技アクティブスキルは自属性、つまり属性であると、スキル説明欄にある。つまり、本来ならば赤い数字で表示されなければならない。

本来の属性が乗った状態で攻撃していたのなら、属性であるベルや、サンタの爺さんに勝てたかどうか……。



「鬼若君を責めないで。私が気付いたんだから、ちゃんとまくま君に言うべきだったの……」


「別に責める気は無い。このこと自体は、学園運営局うんえいの不手際だろ?」


「そうだけど……。不具合を隠していた場合、契約主が処罰されるから、本当ならすぐに言うべきだったの……」


「……そうか」



 契約者が起こした問題は契約主にも責任が及ぶと、前にカオリが教えてくれていたっけな。

ならば俺は鬼若を叱るべきなんだろう。

けれど、鬼若の心情を考えれば、隠しておきたいという気持ちも理解できる。

今まで最弱と言われていて、やっと掴んだ強さだ。誰しも手放したくはないだろう。



「それで、鬼若が気付いたのはいつだ?」


「カオリ様に指摘されたので、12月です……」


「2ヶ月も前か……。いずれバレるとは思わなかったのか?」


「…………」



 尋ねはしたが、鬼若が隠し通すために色々と考えていた事に、俺は気付いている。

俺を連れて歩く事がなくなったのも、その一つだ。

万一バトルになったなら、最も近くの契約者を出す事になるだろう。

ならば、俺をベルに任せておけば、ベルが出ることになり、鬼若がバトルに参加する可能性は下がる。


 神社の掃除に行った時だってそうだ。

クロと共に先行することで俺との距離を離し、さらにバトルになりそうな相手を見つけたならば、先にバトル以外の方法で排除するつもりだったのだろう。

クエストにはバトルが付きものだと、セルシウスも思ってたくらいだ。

鬼若が、それを予想しなかったとは考えにくい。実際は、バトルにはならなかったようだけどね。



 つまり、鬼若は隠し通すつもりだったのだろう。

けれど、そうだとするならば、鬼若が本当に強さに固執していたのかが疑問だ。

バトルを避けるなら、強くある必要は無い。


 確かに使い道はなくとも、強い武器を持っているなら威嚇にはなる。

けれど、鬼若は威嚇に使えるほど周囲の評価が高くない。

未だにSSR★7最弱と思っている奴も多いみたいだし。


 分からない。俺が鬼若の立場ならどう考えるか……。

そうやって頭を働かせても、ただのクマさんまくらには到底理解できない。



「まぁいい。けど、俺も知ってしまったからには、何もしないわけにはいかない」


「はい……」



 分からない。ならば、本人に決めさせないといけない。

いや、元より俺は、最も残酷な選択を迫ることを、最初から決めていたのかもしれない。



「鬼若、どちらかを選べ」



 示した二択、それが鬼若にはどちらも苦しい事は理解している。


・ひとつ、この事を報告せず、俺の元を去る。

・ふたつ、俺と共に学園運営局うんえいに報告に行く。


 鬼若は、結論を出す事ができるだろうか。



「まくま君! そんなの二択になってないじゃない!」


「カオリ、俺は鬼若に聞いてるんだ」


「でもっ……! 契約の解除なんて、選べるわけ……」


「鬼若なら、どちらも選べるはずだ。

 お前は、俺と出会う前から強さを求め続けていたよな。

 ならば強さと、その代償も解っているはずだ。

 どちらもなんていう、ムシのいい話はナシだ」



 これは鬼若本人が決めなければいけない。


 俺は、いつも俺の事は俺自身で決めてきた。

たとえそれが、過労死に繋がる道だったと後で気付いても、自分で決めた事だから後悔は無いと言える。

いや、ちょっとくらいは後悔はある。けれど、それでも「仕方ない」と諦められたのは、俺が決めたことだからだ。

それがもし他の誰かに決められたことだったら、きっと俺はそいつを恨み、転生ではなく自爆霊にでもなっていただろう。



 だから俺は、鬼若にも後悔がないように、せめてどんな結末になったとしても、最後は納得できるように。

自分自身で考えて、結論を出して欲しいと思う。



「一週間待つ。お前の人生だ、俺に遠慮した結論なんて、俺は要らない。

 だから後悔しないように、よく考えるんだ」



 本当なら二択になんてしたくなかった。選択肢を狭めた事で、俺の意見が入ってしまうから。

けれど、今の鬼若の姿を見ていると、昔の俺と被ってしまうんだ。

どうやったって抜け出せない、思考の迷路を彷徨っていた、若造の俺と……。



「主様……。俺は――」


鬼若のスキル説明文とか、覚えてる人居ないでしょ。


「ちゃんと50連目に書いておるぞ?」


もはや懐かしさを感じるな……。44回も前か……。


「数字が狂っておる所もあるから、もう少し前じゃ」


しかし、1月章から長く続いた日常回がこうなるとは……。


「おぬしは知っておったのじゃろう? だから豆をチョコに入れるなどと言っておったんじゃな?」


ガチャ神ちゃんも気付けるようになったか~。感心感心。


「まさか、それすらも研修の一環!?」


全ては、ガチャ神ちゃんのキャリアアップのためなのさ。


「本当かあやしいもんじゃがのう……」


ソ、ソンナコトナイヨー?

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