前回のあらすじ
「まくらも契約主の使命を果たそうと、がんばっておるのじゃ」
ガチャ神の今日のひとこと
「ワシも昇進に向けて頑張らんとのぅ……」
ひとしきり泣いて、少し落ち着きを取り戻した鬼若は、観念したように秘密を吐き出す。
その様子は、いつもの覇気をどこかへ置いてきてしまったような……。
いや、最近はずっとどこか元気が無かったな。
その抱えていた問題といえば、俺にとっては些細な事だ。
しかし、えてして問題というものは、周囲には小さな事でも、本人にとっては一大事だったりするもんだ。
鬼若のバグが修正され、強化されたメンテナンス。つまり俺がこちらの世界にやって来た日のメンテナンスだな。
それによって鬼若は必殺技が強くなり、その強さは属性相性すらも覆すものだった。
実際に、ベルやサンタの爺さんとのバトルで、相性最悪にも関わらず勝利を収めているのだから、大幅強化なんていう表現では足りないくらいだ。
しかし、その超大幅強化が、本来運営の意図した状態でなかったなら?
それを聞かされた鬼若は、何を思う?
ゲームであれば、キャラクターに意思はない。どんな強化も弱体化も黙って受け入れるだろう。
そのキャラクターを使っているプレイヤーは、文句の一つや二つ……、どころではないレベルのクレームを入れるだろうけども。
だが、残念な事に、この世界はもうゲームではない。
キャラクターは意思も感情も持ち、強化に喜び、弱体化に悲しむ。
そして、学園運営局を恨むだろう。
けれど鬼若は、強化に喜びはしたが、それが行き過ぎた強化だという事実を知っても、学園運営局を恨むことも、ただ悲しみに暮れることもなかった。
たった一つ「俺の力になれなくなる」ただそれだけを恐れたというのだ。
「で、カオリはこの事を知っていたんだな?」
「うん……。
サンタのお爺さんとバトルになったときに、鬼若君のスキルを見たのね。
そしたら、ダメージの数字が白抜きになってて、おかしいなって……」
ダメージの数字といのは、学園運営局が公正にジャッジしている事を示すための数字だ。
誰から見ても数字を確認すれば、一方に忖度することなくバトルが行われていると判断できる。
……という事に、こちらの世界ではなっている。まぁ、元プレイヤーであった俺には思うところはあるが、そういう事にしておこう。
そして、その数字は、属性攻撃ならば属性に対応した色で表示される。その数字が白ならば、無属性攻撃と判断できるわけだ。
鬼若の必殺技は自属性、つまり火属性であると、スキル説明欄にある。つまり、本来ならば赤い数字で表示されなければならない。
本来の属性が乗った状態で攻撃していたのなら、水属性であるベルや、サンタの爺さんに勝てたかどうか……。
「鬼若君を責めないで。私が気付いたんだから、ちゃんとまくま君に言うべきだったの……」
「別に責める気は無い。このこと自体は、学園運営局の不手際だろ?」
「そうだけど……。不具合を隠していた場合、契約主が処罰されるから、本当ならすぐに言うべきだったの……」
「……そうか」
契約者が起こした問題は契約主にも責任が及ぶと、前にカオリが教えてくれていたっけな。
ならば俺は鬼若を叱るべきなんだろう。
けれど、鬼若の心情を考えれば、隠しておきたいという気持ちも理解できる。
今まで最弱と言われていて、やっと掴んだ強さだ。誰しも手放したくはないだろう。
「それで、鬼若が気付いたのはいつだ?」
「カオリ様に指摘されたので、12月です……」
「2ヶ月も前か……。いずれバレるとは思わなかったのか?」
「…………」
尋ねはしたが、鬼若が隠し通すために色々と考えていた事に、俺は気付いている。
俺を連れて歩く事がなくなったのも、その一つだ。
万一バトルになったなら、最も近くの契約者を出す事になるだろう。
ならば、俺をベルに任せておけば、ベルが出ることになり、鬼若がバトルに参加する可能性は下がる。
神社の掃除に行った時だってそうだ。
クロと共に先行することで俺との距離を離し、さらにバトルになりそうな相手を見つけたならば、先にバトル以外の方法で排除するつもりだったのだろう。
クエストにはバトルが付きものだと、セルシウスも思ってたくらいだ。
鬼若が、それを予想しなかったとは考えにくい。実際は、バトルにはならなかったようだけどね。
つまり、鬼若は隠し通すつもりだったのだろう。
けれど、そうだとするならば、鬼若が本当に強さに固執していたのかが疑問だ。
バトルを避けるなら、強くある必要は無い。
確かに使い道はなくとも、強い武器を持っているなら威嚇にはなる。
けれど、鬼若は威嚇に使えるほど周囲の評価が高くない。
未だにSSR最弱と思っている奴も多いみたいだし。
分からない。俺が鬼若の立場ならどう考えるか……。
そうやって頭を働かせても、ただのクマさんまくらには到底理解できない。
「まぁいい。けど、俺も知ってしまったからには、何もしないわけにはいかない」
「はい……」
分からない。ならば、本人に決めさせないといけない。
いや、元より俺は、最も残酷な選択を迫ることを、最初から決めていたのかもしれない。
「鬼若、どちらかを選べ」
示した二択、それが鬼若にはどちらも苦しい事は理解している。
・ひとつ、この事を報告せず、俺の元を去る。
・ふたつ、俺と共に学園運営局に報告に行く。
鬼若は、結論を出す事ができるだろうか。
「まくま君! そんなの二択になってないじゃない!」
「カオリ、俺は鬼若に聞いてるんだ」
「でもっ……! 契約の解除なんて、選べるわけ……」
「鬼若なら、どちらも選べるはずだ。
お前は、俺と出会う前から強さを求め続けていたよな。
ならば強さと、その代償も解っているはずだ。
どちらもなんていう、ムシのいい話はナシだ」
これは鬼若本人が決めなければいけない。
俺は、いつも俺の事は俺自身で決めてきた。
たとえそれが、過労死に繋がる道だったと後で気付いても、自分で決めた事だから後悔は無いと言える。
いや、ちょっとくらいは後悔はある。けれど、それでも「仕方ない」と諦められたのは、俺が決めたことだからだ。
それがもし他の誰かに決められたことだったら、きっと俺はそいつを恨み、転生ではなく自爆霊にでもなっていただろう。
だから俺は、鬼若にも後悔がないように、せめてどんな結末になったとしても、最後は納得できるように。
自分自身で考えて、結論を出して欲しいと思う。
「一週間待つ。お前の人生だ、俺に遠慮した結論なんて、俺は要らない。
だから後悔しないように、よく考えるんだ」
本当なら二択になんてしたくなかった。選択肢を狭めた事で、俺の意見が入ってしまうから。
けれど、今の鬼若の姿を見ていると、昔の俺と被ってしまうんだ。
どうやったって抜け出せない、思考の迷路を彷徨っていた、若造の俺と……。
「主様……。俺は――」
鬼若のスキル説明文とか、覚えてる人居ないでしょ。
「ちゃんと50連目に書いておるぞ?」
もはや懐かしさを感じるな……。44回も前か……。
「数字が狂っておる所もあるから、もう少し前じゃ」
しかし、1月章から長く続いた日常回がこうなるとは……。
「おぬしは知っておったのじゃろう? だから豆をチョコに入れるなどと言っておったんじゃな?」
ガチャ神ちゃんも気付けるようになったか~。感心感心。
「まさか、それすらも研修の一環!?」
全ては、ガチャ神ちゃんのキャリアアップのためなのさ。
「本当かあやしいもんじゃがのう……」
ソ、ソンナコトナイヨー?
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