爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

970連目 まくらの願い

公開日時: 2021年2月8日(月) 18:05
文字数:2,518

前回のあらすじ

『ガチャ神でさえ、いいように使われる駒でしかなかった……?』


外注さんの今日のひとこと

『詐欺のテクニックを見た気がする』



「……酷い事言ってるのは分かってる。

 ……けど私たちが考えないといけないのは、これからの事。

 ……この世界に居るべきでないあなた達を助けるのが、私にとって最優先すべき事」



 アイリは自らが悪役を演じることで、ガチャ神と俺を取り持つつもりだ。それが分からない俺ではない。

そしてそれは、この世界の終わりが避けようがない事がはっきりしたという事だ。



「この世界は……、助からないんだな?」


「……えぇ、残念だけど。

 ……どこを探しても、アカウントデータは見つからなかった」


「そうか……」



 ため息に似た言葉が漏れた。そして、長い長い沈黙が小さな社の中に鎮座する。

雨は降り続き、雨音に耳を澄ますかのように、誰も言葉を発しなかった。

そして、その沈黙を破ってくれる新たな来客も、誰も気にも留めないこの小さな神社に、訪れる事はなかった。



 世界の存続は望めず、アイリは予定通りにこの世界ゲームを終わらせる事にした。

というよりは、いち社員でしかないアイリでは止められないのだろう。


 そしてその中に異物である俺とカオリ、そしてガチャ神をどうするか、それが問題なのだ。

そこには局長達という、本来存在しないキャラクターどころか、鬼若やベル、そしてクロのような者達ですら、助けたいという想いなどありはしない。



「ガチャ神様、俺の願いをひとつ叶えてくれるってのは、嘘じゃないよな?」


「もちろんじゃ! ワシは嘘などつかんぞ!? できる事は限られておるがな」


「そうか……。それなら、カオリを元の世界へ返してやってくれ」


「えっ……」



 突然の事にカオリは、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。

俺が一つ願いを叶えてもらえるという話も聞いていなかったのだから、当然か。



「前にガチャ神様と約束しててな。叶えられる事なら、願いをひとつ聞いてくれるんだ。

 だから、カオリは元の世界へ帰るんだ」


「ちょっと待ってよ、まくま君はどうするつもり……?」


「アイリが調べてくれた通りだ。

 元々死んだ人間なんだからな、帰る場所なんてないんだよ」


「だからってダメだよ! 帰るなら二人一緒に……」


「叶える願いはひとつ。二人一緒というのはナシじゃ。

 なにより、ワシの力では一人転移させるのがやっとじゃしのぅ……」


「そんな……」



 カオリは、やり場のない思いを言葉にできなかったのか、そのまま黙って俯いてしまった。

しかし、俺は一つ懸念する事があった。



「なぁ、ガチャ神様。できれば、カオリに仲のいい家庭を用意してやって欲しいんだが……」


「むぅ、それでは願いが二つになってしまうが……、まぁよいじゃろう。

 返した後またすぐに転移を望まれては、願いを叶えたとは言い難いしのぅ。

 オマケしてやるのじゃ」


「ありがとう。助かるよ」


「私……、帰らない! 私だけが助かるなんて、そんなのダメだよ!」



 そう叫ぶカオリの目には、涙が溢れていた。

10年もこちらに居たのだ、そう言うだろうと予想していた。

だからこそ……、俺は突き放さなければならない。



「むぅ……。こう言っておるが、どうするのじゃ?」


「ガチャ神様はさ、願いを叶えてくれるんだよな?」


「そうじゃが……。おぬしまさか」


「俺の願いは変わらない。カオリがどう言おうが関係ない」


「そんな……」



 その言葉にはカオリも反論しようがない。俺の願いを俺が勝手に決めただけ、それだけなのだ。

カオリはへたり込み、どうにか俺を心変わりさせる方法はないかと考えているようだった。



「……本当にそれでいい?」


「アイリも反対か?」


「……いえ、けど本心が聞きたい」


「あぁ。元々この世界に来たのも、それこそオマケみたいなもんだしな。

 ガチャ神様と共に、世界の終わりとやらを見守る事にするよ」


「……そう」



 その二文字に、アイリのどのような想いがこもっているのかは分からない。

けれど、俺にとっては行く先を決めた、今はそれで十分だった。

だが、全ての気がかりが無くなったわけではない。



「俺とカオリはそれでいい。

 ガチャ神様も、一応神様だし、まさか巻き込まれるなんて事はないよな?」


「一応は余計じゃ!」


「あ、悪い悪い。それで他の奴ら、つまり元々のゲームキャラなんだが……」


「……助けたい?」


「いや、ガチャ神様へのは使っちゃったしな。

 助けられないのは心苦しいが、それ自体はどうしようもない」


「ワシが一人前の全知全能神なら、どうにかできるんじゃがのう……」



 そうは言うが、少女姿の神様に悪びれる様子はない。

もちろん俺も責めるつもりもないが。



「誰しも出来る事と出来ない事はあるし、仕方ないさ。

 ただ……、何も知らされず最後を迎えるのは、いかがなものかと思ってな」


「……まさか世界ゲームの終わりを知らせるつもり?」


「ダメか?」


「……得策とは言い難い。……多分混乱するだけ。

 ……それに、誰だっていつ最後になるか分からず生きてる。

 ……だからこそ、生きていける」


「意外にも哲学的な答えだな。

 ま、確かに俺も、まさか自分が過労死するとは思ってもみなかったしな」



 だが、それでも分かっているのに教えないというのは、俺の良心が痛むのだ。

それがただの自己満足であっても。



「カオリはどう思う?」


「……私に聞かないでよ」


「そうか」



 皆を見捨てて自分だけが助かる。そんな風に考えているのか、カオリは意見する事すらない。

けれど俺は、アイリや、もちろんガチャ神ではなく、カオリの想いを聞きたかった。

長い間この世界で暮らし、そしてこの世界の者達と、避けてはいたようだが、それでも多くの関係を築いてきたカオリの意見こそ聞きたかったのだ。



「今日はここまでにしよう。ガチャ神様、カオリの転移は後日改めて頼むよ。

 あと……、つっかかって悪かった。

 全部信じた訳じゃないし、局長達の事は正直まだひっかかってる。

 けどカオリの事を頼む以上、俺は神様ってのを信じるよ」


「ワシは寛大な神様じゃて、水に流してやっても良いのじゃ」


「……元は神様のせいだけどね」


「ぬっ!? それを言うでないわ!!」



 アイリにダメ出しをされて頬をふくらませるその姿は、見た目の歳相応に思えて少し微笑ましい。

そんな和やかな空気にも、カオリは空模様と同じく、表情を曇らせたままだった。



「カオリ、落ち着いたらまた話し合おう」



 けれどその言葉に対する答えは返ってこなかった。

『ガチャ神ちゃんの叶えられる願いって、どの辺までなんやろね?』


転生・転移はできるけど、一回につき一人だけだね。


『一方通行な神様が多い中、双方向にできるのは意外と優秀やん?』


「それはどこの世界の神様の話なんだぜ??」


『もちろん“なろう界”のハナシ』


「??」


局長は、そのあたりの話は認知できないから分からないな。


『あ、メタレベルが局長と俺達では違うんや?』


ある意味、まくらも世界をゲームだと認識できてるから、メタレベル高め。


「話においてけぼりなんだぜ……」

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