森での初戦闘を無事勝利を収めた俺たちは、森の恵みとやらを収集していた。
その間もゴブリンやオークに何度かバトルを挑まれたが、どれも軽くあしらってしまうのだから、やはりSSRは偉大だと再認識させられる。
そんなベルを侍女扱いしているのはいかがなものか……。
いや、侍女兼、秘書兼、ボディーガードだという事にしておこう。
そんなベルは、器用に羽衣を操作し、木の上のほうに実る果物や、飾りつけに使う枝を取りながら、チヅル達との会話に花を咲かせている。
鬼若とはあまり仲良くできないから、もしかして気難しい性格なのかと思っていたが、そういうわけでもないらしい。
「チヅルは、まくら様と契約して長いのですか?」
「えぇ。まくら様にとっては、私が初めてのRだったそうです。
実は、鬼若君よりも長い付き合いなんですよ」
「そういやそうだったな。最初はチヅルを回復できるキャ……、人がいなくてさ、チヅルのスキルが全然発動しなかったんだよな。あれは苦労したな」
「えぇ、ご不便をお掛けしました。
ですので、セルさんが契約されてから、やっと活躍の機会ができると喜んでいたのですよ」
「えー? そうなの?? ボクって、くらちん達には救世主だったワケ!?」
「えぇ、そうですよ。おかげで、バトルが非常に楽になりましたもの」
三人は和気藹々と昔話に花を咲かせる。意外とベルってこういう話好きなのか?
それは俺がゲーム内で知る情報と、それ以外の出来事が無理やり混ざった様な話だ。
「そうなのですか。それからは、お二人でずっと?」
「鬼若(ニィ)ちゃんが契約したのも、ボクとそんなに変わらない頃じゃなかったっけ?」
「えぇ。さほど間を空けずに、行動を共にするようになりましたね」
「でもさー、最初の頃の鬼若(ニィ)ちゃん怖かったよねー」
「そうですね。あまり集団で行動した事がなかったようですし、慣れなかったのでしょう」
「何か問題でも起こしたのですか?」
「んー……、色々あるけどー。とりあえずくらちんの指示を聞かなかったよ」
「まるで、まだ野良でいるような振る舞いでしたね」
「それが今じゃねぇ……? くらちんにベッタリなんだもん」
口ぶりから察するに、二人の鬼若に対する印象は良くなかったようだ。
けれど徐々に二人にも、そして俺とも打ち解けられるようになったみたいだ。
「鬼若の噂は色々耳に入っていたのですが、あのような変貌ぶりは驚いているのですよ。
もしや、我は偽情報を掴まされたのでは、そう思うくらいに」
「んー? 変わったのは変わったよね。ボクたちにとっては良い方向に」
「最初は、バトルの陣形もずっと前衛に張り付いていて、まくら様の下がるようにとの指示を無視して、何度もやられていましたね。
そんな身勝手な行動すらも、まくら様は『その戦い方が鬼若の譲れないものなら止めない』なんて言ったものですから……。
娘を持つ私としては、なんて甘く、躾を放棄した考え方かと憤ったくらいですよ」
「俺、そんな事言ったのか……? 心配かけたみたいだな、スマン」
「いえ、あれは鬼若君の性格を考えての事だとすぐに分かりましたわ。
その後は指示を聞くようになりましたもの。
あの年頃の男の子には押し付けるのではなく、指示に従うべきかどうか、自分で考えるよう諭す方が効果的なのでしょう」
なんかいい話になっているようだ。けれど、実際にゲームを操作していた俺は、鬼若の運用法を分かっておらず、とりあえず火力重視でずっと前衛をさせていただけだった。
鬼若が必殺技を放つとHPが減少するのだから、一旦後衛に下げてセルシウスのスキルで回復を待つと言う戦法に気付くまでの話だが。
それがこちらでは都合のいい、本当に都合の良すぎる話になっている。
そのほうがありがたいけどさ。
「それで、まくら様に忠誠を誓うようになったのですね」
「んー? ちょっと違うかなー? 指示は聞くけど、嫌々な所あったよねー?」
「本当の意味で、まくら様を主と認めたのは、去年の今頃くらいかと思いますわ」
「なんかあったっけ? ずっと鬼若を入れた、三人でクエストは回ってたけど」
「さー? それはわかんないなー。ちづるん知ってる?」
「……。関係あるかはわかりませんが、お父様が鬼若君に『なぜサンタをやっているか』を聞かれたと言ってましたわ。
お父様は『役目だからとか、期待されてるからとかじゃない。これが俺のやりたいことで、それは何があっても譲れないものだからだ』なんて格好付けた事を言ったそうですの。
ちょっと良いこと言いたかっただけらしいのですが、その話を真に受けた鬼若君が、まくら様に反発して勝手な事をやるんじゃないかと心配して、私に様子を聞いてきたのですよ」
「あー、あの頃の鬼若(ニィ)ちゃんなら『サンタが己の心に従えって言ってた!』とか言って、暴走しても不思議じゃないかもねー?」
「ですが逆に、その後の鬼若君は非常に従順になりましたね。
どいう心境の変化かは、私にもわかりませんが」
そういや鬼若って、喫茶店で爺さんの話聞いた時スゲー怖い顔して怒ってたっけ?
クロのドス黒いオーラにびっくりして忘れてたけど。
もしかすると、鬼若にとってサンタの爺さんは特別な存在なのかもしれないな。
その時、冷やりとした感覚と、鋭い視線を背中に感じた。
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