爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

堀口涼河の見る世界 [9]

公開日時: 2021年4月19日(月) 18:05
文字数:2,667

のどかだ……非常にのどかな田舎景色だ。夕日が西の山へと沈んでいく。

稲穂の揺れる様は、黄金の海を眺めているようだ。



「ってそうじゃねぇ!! なんで地下に田園風景が広がってるんだよ!!」


「なんでって、用意したからだよ?」


「いやそうでもなくてだな……。いや地下なのに空が見えるのっておかしいよな!?」


「天面がスクリーンになっていて、いわば夕方の風景を写す、プラネタリウムみたいなものですわ」



 なるほどなるほど。これはいたって普通の事だと言いたいわけだな?

いやいや、おかしいのはそこだけじゃないからな!?

田畑だけじゃなく集落を作れるほどに広い空間もおかしいからな!?

ぱっと見た感じ、端まで数キロはありそうなんだから。



「じゃぁ、なんでこんなに広いのに柱一つないんだ?」


「そりゃドーム型になってるからね。アーチ構造の強さの話、する?」


「いや、理屈がそうであっても、この広さは異常だろ!」



 ポカンとした顔で、理解度の低い生徒を見る先生のような、さも俺が残念な頭をしているかのような反応だ。

もしかして、見えてるものもスクリーンに映っているだけで、本当は結構狭いのだろうか?



「この部屋……いや、部屋と言っていいのか微妙だが、広さはどれくらいあるんだ?」


「直径5キロくらいの円形だねぇ」


「やっぱ無理だろ!?」



 あまりに現実離れしすぎた、まだ現実的な目の前の様子に、少しばかり頭痛がしてきた。

頭を押さえる俺を尻目に、ふたりは何かこそこそと話ている。



「やっぱ、説明に無理があったかな?」


「えぇ。一般公開前に気付けてよかったですわ」


「お前ら、これを他のヤツに見せるつもりだったのか……?」


「もちろん。ここで働いてもらう人員も必要ですし、いずれはそのつもりでしてよ」



 ホントに事前にツッコミが入ってよかったと思う。

こいつらが一般人の常識から外れているのは知っていたし、この地下街は普通の場所じゃないのも分かっていた。けれどこれをこのまま公開すれば、変だと思う人が続出してしまっただろう。


 ともかくこの施設については、行動できる範囲を制限してそれ以外はスクリーンに映った景色だという事にするそうだ。

それなら映像技術がすごいってだけで、実際に広すぎる事に気付かれる事もない……のか?

俺は知らん! 下っ端だからね、そういうのは上の人が考えてくれ!



「ともかく、ここは農業研究所ですの」


「研究所のわりには原始的というか、あんまりハイテク感ないよな」


「ふふん! これは飾りなんだよっ! 本当の研究所はこっち」



 そう言って指し示すのは、右手にある木造の大きな小屋だ。

赤くゆるいカーブをえがく屋根が、なんだか北海道の牧場にありそうな雰囲気をかもし出す。

いや、どう見ても農機具置き場や牛舎のようにしか見えないのだが……。

しかし、そこに入れば中は外観とは大違いの場所だった。


 中はコンクリート製のようで、外観はわざわざ板材を張って木造に偽造していたようだ。

入った扉の右手にはシャッターがあり、位置関係的にドーム外の通路と繋がっているのだろう。

そしてシャッターからはスロープで地下へと道が続いている。

けれど俺たちはそこを通らず、エレベータへと乗り込んだ。



「見た目と中身、違いすぎないか?」


「あのドームと研究所の外観は、セルの趣味ですわ」


「やっぱさー、土いじりって雰囲気が大事じゃない?」


「分からんでもないが……」


「この先はちゃんと研究所だから大丈夫!」



 そうは言うが、先ほどからの様子で全然信用できない。

いや、研究所として大丈夫ではあるんだろうが、一般人に見せられるものかどうかという点での話だ。

そんな不安を抱えたまま、エレベーターはおそらく高速で地下へと潜っていった。

階数表示とかないから、動いてるかどうかすらわからないけど。



「ってことで、着いたよ~!」



 扉が開いた先、そこは先ほどとは打って変って近代的な景色が広がっていた。

ガラス張りの壁の向こうには、メタルラックのような棚にいくつも並べられた植物と、それを照らす色とりどりのLED照明。


 前にテレビで観た事がある光景だ。確か、植物によって必要な光の波長が違うとかなんとか。

だから最低限のエネルギーで育てるには、必要な色の光を当てれば十分なのだそう。

つまりここは、本当に研究所なのだろう。


 そしてそれらは、人の手を介さず全て機械によって管理されているらしい。

ちょっと技術力がありすぎる気がするが、先ほどの光景から考えれば十分現実的だと思う。柱もあるしね。



「すげぇな……」


「でしょでしょ! 上の野菜もだけど、ここのはみんな2週間程度で、食べられるまで育つんだよ!」


「はつか大根より、ずっとはやーい!! って、それはヤバいクスリ使ってんのか……?」


「えっとー、建前は遺伝子をゲノム編集でちょいちょいっと書き換えてですねぇ……」


「つまり、本当の所はまたオーバーテクノロジーって事か。

 まぁいいや、それは伏せときゃバレないし。しかし……」



 しかし気になる事がある。それは、なぜこんな施設を作ったかだ。

たしかに白鳥財閥ってのは巨大企業グループだ。なので農業研究をやっている会社を配下に持っていても不思議ではない。


 だがなぜこんな所で? 地下である必要などない。

普通に田舎の土地を買って、デカい研究施設を作ったほうが安上がりだ。

何より、ここは普通の地下空間ではない。



「一体何のために、こんな研究所を?」


「研究所と言ってるけど、研究だけじゃなく量産体性を構築してあるんだよね」


「なるほど、産地と消費地が近いほうが何かと便利って事か?」


「まあ、それもあるんだけど……」


「地下街から続くこの地下空間で、完全なる自給自足を目的としておりますの」


「完全なる自給自足……?」


「生産から消費まで。

 そしてエネルギー問題、ゴミ問題など含め、全てを関連施設が連携して行う。

 それが地下開発の目標なんだよ」


「えらく壮大な話だな……」



 いやはや、大企業はやろうとしている事の規模がデカいなぁ。

しかし何かで聞いた事がある。宇宙で人間が生きていけるか実験するための施設があって、そこも完全な独立状態で生存できるように研究しているのだとか。


 ……ってことはアレか。月落ちる世界を見捨て、本気で宇宙へと逃げるつもりなのだろうか。

きっと俺はそのメンバーには入らないだろうが、夢のある話ではあるな。



「それで、その自給自足でどのくらいの人間が生きていけるんだ?」


「全人類、そして全生物。それが最低限の目標」


「は? んなもん、どうやって宇宙に飛ばすんだよ!?」


「へ? 地下街は飛ばないよ?」


「ここは、未来へ希望を繋げるための箱舟ですわ」

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