爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

250連目 シロネコじゃない方の配達員

公開日時: 2021年1月1日(金) 12:05
文字数:2,855

前回のあらすじ

「バウム生きてた! クリスマスは中止!」


ガチャ神のワンポイント攻略情報⑤

「キャラクターには、それぞれの属性を持っておるのじゃ」

「火は木に、木は水に、水は火に強いのじゃ。光と闇は相反関係じゃ」


ガチャ神からのお知らせ

「今回からしばらく、鬼若視点のお話になるのじゃ」

 俺、カオリ、クロ、アルダ、バウム、ベル、そして主様の7人は、サンタの爺さんが居るという、村唯一のバーへと向かう。


 喫茶店の店主によれば、サンタの爺さんはクリスマスを中止にしておいて、昼間から酒をあおっており、兄であるバーの店主から何とかして欲しいと助けを求められていたそうだ。



「絶対にクリスマスを中止になんて、させないんですからっ!!」


「まぁクロ、そう意気込むなよ。まずは話を聞いてからだ」


「わかってます! でもでもっ! それでも中止にするっていうなら、クロの百烈犬パンチを喰らわせるですっ!」



 フンフン! と息巻くクロは、既にパンチの素振りを始めている。

特訓の成果か、なかなかキレのある動きだ。しかし、相手を見つけ次第殴りかからないか心配だ。

かくいう俺も、クロの事を言えた立場ではない。俺だって腹が立っている。


 元々俺は、「悪い子リスト」というものに入っているらしく、プレゼントをもらった事はない。

だからクリスマスがなくなっても、クロのようにがっかりする事も、もちろん困る事もない。


 けれど、俺は去年見た「子供達に幸せを届けたい」と強く願い、その身を犠牲にしながらも、プレゼントを配るサンタの姿に、憧れにも似た気持ちを抱いたのだ。


 そんな爺さんに何があったかも気になるが、何かあった程度で気が変わるような奴か……。

それが俺にとって、何よりも重要だ。



「ここがマスターの言っていた、お兄さんのバーですね」


「アルダさんは、ここにも来たことあるんですか?」


「いえ、私はお酒を嗜む時間にこのあたりにいる事はないですからね。初めてです。

 それに、どんなに美味しいお酒も、チヅルの注いでくれるお酒には敵いませんからね」



 隙あらば惚気話を入れてくるアルダは無視しておこう。カオリ様は相手をしているけれど。

それにしても、建物こそ他の家と大差はないが、看板の文字や照明の雰囲気など、とても入りづらい店構えである。


 そんな店の前に佇む7人は、アルダとベル以外は未成年だ。このような店には似合わない。



「一応、念のため警戒してください。彼は属性相性を覆すほどに強いですから」



 バウムはその言葉と共に、魔力を流し自身の首にクリスマスリースを、そして腰まで伸びる立派な角には蔦を這わせる。

それは十分に魔力が回復した証であると共に、植物の使い手である証拠だ。


 属性であるバウムに対して、不利属性であるはずの相手、それは属性になる。

つまりサンタの爺さんは属性か……。属性を持つ俺にとっては、最悪の組み合わせだ。



「ふふん! クロはの属性持ちですよっ! 相手がでなければ大丈夫なのですっ!

 冥府の番犬のチカラ、見せ付けてやりますよっ!!」


「いや、クロ。さっきのは属性のバウムが、属性の爺さんに負けたって意味だ。

 得意でも不得意でもないなら、お前が勝つのは無理だろうって意味だぞ?」


「はっ!? そっ、そんな事ありえるんですかっ!?」


「実力の差があればもしくは……、な。まぁこっちは5人だ、大丈夫だろう」



 クロは早とちりするクセがある。戦闘でも俺がフォローしてやらねば危ないだろう。

やはり主様の采配は、考え抜かれたものだと思い知らされる。



「えっと、みんないいかな? 私たちは、戦いに来たんじゃないんだからね?

 サンタさんに話を聞いて、クリスマスの中止を取り消してもらうだけだからね?」


「う~……。ごしゅじん、そんな簡単な問題なら、バウムさんも苦労してませんよぉ~」


「だからって、戦う気満々の人たちとは、お話する気になんてならないでしょ?」


「まぁまぁ、お義父とうさんは豪快な性格ですが、基本的に温厚な方です。

 恐らく、心配するような事態にはなりませんよ。まずは会ってみましょう」



 カランカラン、と心地よいドアベルを鳴らしアルダが入ってゆく。

その後を恐る恐るついてゆけば、店構えと変わらぬ高級感のある店内が広がっていた。



「やぁ、いらっしゃい」



 店主は短く挨拶をする。黒髪黒髭の恰幅の良いその姿は、喫茶店の店主と瓜二つだ。

彼が酒を飲める年齢ではなさそうなクロを見ても、なんら反応を示さないのは、喫茶店の店主から連絡を受けているのだろうか。



「失礼します。義父さんがお邪魔していると聞いて、お迎えに参りました」


「フン、ぞろぞろとお仲間を引き連れてか? ご苦労なこって。マスター、もう一杯」


「さすがに飲みすぎですよ。お体に障ります」


「うるせぇ……。飲まずにいられるかよ……」



 バウムを伸した男とは思えぬほど弱々しい。まるでぐずった子供だ。

そんな彼は、白髪の混じった灰色の髪と髭を生やしている。服も青と白の半袖縞模様のポロシャツを着た配達員の風貌で、その身体は鍛え上げられ、土木作業のバイトをしている俺よりもたくましい。


 バウムも、獣人というのもあって体格には恵まれているが、爺さんはさらに上だ。

それほどまでに、サンタという仕事は重労働なのだろう。



「親父さん……、本当に今年は中止にするんですか……?」


「お前も懲りないな。トナカイは群れるものだが、二頭ほど足りないんじゃねぇか?

 名前はなんだったか……。ヴィクセンとダンダーあたりが足りないんじゃねーのか!?」



 ガハハ! とバウムをバカにするように笑うジジイ。これには俺もキレそうになる。

誰のせいで、こんな大事になってると思ってんだこのジジイは!? そう言いたくなるのをぐっと抑える。なぜなら、主様はカオリ様を守るようにと仰ったからだ。ならば、俺がやる事はひとつ。



「お久しぶりです。去年お世話になった、鬼若です」


「はぁ? どうしたお前! えらく覇気が無くなったじゃねぇか!!」


「えぇ、去年までのように、無駄に戦うつもりはありません。

 それが俺のこの一年の成長です。ところで貴方はどのような一年を?」


「ガハハ! お前も嫌味を覚えたか! そりゃたいした成長だなぁ!!」



 普段から嫌味なババアが近くに居るもんでね、などと言ってやりたいが

完全にまくらと化しているとは言え、主様の手前そのような事は言わない。



「いいだろ、ジジイは酒飲んで憂さを晴らしてんだ。お前らには関係ないだろ」


「関係なくなんてないんですよっ! みんな、クリスマス楽しみにしてるんですよっ!?」


「おぅ嬢ちゃん、こういう店来るにはちょっと若すぎるんじゃないかい?」


「はぐらかさないでくださいっ!!」



 去年、孫の喜ぶ顔を見て「子供達の笑顔が何よりのプレゼントだ!」などと言っていた、あの輝いていた爺さんはもう居ない。こんなクロを悲しませるような奴に、俺は憧れていたのか……?



「はじめまして、カオリといいます。

 熊君の代わりに鬼若君、ベルさんと一緒にこちらにお邪魔しました。

 熊君も貴方の事を心配しています。せめて理由だけでも聞かせてもらえませんか?

 何かお手伝いできるかもしれませんから」


「ちっ……。SSR★7二人とは、アイツも偉くなったもんだな。

 これじゃぁやり合っても勝てねえか……。仕方ねぇ、話してやるよ……。

 マスター、一番強いヤツをくれ」



 爺さんは無理やり酒を出させ、それを一気に飲み干す。

そして、ぽつりぽつりと思い出話を語り出した。

そろそろ攻略情報まとめが欲しい今日この頃。


「50連目を参照じゃ」


うわっ! めんどくせっ!


「仕方ないのう、そのうちまとめるのじゃ」


ついでにキャラ紹介もしておいてね。


「神使いの荒い上司なのじゃ……」

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