私の行く先々で事件が起こる件について

魔技者
魔技者

50階 展示室

公開日時: 2021年3月24日(水) 00:00
文字数:5,652

もしかしたら早乙女は

このゲームの被害者なのかもしれない。

過去に遊んで、酷い目にあったが、時の流れにより忘れ

平凡な日々を過ごしていた矢先に

アリサの一言で思い出し、激高したのだろうか?


それとも? 先程まで陽気に

ユッキーの描かれたボールを

手にしていたのだが、それが災いし少し遅れて

破壊衝動が引き起こされたのか?

どちらにしてもアリサの命が危ない!!

早乙女は、一発では死なないと言ったがそれは大嘘。

何故なら早乙女の攻撃力は660。

それに対しアリサの体力は30程度。

一発殴れば22人のアリサを殺害出来る程。


アリサは、サラマソダーの本当の意味を知らずに

22チャンネルの書き込みで目に付いたキーワードと

その一連の流れを流し読みしていて

ポロっと出た言葉で悪気はないのだ。

だが、その言葉の意味を知っている者からすれば

簡単に使っていい言葉でない

それは、暗黙の了解。なのにそんな言葉を

面白半分で使っていると思ってしまい

殺意をむき出しにしてしまった。


「さっ早乙女君! 押さえて」

監督らしき男が止めに入る。


「でも……ぐすっ。彼女は罪を犯したんです」

泣いていた。大の大人が公衆の面前で。


これ程の立派な筋肉を持った者も

声を引きつらせ涙を流し

心が張り裂けそうになるというのだ。

サラマソダー……恐ろしい言葉だ。


「明日のイベント、君無しでは成功しないんだから

ここは押さえて、ね?

たこ焼きをご馳走するからさ」


「たこやき?」

「たこやき?」


早乙女とアリサが、同時にその優しい響きに反応する。


「分りました。桜花ジャパンのリーダーの私が

大人気なかったですねじゅるる」


「早乙女君よだれよだれ」


「はっ! 私とした事が(///照///)」


「早乙女さん。高い所が苦手な私からしたら

本当にすごいと思ったの。だからサラ・・

はっ! あんな表現を・・ごめんね

でも本当かっこいい!」


アリサの黄色い声に照れる早乙女。

「そう? よーし仲直りのサービスだよ!

見ててねー」


アリサに乗せられ、早乙女は

片足で立ち、あろう事かおでこに

ボールを乗せてバランスを取り白い歯を見せる。


「わーすごーい♡

でも二つの意味で危険だから止めたほうがいいわ」


口調が元のアリサに戻り、その危険性を伝える。

幾ら耐性があっても至近距離では

気絶する危険性がある。かなりの高さ。

落ちたら命の危険もあり得る。


「あ、駄目だよ早乙女君! それは秘技だよ」

慌てながら早乙女を止める男。


「そうでしたすいません。はい」

そう言いボールをアリサに返す。


「わーいwありがとう!」


ボールを持って運動場の倉庫の方に行く。

殺しの瞬間を誰かに見られる訳にはいかない。

ユッキーの撮影を済まし、殺しの準備にかかる。

中には、予備のボールや卓球のラケットが置いてある。

そこで、このボールをマジックで塗り潰そうと考える。

こんな物を競技で使わせる訳には行かない。


「あっ。でも黒いボールは無いわよね?

どうしようかしら? あっそうだ!」


倉庫の中にマジックが無いか探す。

白のマジックを発見。

これをユッキー付きのバレーボールに塗って

ユッキーを完全に消して

正常なバレーボールに変える事に成功

バレーボールの籠にそれを移した。


「任務完了! ノートも画用紙も白だから

色鉛筆の白は余り使わないけど

こういう時は役に立つのね」


「そんなことはないよ……」

またもやあの声だ。しかし、アリサには聞こえない。


「ここにはもう用は無いわね。悪の気配が消えた

40階で回復して、50階の展示室に行こう」


植物園で、あの青汁をお代わりし回復する。


「やっぱりマズ-イ。でも、携帯用にもう一杯」


50階の展示室に、大量のユッキーの

気配を感じたのか用心深いアリサ。


「あらアリサちゃんお気に入りなの?

じゃあこれあげる」

2ℓのペットボトルに入れて渡してくれた。


「そんなに要らないと思うけど

用心に越した事はないしありがとう。ん?」


アリサは50階に行こうと思ったのだが

何か懐かしい気配を感じ取る。

その気配を頼りに、植物園の隅の方に歩く

すると、一人の少年が絵を描いていた。

スケッチブックの中を見ると、立派な木だ。

……だが、少年の見ている先には

何と! 木の枝を両手に持ち、木のフリをする

ロウ・ガイがいたのだった。

少年は目がおかしくなったのか?


「ねえ、何を描いてるの?」

アリサがこの状況を理解したいが為に

少年に声をかける。

気になった事は、解決するまで突き詰めるアリサ。


「え? 夏休みの宿題だよ」


「それは何と無く分かるんだけど

ロウ・ガイを見ながらで何で木を描けるの?」


「ロウ・ガイって何?」


「目の前にいるでしょ? 木の枝を持った

でかい爺さんが」


「爺さんなんてどこにもいないよ?」


「え? ロウ・ガイ居ない?」


「ん? おお! アリサか」

ロウ・ガイがアリサに気付き、近寄ってくる。


すると


「うわー? 木が動いて喋った!」

ダダダッ

少年は、ロウ・ガイを見て驚き

スケッチブックを落としたまま逃げてしまう。

アリサは一応それを拾う。


「待ってー! 落し物だよー

ああ聞こえてないかー」


しかし、遥か彼方に走っていってしまった。


「取り合えず預かっておこう

全く、サラマソダーよりもはやい!! んだから」


スケッチブックを脇に抱える。

アリサは何故かロウ・ガイと認識できる筈が

少年には木にしか見えないという事なのか?


「ヨヨヨヨ? アリサよ、サラマソダーより早い?

何の事じゃ? サラマソダーとやらはあの子供よりも

早くは無いと言うのか?

……しかし、なんか嫌な響きじゃのう。

この響きにトラウマのある者達が居そうじゃのう

頼むからあの言葉は二度と言わないでくれんか?」


「サラマソダー遅いよ?」


アリサ……何故懲りぬのだ……?

早乙女に再びこのワードを言おうものなら

今度は確実に殺されるのだぞ!?


「速い!!」


ブンブン

頭を振り回す ロウ・ガイ


「え? 何で?」


「速いと言ったら速い!!」


「でもパロパレオスのレンダーバッへの方が……」


セットなのだなそれ? アリサの中では

これを、先程のサラマソダー○○いよ?

という言葉と合わせて言わなくてはならぬのだな?

そのアリサルールは永遠に続くのだな?

私の心も引き裂かれそうである。

もう止めてくれアリサ……


「速い!!」


「分かったわよ。でも早乙女さんと言い

ロウ・ガイまで

どうして○ラマソダ-って言うと怒るのかしら?」


大人には色々あるのだ……

この件に関して、危機感が無さすぎる。

ロウ・ガイも初回だからこの程度だったが

2回目はどうなるか分からぬのだぞ!

しっかりして欲しいものであるな。


「ハアハア……分ってくれて嬉しいぞ

しかし、アリサには通用せんか

これは妙技の一つじゃ。

自分の周りに幻覚を出し、隠れる事が出来るのじゃ」


「何で隠れる必要があるの?」


「じっと同じ場所で集中してなくてはならんかったのだ

声を掛けられたりして集中が途切れるのを防ぐ為

木の姿に変装しとった」


「枝を持っているのは?」


「鋭いのう。これを持つ事で変装出来るのじゃ。

これが無いと木の幻覚は出せん

大自然の力を借りるのじゃ。そうして傷を癒しておった」


「さっきのでっかいユッキーね?」


そう、ロウ・ガイはあの天井の悪魔を見た瞬間に

口から血を出していたが、その後にも

症状が追加で出てしまっていたのだ。

やはり62という年齢だ。被害も大きいのだろうか?


「うむ。逃げて一息ついた後に急に眩暈が起きて

同時に両足の靭帯が切れてのう。驚いたわい

そして、這いずる様にここへ来て休んでおったのじゃ」


「ごめんね……アリサが髭取っちゃって

あれで変身解けたんでしょ?

皆、髭が無くなった瞬間ロウ・ガイに気づいたし

それで無理させちゃった……」


「そうじゃ、髭を着ける事で

わしを知っている者からは

別人に見える様な妙技を予めかけて

ここに来た訳じゃ。

何、気にするな。アリサは毒舌なのじゃが

時折見せる優しさが男心を擽るの。

よし、困った事があったら力になるぞい

もうすぐ完全回復するからの」


「ロウ・ガイの気持ちは嬉しいわ。でもね

これから50階のユッキーが

わんさか居るかもしれない所に行くのよ。

40階でももう感じているの。

恐ろしい悪魔達の呻き声が……

私以外に倒す事は出来ないと思うわ。

足手纏いは要らない。ゆっくり休んでなさい

これ以上あの化け物を見たら死ぬわよ?

そういえば、完璧な字面の桑名さんも

心配していたわよ」


「ぬう? 足手纏いか……手厳しいのう……

まだ若い者には負けんと思っておるのじゃが

あのユッキーは別格じゃ。大人しくしておくか……

ん? ……桑名? ……そうか、あやつもまだ

ここに残っておったか。ん? 完璧な字面?」


「そう、芸術的な字面だったわ彼。

私の名前字面ノートに

残しておきたい名前ナンバー1だったわ……

思い出すだけで鳥肌が立っちゃう……

間違いなくいい料理人になるわ

一度会いに行ってやったら? 喜ぶわよ

今、総合料理長やってるって言っていたわ」


「ほうほう、アリサは字面で占いでも出来るのかえ?

色々出来る子じゃなあ。

まあ変わった名前じゃが、文字自体にも

力はあるというしの。

桑名が総合料理長ならば安心じゃ。

あやつは弟子の中でも、ロウガイズムを

一番受けついどる。 じゃが残念じゃのう

わしもアリサの力になりたいが……

しかし、アリサは毒舌の中にも

優しさが見え隠れしていて男心を擽るのう。

あのユッキー一匹でこの有様じゃからな

情けない……わかった。気をつけていくのじゃぞ」


「はいっ!」


50階に到着。

展示室で隠れユッキーを探す事に……む?

静かだ、否、静かすぎる。

恐る恐る扉を開けてみると

何と! 客であろう人々が床に倒れている……!

それも1人や2人ではない。その数30人以上。

一体ここで何が起こっているのだ?


「大丈夫? ねえ! しっかりして?」

入口近くで倒れてる男に声をかける。


「……うう、君は平気なのか?

ここに展示してある芸術を見ていたら

急に他の人が敵に見えて……」


倒れている人達は、どうやら同士討ちをして

力尽きて倒れている様だ。


「今は平気?」


「ああ、今は何とか意識はある

でも又暴れてしまうかも?……おかしいんだ

自分が自分ではないみたいに……怖いよ……」

まるで群れから一匹はぐれた子犬の様に震える男。


「大丈夫! これ飲んで!! まずいけど」

本来自分用に貰った青汁をその人に飲ませる。


「ごくごく……うっまずい……

だが少し良くなってきた……歩ける!!」


「良かった……歩けるなら早くここから逃げて

40階の植物園の係のお姉さんから青汁を貰ってきて?

これだけじゃ足りないかもしれないし」


「分かったよ、君は命の恩人だ。必ず礼はする。

君、名前は?」


「鏑木アリサ。職業は塗り潰師」


「覚えたよ。では行って来る……けど

アリサちゃんはどうするんだ?」


「私の仕事をする」


「そうか、死ぬなよ」


「ああ。死なない」

そう言って中へ入る。


展示室は、斉藤隆之の胸像、銅像、石像

フロア全体に所々においてあり100体は超える。

隆之の顔に、別人の様な

細マッチョの体がくっ付いている裸像等もある。

ロダソの考える隆之像、ワ゛リコの両手を上げた

ランナーのポーズをする隆之像。

両腕で筋肉モリモリのポーズをする石像

裸で寝そべって優雅に

スマホアプリをプレイしてる石像

瞑想していて、大仏様の様な頭をした銅像

薪を背負って本を読んでいる隆之の銅像。

七支刀しちしとうを持ち鬼の様な表情の銅像

小便小僧の様な銅像も。当然芸術と言う事で

股間もしっかり克明に表現されている。


そして、部屋の中央には小さな寺院がある。

大きな除夜の鐘の様な物が吊り下げられていて

真ん中に隆之の汚らしい笑顔の模様が……

く度に何とも悲しい音が、そして

病魔が日本中に散布されそうな音を出しそうである。


松明を右手で掲げ、左手に何かの板を脇に抱える

自由の女神の様な銅像のミニチュア版も存在する。

米国人が見たら国際問題に進展しても文句は言えない。

他にも色々なポーズのモチーフの銅像がある。

どれもこれも今にも動き出し喋りそうな臨場感。

かなり力を入れて作られた様だ。

自分が大好きな金持ちがやらかした

自分を見せる事のみを目的とした、痛ーい部屋

自己顕示欲の集大成。


本来、本物の芸術品になり得る程の高級素材を使い

これだけの量のゴミを作り、その塵を

規則的に並べて飾っている。世にも不思議な光景。

本当ならもっと上へ行ける筈がこんな底辺の男を

題材にしては、素材が泣き叫んでいる事だろう。


私はまだ、語りランク8段。高音の操る

意識高いワード程度なら容易く解読出来る……が

この場の表現を上手く言い表すには

語りランク9段は必要となる。


本来なら、最高の語りをお届けしたいのは山々だが

未熟故、この状況を的確に一言で表す事が出来ない。

恐らく長い説明になるやもしれぬ。

もっと鍛錬を積んでから臨むべきであった……


大いなる語りの女神、カタリナよ……教えて欲しい

私にこんな試練を与えるというのか……?

この惨状を、まだ8段のひよっこの私に語らせ

恥をかいて来い……と?


ぬ、突然女神カタリナの名を出してすまない。

一応彼女の説明をしておこう。

カタリナは、仲良し三姉妹女神の末っ子

長女、怠惰の女神カッタリーナ

次女、肩こりの女神カタコリーナ

そして三女は、語りの女神カタリナなのだ。


上の二柱は、皆から駄女神と言われている引け目から

人一倍頑張り屋さんのカタリナ。その性格故

語りを生業とする我らには、とても厳しいのだ。

ひよっこの私にも平気でこんな試練を架してくる。

全く、困った物である。


「これ、語り部よ、文句を言うのではありません」


ぬぅ女神よこのタイミングで降臨されたのか?

そして、盗み聞きであるか?


「違いマス、カレイド(枯れ井戸)に水を満たしに

ウエイクアップしたら偶然にもムーランルージュ」


お……おお……臆面もなく……最後は意味不明だが

もう【あの】カタリナではないか……

貴女は語りの女神カタリナであるぞ! 自重して欲しい!


「失礼しました。この愛に泳ぎ疲れても

頑張るのですよ? 貴方ならきっとできます」


何を言っているかさっぱりだ。

だが、この試練を超えたら

もしかしたら私はまだ上へ?

次のステージへ行けると仰るのか?

フッ! いいだろう! やってやろうではないか!!

全身全霊を……尽くす!!

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