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松竹梅竹松
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第2章 第17話 悪魔のやり方 2

公開日時: 2020年12月9日(水) 11:08
文字数:2,485

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 私の正体を知ったスーラの表情の変化は中々おもしろいものだった。


 何が起きたか理解できない困惑。自分の記憶を探る無表情。全てわかった絶望。今まで放っておいた自分への後悔。そして、その全てを包括した怒り。


「あんたは! あたしが殺すっ!」


 脚から火の魔法を発し、私の首を掴むスーラ。その勢いのまま窓を突き破り、外へと飛び出る。


 下に見える通行人。遠ざかっていくフィアの家。それらを瞳に捉えながら、私は「フィアにも似たようなこと言われたなぁ」と思っていた。


「バネトランポリン」

 そう唱えると私とスーラの間にトランポリンが現れる。これは冒険者を弾き飛ばし、フロアの壁にある触手に捕まえさせるトラップだ。その威力、味わってもらおう。


「あぁっ」

 トランポリンに弾き飛ばされ、元いた二階の部屋へと帰っていくスーラ。何やら家具が倒れる音が聞こえたが、まぁこの程度なら死にはしないだろう。


「よ、っと」

 トランポリンである以上勢いさえつけなければ弾かれることはない。私はトランポリンにしがみつき、地面へと着地する。落下の衝撃は全てトランポリンに吸収され、少し弾む程度で無事に着地することができた。


「嘘だろ……!」

「青の悪魔……!?」

「逃げろ! とにかく逃げろっ!」

 近くにいた通行人たちが私の姿を見て悲鳴を上げながら離れていく。これで青の悪魔が実在することがばれちゃったか……。まぁ住民全員の記憶を失わせれば問題ない。面倒事が増えちゃったなぁ……。それにまだ目下一番の面倒事は元気なようだし。


烈風渦旋れっぷうかせんっ!」

 部屋から飛び出し、スーラが飛び蹴りを放ってくる。私の身体能力だと避けきれない速さだ。


「それ、邪魔だなぁ。ネバトリモチ」

「!」


 私が発した白い塊を見て速度を落とし、回避行動を取ろうとするスーラ。だが攻撃の意識が高すぎて急には曲がれず、突き出した右脚の裏に白い塊がべっとりと張り付いた。そして速度を落としてくれたおかげで私もギリギリ回避成功。結局続けざるを得なかった飛び蹴りを地面へと当て、スーラは一度着地する。でもこれでこの子は詰みだ。


「う……動けない……!」

 再び飛び上がろうとしたスーラだが、靴についたネバトリモチが地面とひっついて剥がれない。必死に脚を上げようとしているが、ただ糸を引くだけで無意味だ。まぁ高温で熱し続ければ溶けるんだけど、続けるって行為はスーラには行えない。魔力的にも、心理的にも。


「くそっ!」

 仕方なくブーツを脱ぎ捨てたスーラだが、この時点でフライメイルは使い物にならなくなった。馬が脚を一本失って走れるものか。できてもひどく不格好で低速度。


「あぁぁぁぁっ!」

 せいぜい両腕のブースターで走る速度を上げるのが精一杯だよね。まぁこれだけで生身の私には驚異的なんだけど……だから。


「残り三つも脱いでね。マジックマグネッツ」

「なっ……あっ!」

 私がトラップを背後に召喚すると、スーラは速度を上げて私へと突っ込み、しゃがんだ私の身体を無視して正面に現れた岩に激突した。


「それは魔石を引き寄せちゃう磁石。フライメイルを着けてる限りは絶対に逃げられないよ?」

「っ! あたしを……舐めるなっ!」

 戦いの真っ最中に背中を向け続けるスーラに優しく説明してあげると、躊躇いもなくフライメイルを脱ぎ捨てて私へと向かってきた。


「これであたしを倒したつもりっ!?」

「私がこの姿を晒した時点でスーラは負けてるけど? エキサイトポーション」


 武器を失い素手に裸足になったとはいえ、近接戦闘になったら私に勝ち目はない。なのでドーピングさせてもらうことにした。私が飲んだ薬の効果は興奮促進。身体を興奮させて一時的に全ての身体機能を底上げすることができる。本来なら興奮作用に理性が耐えられないが、私が召喚した以上効き目なんて思うがままだ。メリットだけ享受させてもらう。


「このっ! 正々堂々戦いなさいよっ!」

「正々堂々負けるほど馬鹿なことってないでしょ?」

 スーラは普段の戦法が格闘タイプなだけあって素手での戦闘も中々のものだったが、動体視力が上がっている今の私には止まっているように見える。スーラの猛攻を捌きながら私は懇切丁寧に教えてあげる。


「これでわかったでしょ? 私は最強だしスーラは無力。黙って私の言うことを聞いておけばいいんだよ」

「黙れっ! 誰が青の悪魔の言う通りに……!」


「だから。不審な格闘家の命令は聞けなくても圧倒的強者に従うのなら仕方ないでしょ、って言ってるんだけど。私の優しさがわからないかなぁ」

「何が強者よっ! 勇者を汚い罠に嵌めて悪に身を染めることが強いってこと!? そんなもの、あたしは認めないっ!」


 スーラが距離を取る。私への禁句を口にして。


「あたしが求める強さは天下無敵! 独立独歩っ! あたしだけの圧倒的な最強よっ!」


 せっかく離れられたのにスーラは地を駆け、低く跳び上がる。そして烈風渦旋の動きで私を貫こうとした。が、


「ヒトミゴクウ」


 真下から急激に生えてきた巨大な蔦に捕まり、四肢を挟まれる形で宙に拘束された。


「このっ! こんな……ものでっ!」

 スーラが必死に暴れるが、この大木に巻き込まれれば一生抜け出せない。少しずつ、少しずつ時間をかけて樹と一体化していく。


「気が合うね」

 スーラを捕え続ける樹の根の足元に立ち、哀れな獣に伝える。


「私も同じだよ。私だけが最強であればいい。そうすれば大切な人を失わなくて済む。だから私の邪魔をするあなたには消えてもらうよ」


 そして私は一体のモンスターを召喚する。緑色の爬虫類のような鱗を持ち、人間を吸う凶悪なモンスターを。


「チュパカブラ、吸っちゃっていいよ。……殺さない程度にね」


 召喚したチュパカブラにそう命令すると、因縁深い怪物は太い樹を跳ねるように駆け、動けないスーラに噛みつこうと最後に大きな跳躍を見せた。そしてその身体は、


猛火ギガ・エムラ!」


 どこかから飛んできた火の魔法によって焼き崩れた。


「――フィア」


 家から出てスーラの方に手の平を向けている少女の名前を呼ぶ。そして彼女は手を下ろしていき、私に照準を合わせた。


「あなたの目を覚まさせてあげます。――ユリーさんっ!」

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