「ぅぇへへ……にゃんか……ぽわぽわするぅ……」
なんか身体が熱い。あれ、おかしいな。フィアからもらった分飲んだだけなのに……なんか普通に座ってられないんだけど……。
「はっ、しょぼいわねっ。こんくらいでへばるなんて」
この声は……スーラ! くそ、まさかスーラは平気だっていうのか……!
「あたしくりゃいになるとこのていどよゆーよゆーなのよっ」
あ、だめそうだ。顔を真っ赤にしてぐらぐらと揺れている。まぁしょせんはまだ子ども。人生経験が違うんだよ、私とは……!
「誰がおばさんだっ!」
「にゃに変なこと言ってんのよぉ……」
くそっ、フィアのやつずっとずっと年齢いじりしやがってっ! 絶対許さないっ!
「……あれ? フィアはぁ……?」
なんか本当の年齢を馬鹿にされた気がしたんだけど、幻聴……?
「そこの君、フィア……えっと背低くて、おっぱい大きくて、すごい馬鹿な子知らない?」
通りがかった7歳くらいの男の子に声をかけるが、男の子は首を横に振っている。
「ふぃあーっ、どこいるのーっ、ふぃあ、ふぃあーっ!」
「フィアお姉ちゃんなら外出てったよ」
外!?私をこんなところに置き去りにしてどっか行ったっていうのっ!?もう……フィア……フィアぁ……!
「ありがとね、君」
そういえば人間の男性って100年ぶりに見るなぁ……。あっ、そうだったっ!
「君、ちょっとおいでっ」
男の子を手招き、膝の上に置く。そして男の子の耳元に唇を近づけ、ずっと気になってたことを訊ねた。
「ねぇ、君。霧霞族の男の子は魔力をどこに溜めるのかな? お姉さんにちょっと見せてみて? 大丈夫、ちゃーんとお姉さんがお手伝いしてあげるから」
「痴女だーっ!」
「えぇっ!?」
料理を取ってあげるからカロリーをどこに溜めるか教えてって言っただけなのに男の子は力いっぱい私から逃げて行ってしまった。
「はっ、やっぱり子どもは悪を見抜く力があるのね。あんたの胡散臭さはわかる人にはわかるのよ」
なーにニヤニヤしてるんだこの10歳児。私が本気出したらあんたなんか瞬殺なのに。
「これでわかったでしょ? あんたはみんなを助けるヒーローにはなれないの。さっさと帰りなさい!」
もうそろそろ限界だ。この生意気な子どもに好き勝手言われるのは我慢できない。
「うっさいんだよ雑魚が! 私が全部終わらせてやるからあんたはフィアとの最後の時間を過ごしてればいいんだよ! フィアはこれから私と一緒に暮らすんだからっ」
「はぁっ!?おねぇはここにあたしと一緒に住むの! 平和になったミストタウンでっ」
「ざーんねんっ。フィアは私と一緒に暮らしてもいいって言ってましたーっ」
「あんたみたいな奴におねぇを任せられるわけないでしょっ!?」
「それはこっちの台詞だよっ。こんな馬鹿ばっかの村にいさせたらフィアの命が何個あっても足りないんだから!」
「おねぇもみんなも全部あたしが守る! あんたの入る隙間はないのよざこざこ、ざーこっ!」
「はーっ!?あんたの方がざこだからっ! ざこっ、ざこっ!」
くっそむかつく……! こうなったら……!
「「どっちが飲めるか、勝負っ!」」
「……あ、れ……?」
私……いつの間にか寝てた……? うぅ、頭痛い……。
ていうかここどこだ……? 異様に天井が近い……でもベッドの上だ。なるほど、二段ベッドか。
「きっつ……」
手探りではしごを見つけ、よろけないようゆっくり下りていく。二段ベッドはいいけど誰のだ? 祝勝会やって……お酒飲んで……そこから記憶ない……。
「あれ? スーラ、どうしたの?」
はしごを下りていると、子どもモード、というか本来の10歳状態のスーラが下のベッドを睨んで拳を固く握っているのが見えた。
「ねぇ、ここどこかわかる? フィアは?」
はしごを下りきってそう訊ねると、スーラの肩がぴくりと動いた。
「おねぇは――」
視線を外さずにそう答えるスーラを見て自然と私もベッドの方を見る。そして、
「なに、これ――!」
私が寝ていた下のベッドにいたのはフィアだった。
全身に白く濁った液体を浴び、虚ろな瞳を浮かべている私の友だちが、ベッドの上でピクピクと痙攣していた。
そんな姉の姿を見て、怒り以外の感情を全て忘れたかのような表情のスーラが言う。
「――おねぇは、チューバにやられた」
その言葉を聞いた瞬間、私は思った。いや、気づかされてしまった。
どれだけ知識を蓄えたって。どれだけ最強の力を持っていたって。
私は大切な人を守ることはできないのだと。
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