住民たちの話を聞くとこういうことらしい。
私たちが帰ってくる数時間前。国王軍の隊が突然村にやって来たそうだ。そしてこう言った。
「ユリー・セクレタリーとフィア・ウィザーを出せ」、と。
何か不穏なものを感じた村長は突っぱねた。ここにはいない。さっさと帰れ。そう伝えると、国王軍は村に火を放った。それだけに飽き足らず、住民を捕えようともしたらしい。
「それでみんなが抵抗して今に至る、というわけです」
「なるほどね……」
さっき思い浮かんだありえない仮説が現実的になってきた。でもはたしてそんなことが可能なのだろうか。私に近い知識を持っているとは思えないし……。
「ユリーさん、なにか心当たりがあるんですか?」
「まぁね。もしかしたらだけど……」
「終わったわよ」
一応の仮説をフィアに伝えようとしたその時、スーラが家に入ってきた。服に少し汚れがついているが、目立った傷はない。無事にイチョウを倒せたようだ。
「国王軍は全員広場に集めてある。今は村長とトウコさんたちが見張ってくれてるわ。他の住民や冒険者たちは消火に回ってくれてるし、何とか元の形に戻せるそうよ」
「そっか、よかった」
これでこの村は一安心。後は私の問題だ。
「国王軍のところに連れてって。奴らの目的を聞き出す」
広場に捕らえられている国王軍の人数は35人。共通の鎧を着た兵士30人に、幹部と思わしき自由な服装の人間が5人。一小隊7人の計五部隊と言ったところだろうか。全ての人間の手足に木属性で造られた手錠が嵌められており、自由を制限してある。
「作戦と首謀者は?」
フィアとスーラを引き連れて広場に向かった私はまず全体にそう訊ねる。ちなみに服は住民がくれたチャイナ服のようなものとニーソックスを着た。私が以前着ていたものと似たようなタイプを用意してくれたようだが、丈が短くて少し恥ずかしい。
「青の悪魔に話すことなどない」
私の質問に答えたのは5人の隊長の内の一人。筋骨隆々な男で、いかにも真面目そうな雰囲気がある。表情も台詞と同様に堂々としている。それは兵士たちも同じだ。捕らえられているのに恐怖の色が見えない。相当鍛えられているな。
「さっさと殺せ! どんな拷問をしたって無駄だごぉっ!」
「作戦と首謀者は?」
男の顎下を蹴り上げ、再度訊ねる。私に力はないとはいえ、生物共通の弱点に全体重を乗せた蹴りを入れたんだ。意識くらいは飛んだだろう。
「作戦と首謀者は?」
ダンジョンブックさえあれば情報を聞き出すことなど容易だが、今のは不可。しかもフィアたちの手前指の爪を剥がすといった拷問も憚られる。
「作戦と首謀者は?」
だとしたら恐怖に染めて兵士たちの心を折るのが一番効果的だろう。同じ台詞を吐き、一人ずつ潰していく。私の正体が非力な女の子だとしても、向こうからしたら恐怖の象徴、青の悪魔だ。気絶させただけでも殺したように見えているはず。
「ぐごっ!」
「作戦と首謀者は?」
やはり何も言ってくれないので隣の隊長格の男の顎も蹴り上げる。残り三人。幹部の方が情報量も多いだろうし、これ以上無駄にはできないな。
「作戦と首謀者は?」
「力はなくなったんじゃないの……」
度重なる上司の撃沈についに心が揺らいだ。後ろの方にいる女性が小さく声を漏らした。
「作戦と首謀者は?」
「ひっ!」
その女の子に近づき訊ねる。私と同じくらい……少し下か。標的を定められてすっかり顔には恐怖の色しかない。
「作戦と首謀者は?」
「ぁ、あ、ぁぁ、ぁあ……」
恐がらせすぎても駄目か。すっかり失禁してしまい、顔がボロボロに崩れている。こうなったらもう使い物にならない。
「作戦と首謀者は?」
「お、俺!?」
仕方ないので隣の男に訊ねる。こいつはまだ話せるな。触りくらいは聞き出せるだろうか。
「は、話せば見逃してくれ……」
「何も言うなぁっ!」
「――フィア」
後ろの方で隊長が兵士を咎める声がしたのでフィアに黙らせてもらうことにする。
「はいっ! 超――」
「馬鹿っ!」
フィアを払いのけ、スーラが顎下を蹴り上げた。あ、あの馬鹿超級魔法使おうとしてたよ……。私ここに来るまでにこの作戦伝えてたんだけどなぁ……。
「わかった! 全て話すっ!」
お、隊長格が半数以上やられたからかついに自分から話す人が出てきてくれた。しかも隊長だ。これでこれ以上傷つけなくて済むかな。
「早く話して」
話してくれる気になった男性に近づき訊ねる。するとゆっくりと何かを確かめるように話し始めた。
「わ、私たちは通報を受けてここに来たんだ。なんでも青の悪魔がこの村に潜んでいるらしく……。それで匿っているらしいフィア・ウィザーも捕えてこいと命令があって……」
「ふぅん。そっか」
話的には矛盾はない。でも、
「ぐばぁっ!」
「ここの人たちはそんなことしない」
四人目の隊長も蹴り上げ、最後の隊長、イチョウへと近づく。
「ち、ちが……あれは本当の話で……!」
「悪いけど私に嘘は通じないよ」
仮説が確信に変わった。さっきの女子兵士の一言によって。
「首謀者は勇者、ミュー・Q・ヴレイバーでしょう?」
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