××トラップダンジョンでスローライフを!

このトラップダンジョンはちょっと××
松竹梅竹松
松竹梅竹松

第3章 第10話 悲痛な現実

公開日時: 2021年1月12日(火) 12:16
文字数:2,242

「あのー、大丈夫ですかー?」

「ああ……」


 イユが目を覚ました時、そこは薄暗い拷問具にあふれたフロアではなく、星空煌めく夜の野原だった。××トラップダンジョンの最上階。危険極まりないこのダンジョンにおいて、唯一安心安全なフロア。隣に座っているミューに助けられたことは聞くまでもなくわかった。


「早くこれ解いてほしいんですけどー」

「ああ……」


 しかし迸る電撃からは解放されたものの、いまだに身体を蝕む縄はイユを強く縛りつけたままだ。


「解呪のやり方がわからないなら調べるのでダンジョンブック開いてもらっていいですかー?」

「ああ……」


 ミューが的確に必要なトラップを召喚できていたのは、全てイユによる手ほどきのおかげだった。ダンジョンマスターになってから一日と少し。イユにダンジョンブックを読んでもらい、使えそうなトラップをリストアップ。これにより、ユリーたちを完全無効化するに至った。しかしそれもまだ全体の五分の一ほどでしかない。まだまだわからないことだらけだ。


 そもそもミューが××トラップダンジョンをクリアしたこと自体がイユのおかげだ。事前に××トラップダンジョンがモンスターの魔窟になっている可能性を指摘し、ミューが絶対に勝てないモンスターやトラップへの対策を教えた。


 だがそれだけでは足りず、ユリーの家から拝借した体力を回復させる薬や、トラップを無効化する機械を使用してなおギリギリのクリア。無傷で突破した100年前のユリーの異常性が際立つ結果となった。


「あのー、青の悪魔さんたちと何かありましたー?」

「ああ……」


(なにこれめんどー。ほんとに何があったんだろー)

 イユがいくら話しかけても返ってくるのは生返事だけ。夜空を見上げ、ぼーっと佇むミューからは精気を感じない。


「ここに入れられた兵士さんたちを……」

「行くぞ」

 やる気を出してもらおうと被害者たちのことを口にすると、突然ミューは立ち上がってテレポートゲートを開いた。


「誰かが入ってきた。早く追い出さないと危ない」

「……その前にこの縄解いてほしいんですけどー」

「それは後でだ。お前の姿を見せたらここが如何に危険な場所かわかるだろうからな」

「えー……」


 そして二人が訪れたのは、さっきまでいた拷問フロア。わざわざユリーたちからは離れた場所にゲートを開き、遠くを歩く六人の人影に声をかける。


「ここは危険だ。はや……いや、なぜ六人いる。感じたのは三人で……!」

「お、わざわざターゲットが来てくれたにゃー。とっととやっちまうか」


 遠くから六人が近づいてきて、徐々に顔が見えてくる。その内の三人に見覚えはない。だが残りの三人は、


「ユリー・セクレタリー……!」

「ぁぅ……ぁあ……」


 ユリー、フィア、スーラ。確かにミューが拘束したはずの三人が解放されている。


 だが驚くべきはそこじゃない。彼女たちの格好だ。格闘家風の黒と青のミニスカートドレスに、黒タイツと帽子。そして帽子の斜め前部分には黄色い御札が貼り付いている。


 そんな三人は意識がないのか涎を垂れ流し、両腕を前にしてぴょんぴょんと跳ねながら近づいてきていた。


「イユ、あれは……!」

 ミューが言っているのはあの三人のこと。だがイユの視線は、そんな雑魚には向いていなかった。


「勇者さん、逃げ……!」

 その瞬間、集団から一つの影が消える。跡形もなく、一瞬で。


「どこに消えた……?」

 この暗闇に溶けたのか。そう思わせるほどにあっという間の出来事だった。


「ぁ……ぁあ……!」

 ミューが剣を構えて様子を窺う中、その五分の一の速度で流れる瞳によって答えを得ていたイユはぺたんと床に座ってしまう。


「どうした。何かの毒にやられたか?」

「そんなんじゃ……ありません……。イユちゃんたちは……!」


 「殺されました」。そう何とかイユが吐き出した瞬間、ようやく背後に何かいることにミューが気づく。


「貴様なに……!」


 「者だ」。振り向いたミューのその言葉は最後まで出てくれなかった。なぜならそこにいた猫耳が生えた金髪の女性の手には、ミューとイユの生首があったからだ。


「おー、すげーにゃー。ほんとに生えてきた」

 ミューたちの生首の髪を持ち、ぶんぶんと振り回して興味深そうにつぶやく女性。その正体が人間ではないことは明確だった。


「答えろ。貴様……!」

「後ろ後ろ。あぶにぇーぞ」

「!」


 女性の声に反射的に回避を行うミュー。一瞬前に自分がいた場所は、ユリーたちと似た格好をした大きな爪を持つ少女によって斬り裂かれていた。


「ヒャドレッド。キョンシーのキョン」

 大きく開かれた袖から見える爪が消え、人間に近い手と黄色の御札が現れる。と同時に、その上半身が弾け飛んだ。


「そして俺がヒャドレッド、カッパのキャバだっ!」

 キョンの背後には、亀の甲羅のような盾を持った緑色の体色のモンスターがいた。その盾は大きく横に開かれ、巨大な銃口が覗いていた。


「……挨拶ついでに殺さないで」

「いいじゃねぇか、てめぇは死なねぇんだから」


 上半身が弾け飛んだキョンの身体から衣服と元の身体が生えてくる。人間とよく似た容姿をしているが、××トラップダンジョン内の復活に衣服は含まれない。人間ではないことは明らかだ。


「そしてにゃーが」


 次の瞬間、ミューの眼前に猫耳の女性が現れる。両腕に二つのミューの生首を持って。


「トーテン。ワーキャットのニェオだにゃ」


 そして生首を放り、楽しそうに、幸せそうに、笑う。猫のように、悪辣な犯罪者のように。


「魔王様の命によりおみゃーを捕まえにきたぜ、ミュー・Q・ヴレイバー」

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