「終わった……」
「終わったね……」
形の整えられていない石で磔になったチューバを見上げ、感慨深そうに声を漏らすフィアとスーラ。これを倒すために二人は旅にまで出たのだ。感動も一際だろう。
「でもこう見ると少しかわいそうですね……楽に殺してあげたいという気持ちはないのですが……」
「まぁ確かに見ていてあまり気持ちのいいものではないわね」
黒焦げになり、身体の至るところが崩れ去っていてもなおチューバは生きている。もっとも動けはしないだろうし、お腹に溜められた栄養で生かされている、という感じだろうが。
フィアたちがそう思うのも無理もない。私たちがやっていることはチューバと同じ。いや、もっと悪辣だろう。
「まぁそう言う時もあるよ」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ」
「ユリーさんなにやってるんですか!?」
石の破片を使ってチューバの炭になった鱗を剥ぎ取る私を見てフィアが声を上げる。うん、気持ちはわかるよ。なんかいい感じの雰囲気で締めようとしてたもんね。
「いや、マーキング拭くのにチュパカブラの鱗が必要なんだよ。まぁ私だって生きたままやるのは申し訳ないなーと思うけどさ、私には関係ないし」
「…………」
平然とギザギザの石で生皮を剥ぎ取る私に思うところがあるのだろう。フィアとスーラが黙ってしまったが、こればかりは仕方ないだろう。私はもっとひどいものを常に見ている。命に対する倫理観が違うんだ。本当なら胸と腰を隠せる程度にも皮がほしかったが、ここは自重しよう。いや、でも私全裸なんだよな。
「さて、どうしようか」
チューバから剥ぎ取った鱗をフィアの水で洗い、マーキングを拭きとってから二人に訊ねる。これでチューバ退治は終わり。下の階にいたマジックスライムも全滅させたし、後は野生くらいで数は激減。ミストタウンに平和が訪れたと言ってもいいだろう。
「とりあえず一度村に帰ってすぐに××トラップダンジョンに行きましょう」
「服も買わないとね。まぁお金くらいは出してあげるわ」
なのに二人は再び危険に飛び込もうとしている。しかもチューバ討伐なんか目じゃないくらいの脅威に。
「……本当にいいの? たぶん大丈夫だろうけど、一生帰れない可能性だってあるんだよ」
「わたしのせいでこんなことになってしまいましたから。これくらい当然です」
「チューバ討伐の恩もあるしね。これで貸し借りなしよ」
「二人とも……ありがとう」
そして私たちはミストタウンへと帰る。行きはテレポートゲートを使ったが、ダンジョンブックを使えないため帰りは徒歩だ。とほほ。
「そろそろ着きますね」
フィアとスーラに挟まれ歩くこと半日。運よく人と会うこともなく帰ることができた。これで服を着れるし、ごはんも食べれる。こんなに疲れたのはひさしぶりだ。とりあえずベッドで寝たい。
なのにミストタウンは。
「――え?」
炎に包まれていた。
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