「ん、うぅ……?」
あれ、何で私またベッドで寝てるんだ……? しかもたぶん二段ベッドの下の方で……。確かスーラと戦って……フィアと戦って……それで……。
「っ!?い、いだぁぁぁぁ……!」
ちょっと待って、身体めっちゃ痛い! え、何これ!?特にお腹が痛いっ! 痛みなんて100年ぶりで! これがどれくらいやばいのかわからないけどっ! 骨っ、骨たぶんっ! 折れちゃってるっ!
こんなの耐えられるわけがない。身体の反応に従って大きな悲鳴が上げそうになったが、すぐ隣からの汚い悲鳴を聞いて口が止まってしまった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ! いたいいたいいたいっ! たすけてままっ! 死ぬっ! これ絶対死んじゃうっ! ぅえっ……まってこれ無理っ! あぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「フィ……フィア……?」
私と同じベッドで激しく悶えるフィア。かわいい顔が涙やら鼻水やら涎やらでめちゃくちゃになっている。
「やっと起きた。とりあえず早く治してあげて」
「スーラ……?」
耳元の悲鳴がうるさすぎて気づかなかったが、スーラがベッドの隣で椅子に座って脚を組んでいた。そういえば私スーラと喧嘩してた気がするんだけど……。
「あんたならすぐできるんでしょ? ××トラップダンジョンのダンジョンマスターさん」
「ありがとね、スウナ。クローズ」
回復特化のスウナに治癒魔法をかけてもらい、私とフィアの身体はほとんど完治した。驚くべきことに私は身体の至るところに打撲、そして肋骨が骨折していた。
もう一方のフィアは私よりも酷く、肩の脱臼、腕の骨折。加えて内蔵もちょっとやばい感じだったらしい。
でも正直今そっちはどうでもいい。めちゃくちゃ痛かったけど、そんなことよりも今は。
「何でスーラが私のこと知ってるの……?」
青の悪魔が××トラップダンジョンに住んでいることは周知の事実らしいのでそれはいい。でもダンジョンマスターという言葉はあくまで私の造語。外の世界にはなかった概念だ。だからスーラが知っているはずがないのに。
「おねぇが教えてくれたのよ、その場にいるみんなに。あんたが100年前の人だってこと、本当にこの村を助けに来てくれたってこと、本当は勇者を殺してなかったこと。あんな速度で衝突して痛いなんてレベルじゃなかったはずなのに、ユリーちゃんは悪い人じゃないって必死に説明してた」
うそでしょ……。だって脱臼に骨折に内蔵が終わってたんだよ……? それにフィアは私を攻撃してたし……。
「あんたの気にしてることにはならないわよ。観光客はいなかったし、外にばれることはない。でも狭い村だしすぐ話は回っちゃうだろうけど」
そういえばそうだ。青の悪魔が実在していると外の人間に知られるわけにはいかなかったんだ。私のスローライフが邪魔されるだろうから。でもそれ以上に……。
「フィア……ごめんね」
フィアを苦しめた事実が辛い。気絶するほどの衝撃を浴びながら私のことを庇って、ずっと苦しいままにさせて……。どれだけ謝ればいいか……。
「ぇへへ……どうですかユリーさん。わたしの勝ちですね」
それなのにフィアは笑っていた。ドヤ顔で、勝ち誇っていた。
「えー……と……?」
「なんせわたしに負けたんですから。わたしに勝ったチューバに勝てる道理はありません」
「いやあれで勝ったっていうの……?」
フィアが何を言いたいのかわからない。ていうかなにその馬鹿みたいな理屈。じゃんけんを知らないのかこの子は。
私が何言ったんだこいつの視線を向けていると、フィアは優しい瞳で言った。
「つまりですね、ユリーさん一人ではできないこともあるってことです」
私は××トラップダンジョン全てのモンスター、トラップを操ることができる。その力はまさに無敵。できないことなんて何もない。
それなのにフィアに一杯食わされた。一方的な敗北ではなかったが、それでも勝ちか負けかと言われたら負けになるだろう。
私にも、できないことがある。
「わたしも同じです。一人でチューバに勝てるかもって思っちゃいました。でも無理でした。スーラちゃんも一人ではユリーさんを倒せなかった」
私は青の悪魔だ。でも人間。できないことはある。認めなくてはならないだろう。
「三人で倒しましょう、チューバを。一人じゃ無理でも、三人ならきっとできるはずです」
実際はチューバごときを倒すことなんて私一人で十分だ。しょせんはチュパカブラ。遅れをとることはない。それでも。
「ユ、ユリーさんっ!?」
「なんで泣いてんのよ……」
「うるさい……」
それでも、こう思った。
「フィアが友だちでよかった」
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