「ここがチュウチュウトラップダンジョン……」
陽も傾きかけた夕方5時。私、フィア、スーラの三人はテレポートゲートを通ってヒャドレッドの一人、チュパカブラのチューバが潜むチュウチュウトラップダンジョンの前に来ていた。
「××トラップダンジョンとはだいぶ違いますね……」
私が最後に外観を見たのは100年前だが、変わっていないとしたら確かに大違いだ。××トラップダンジョンはまさしく塔と呼ぶにふさわしい建物だが、ここは大きなガタガタの岩を二つ積み重ねただけのような雑魚すぎる置物。私のダンジョンは20階建てだがここは2階しかないらしいし、それが現れているのだろうか。
「この時間帯にチューバは起きるんですよね」
「おねぇたちが喧嘩してなかったらもっと早く来れたのにね」
「「うっ」」
何も言い返せない……。半日近く気絶してたらしいし……。
「でもっ! その喧嘩を乗り越えたからこそわたしたち三人の絆があるのですっ!」
「悪いけどあたしはまだユリーちゃんを信用してないわよ。事情はわかったけど、普通に考えたらおねぇが青の悪魔に洗脳されてるって思うしね」
ずいぶんひどい言われ方だが、私だってそう考える。まぁこればっかりは仕方ないだろう。
「あたしだけじゃなくて住民みーんなそう思ってるからね。村に帰ったら国王軍が待ち構えてるかも」
「それは勘弁してほしいな」
それにしてもほんと馬鹿やったもんだ。イライラしてこの姿を晒してしまうなんて。でもまぁいいや。
「ま、とりあえず背中くらいは預けてあげるわよ」
スーラのこのツンデレ具合を見るとわりかし信用されてるみたいだし。
「よし……じゃあいくよっ」
「はいっ!」
「ええ」
そして私たちはボロボロの入口からチュウチュウトラップダンジョンに侵入する。
「ひぇっ」
「……さすがに寒気がしてくるわね」
一歩入った瞬間フィアとスーラが同時に悲鳴を上げる。なぜなら、
「マジックスライム……!」
フィアたち霧霞族の天敵、マジックスライムが床も見えないくらいに埋め尽くされていたからだ。
「でもこれは……」
マジックスライムだけじゃない。ハイマジックスライムも半分くらい占めている。でも部屋の広さはたいしたことない。××トラップダンジョンは空間が歪んでいて塔の大きさ以上の部屋が千以上あるが、ここは見た目そのまま。せいぜい数十メートル四方程度だ。
「……想定内ね」
「ですねっ」
「作戦通りお願いね」
正直この程度は予想していた。むしろ最悪の想定よりだいぶ下だ。一番嫌だったのがこの階にチューバがいて、なおかつマジックスライム以外の魔法が効かない初見のモンスターに囲まれることだったけど、このくらいならやばさは下の上。むしろ確定でチューバが2階にいるとわかった分ラッキーだ。
「ではいきますっ」
いくつか練ってきた作戦の一つに則り、フィアが杖に魔力を溜める。するともぞもぞと這いずり回っていたマジックスライムたちが一斉にこちらに向かってきた。
魔法が効かない相手がいるとわかっている場所にフィアを連れてきたのは絆なんて曖昧な理由ではない。マジックスライムが魔法を吸収するということは、魔力に群がってくるということ。フィアほど囮にふさわしい人間はいない。
「旋風渦転っ!」
そして近づいてきたところをスーラの回転蹴りで仕留める。まるで加工されるために肉がベルトコンベアで運ばれてくるかのようだ。目の前で仲間が消されているのにも関わらず、たいした知能のないスライムたちは一心不乱にフィアに集ってくる。
これなら入口に立っている以上集団戦で一番避けなければならない囲まれるということは起こりえないし、飛行しなくていい分スーラの弱点である魔力の少なさもカバーできる。それに二人には××トラップダンジョン製の魔力回復薬を渡してある。このペースなら十数分もあれば無傷で全滅できるだろう。
「行くわよ、ユリーちゃん」
「うん、お願いっ」
作戦が上手く機能していることを確認し、私はスーラの身体にしがみつく。そして、
「烈風渦旋っ!」
スーラの高速の飛び蹴りと一緒に反対側にある階段へと移動する私。スライムが砕け散って顔にかかる感触が気持ち悪いけど、すぐにそれは収まった。
「そっちは頼んだわよ!」
「頼まれた!」
一瞬で階段まで辿り着き、スーラはフィアの元に戻っていく。私一人じゃここを突破するのにそれなりの時間がかかっただろうし、下手したらチューバが下りてきて面倒なことになっていただろう。
それがこんなすぐに奴の元に辿り着けたんだ。誰かと協力するというのも馬鹿にできない。
「おや、一人で私に向かってくるとは。命知らずとはまさにこのことですね」
「命知らずはそっちでしょ。私の友だちに手を出したんだから」
そして私は向き合う。フィアを傷つけ、スーラたちを苦しめた魔王軍幹部、チュパカブラのチューバと。
「それに私は一人じゃない。テンションフルブーストで片づけるよっ!」
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