チュパカブラのチューバ……。ヒャドレッドと聞いて少し気になっていたけど、案外普通のチュパカブラと変わらないなぁ。爬虫類系モンスターと特有の鱗、鋭い牙、爪。どれも特段変わったところはない。
でも違う点はいくつもある。たとえば腹。大きく膨れ上がり、栄養が詰まっていることがわかる。他には……。
「申し訳ないですが少し待っていていただけますか。食事の途中ですので」
他には、そう。見たことのないくらい巨大なストロー。そしてその先にあるのは、
「ぁ……ぁあ……た、すけて……」
一目で格闘家だとわかる服装。とても美しい顔立ち……だったのだろう。おそらく、だけれど。
「ぁ……ぃ……や……ぁ……」
彼女は悲鳴を上げ、それが小さくなると同時に身体も小さくなっていく。別に霧霞族というわけではない。単純に体内の血液が吸われ、しぼんでいっているのだ。
「ステータスグラス」
ほとんど皮と骨だけになった彼女の状態を確認する。……まだ体力はわずかに残っている。吸収し終わったのかチューバはストローを離しているのにだ。それに、
「なるほど、ね……クローズ」
眼鏡を外し、小さくため息をつく。これは少しめんどくさそうだ。
「お待たせしました。……ふふ、どうやら唖然しているようですね。若いお嬢さんには刺激が強すぎましたか」
それにしてもチューバは私の服を見てもノーコメントだなぁ。モンスターには青の悪魔の情報は伝わっていないのだろうか。
「ですがこれで終わりではありませんよ。壁をご覧なさい、これがあなたの数分後の姿です」
ていうか話長いなぁ……。想定ではあと十分でフィアたちがスライムを倒し終える。話を伸ばして待とうかな。いや相性的に私がある程度削っておかないといけないか。
「安心してください。私は女性は殺しませんので。しかもあなたのような美しい女性は……一生大事に飼ってあげますからね。少々苦しいでしょうが……ふふ」
「あぁー、もういいかな? そろそろ始めても」
ここに来た時から気づいてたよ、フィールドの情報を把握することなんて基本中の基本だから。
下の階とほとんど同じ広さの部屋の壁一面にかかっている置物。いや、置物と言ったら失礼か。一応まだ生きてるみたいだし。
「ぁ……ぁ……」
「ぉ……ぁ……」
「ぅ……ぇ……」
チューバの足元に転がる骨と皮だけの女性。それと同じものが壁に飾られていた。高級絵画のようなもの、と言うには少し趣味が悪いか。まぁ何にせよ。
「別にこんなの見慣れてるし。アブゾーブモズとかヴァンパイア系もやるよね。何だかずいぶん自慢げに話してたけど、極めて一般的な趣味って感じじゃないかな」
この程度××トラップダンジョンで100年も過ごしてたらいくらでも遭遇する。最初の頃は少し気分が悪くなったけど、今じゃ特に何とも思わない。
だがその事実は、このモンスターにとっては屈辱的だったようだ。
「俺のコレクションを他の三流と一緒にするなぁぁぁぁっ!」
あーあ、怒っちゃった。まぁどうでもいいけど。
問題は彼女たちのレベル。今さっき吸われた子は57。壁には70超えまでいる。ミュー様と同等の強さというのは間違いではないらしい。じゃあとりあえず、
「オープン。バキュームクリーナー、テレポートゲート」
私はマジックスライム相手に使用したタンクの中にテレポートゲートを設置して召喚する。
「なに……!?」
突然現れた巨大な機械にチューバは面食らったようだが、これはチューバに向けられたものではない。邪魔な人形を片付けるためのものだ。
「ここら辺のもの、全部吸っちゃって」
そう命令するとバキュームクリーナーが起動し、周囲の物体を強烈な威力で吸い込んでいく。
「ぐぉお……!」
チューバは爪を床に食い込ませて抵抗するが、ただ服に釘を打ちつけられているだけの女性たちはあっという間に宙へと浮かぶ。そしてタンクの中に吸い込まれていき、中にあるテレポートゲートを通ってダンジョンの外へ消えていった。終点はミストタウン。後はあっちが何とかしてくれるだろう。
「どう? 上位互換が現れた感想は」
女性たちを全て回収し終わり、同じく吸引が得意なチューバにそう訊ねてみたが、返事がない。その代わりに、
「俺のコレクションを返しやがれぇぇぇぇっ!」
チューバの攻撃が始まる。ここからが本番ってところかな。まぁ作戦は10以上用意してきたし……。
「魔王軍幹部が魔王に勝てるわけがないでしょう?」
私は魔王が如き力を解放した。
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