澄んだ寒空の下へ出た時に、
母のあたたかさを知った。

誰かと会って頬のゆるみに気づいた時、
孤独を知った。

跡には、手の施しようもない愚か者がぽつり。
どうにかその前に手は打てなかったのだろうか。

もういくら願いを掛けたとしても
手が届かないものがあるのなら、

いっそう失くなったことすら
気づけないようにしといておくれよ。

いや、そんなのってないよなあ。
どうせならうんと嫌っておくれよ。いや、でもなあ。

ぷかぷかと高瀬川を流れる葉っぱをながめて、
それに流れがあったことに気がついた。

おなかは大して減ってはいないのに、
なにか食べる物はないかと近くを早足で歩いて回る。

そして何も買わずに戻ってくる。

あれもしたいこれもしたいと、思っているのかいないのか、
もはや自分では判らなくなってしまった。

深く息を吸おうとするが、どうにもこうにも上手くいかない。
表面の浅いところでぴたっと止まってしまう。

椅子に座ってしばらくしても、
呼吸ができているのか判然としない。

そういえば最近、ひとりきりだった。

ひとりぽっちでいることが、僕らの心の内を、
便器にこびりついた頑固な汚れを無心で、

しかし丁寧に擦り続けるみたいにして、
明らかにするための一助となる気はする。

けれどもああ、なんともかあいそうなことよ。

僕らがその空の日々を、大概は嫌々ながら受け入れているのは、
誰かと別れる絶望を心底恐れているからだ。

どうしてこんなことになってしまったのか。
恐れは憧れと同居するから意地が悪い。

僕らは憧れずにはいられない。

愛し憎しみしながら、暗いあたたかな何処かへ
とぷんとぷんと沈んでゆく彼らを

遠くでぼんやりと蔑視しながらも、僕らは確かに憧れている。
彼らによって、僕らの心のやわらかな部分は暴かれてしまう。

けれど、そんな彼らの手を掴むことはおろか直に視ることもできず、
こんな文字の羅列の空想でもって、戯けてみせることしかできないのである。

そのまま僕の歎息は、足元に落ちた。

道化