6月の中旬、今年で高校生活最後の年であり、進学を目指してる生徒や就職の方に希望してる生徒の多くがまだ時間があるだろう、と思い最後の年にでも関わらずどこか高校2年時の雰囲気を残したまま、学校のチャイムが鳴った放課後を過ごそうとしている。
まだ教室に居座ろうと友人と話しをしたりする者、友だちと約束の買い物にへと寄り道をしようとする者、希望してる大学に向けて時間を無駄にせんと、とにかく受験勉強に捗る者。
そんなよりどりみどりな行動をとる同級生たちの中で俺は、1人で呆然と自分の机にへばりつくように座っていた。
なぜこんな陰キャみたいなことをしてるかって?理由は簡単だ、昨日のあの夢が頭から離れないからだ。
あの夢は一体何だったんだろう?まるで現実の体験にも思えるような不思議な感覚だったのは間違いない。それに夢だったら今頃記憶の大部分は消えており、覚えていたとしても大雑把にしか残らないが今でも気持ちが悪いほど繊細に焼き付いている。
そんなことで貴重な高校最後の年の時間を潰していると、後ろから誰かに強い音がでるぐらい背中を叩かれた。
「ソウゴ、お前大丈夫か?ずっとこんな感じだったけど?」
俺を叩いてきたのは中学からの友達の神山ヒロユキだった。俺が叩いたことに顔を顰めてもヒロユキは気にせず二カッと笑い、前にある椅子を借りて俺に向かって座った。
「大丈夫だけど、変な夢を見てさあ」
「なんて奴だ?」
「なんか、神様に突然チートを与えてやるて言われて、それじゃあ買った宝くじが絶対に当選するチートをくれ、て頼んだ夢だよ」
「どんな夢なんだよ、チートとかお前異世界とかに行きたいのかよ」
「なわけないだろ、とにかく変な夢だったんだよ」
ヒロユキの冗談交じりの反応に面倒くさそうに返すと、腹の虫がアニメのように鳴った。
これを機に、俺は夢から別の話題へと変えた。
「なあ今日親が2人とも仕事で家にいねえんだよ、いっしょに俺ん家で飯食って泊まる?」
「いや今からバイトだからいいや、じゃあな」
「おう、じゃあな」
誘いを断られるとそこで別れて俺は1人となった。
俺はバイトは去年の12月で辞めており部活はやっていない、ヒロユキみたいに学校が終わってからも時間に追われることはない。
それでも今日は何もすることはない、だからといってずっと教室に居座るのも気が引くので俺もこの学校から出て、どこかで時間を潰そう。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
学校から出ていつもとは違う道に行って普段は入らない雑貨屋や古着屋に古書店などが並ぶ通りを歩いて、どこに入ろうかと舐めまわすように店を眺める。
ふと視界に入ってどの店よりも俺の目に留まったのは、地元のチェーン系列の大型スーパーの隣にポツンと建つ宝くじ売り場だった。
売り場の中にはお姉さんが人形のように座っているのが見える、アクリル板の向こうに座っているので人形感が増して見える。ここで俺はまたあの夢を思い出す。
でもこれも何かの縁だろう、俺は特に深く考えもせず吸い付くようにそのまま宝くじ売り場に足を運んだ。
「こちら何を購入なさいますか?」とお姉さんは作られた笑顔をこちらに向けて話しかけてきた。
俺は流れるように宝クジの種類を眺めて。
「それじゃあスクラッチを3枚」
スクラッチを頼むとポケットから財布を取り出し、3枚分の600円をお姉さんに手渡してお姉さんは受け取り確かめると、スクラッチ3枚を渡した。
スクラッチの銀の所を剥がすために10円玉を出して、迷惑にならないよう隣に移動して剥がし始めた。
1枚目、マークが3つ揃った、当たりだ。
2枚目、マークが4つ揃った、また当たった。
3枚目、マークが4つ揃った、また当たった。
「あの、全部当たりました」
売り場のお姉さんに教えると、お姉さんは「おめでとうございます」とまた笑顔を作り3枚分の合計金額を換算した。
「全部で2200円になります、ありがとうございました」
受け取り口から2200円を渡され、俺はそれを取った。
1枚だけでも外れたらいいのに、3枚も同時に当たるなんて偶然は?
「あの、今度は11枚でおねがいします」
俺はこの疑いを晴らそうと、もう一度買おうと、当選した2200円全てスクラッチに回した。
スクラッチ11枚が俺の手元にくると俺は急ぐように剥がした。
1枚目、2枚目、3枚目、4枚目、5枚目・・・・・・、全11枚を剥がし終えた俺は全部見直した。
当たってる!11枚、全部当選している!!
「あの、全部当たりました!全部!!」
興奮しながらお姉さんに伝えると、お姉さんは最初は眉を潜めて疑ったが11枚を渡して見せると全部当たってることに驚愕した。
お姉さんもさすがに笑顔を作ることが出来ずにいた。それでも驚きながらも当選した11枚を換金して。
「えっと、全部で45400円です」
45400円が俺の手元に届く。何なんだこれ?あの夢は夢じゃなくて、本当の出来事だったのか!?
「100枚!!今度は100枚を下さい!!」
朝一の漁港市場の魚の競りを争うおっちゃんのように、大声で叫んだ俺は受け取り口に押し込む形で100枚分である20000円をお姉さんに突き出した。
混乱したお姉さんはただ俺の言う通りに、スクラッチ100枚分を包装ごと俺に手渡す。
俺は悪い事をしていないのにも関わらず、まるで犯罪者のように周りの目を気にしてスクラッチをカバンに入れて、この場から去ろうとする。
思い出したかのようにお姉さんの方に振り向いた。
「あの、ありがとうございます」
形だけでもと思い、礼を言って去った。でもお姉さんの笑顔は引きつっていた。
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