夜が深くなってきた。店じまいの音が聞こえる。
自分たちもそろそろ帰ろうかと、エアコンを消した――その時だった。
悲鳴と、鉄パイプが散らばる音、獣の奇声が外で響いた。
鬼だ。
「あれだけ徹底的に守護符を貼っておいたのに、なんで……!」
「子どもがふざけて剥がしたり、神宮団が紛れていたりしたんだろう」
竜が疑いの眼差しを雫に向ける。雫は、竜の視線に気付き、困ったように微笑んだ。
「一掃してくる。姫は書庫に隠れていろ」
「私だけ?」
「姫が神宮団に襲われたのは、このクソ猫が陰陽師の血を引いているからだ。クソ猫といたら、また襲われる。こいつは信用できない。それにその格好だ、怪我もしかねない。暑いだろうが、鍵のあるところで待っていろ」
姫を書庫に入れて鍵を閉め、竜は力を解放した。右手中指の蕾が萌え、二本の角、青い刀が顕現する。
「ついてこい。貴様らも、書庫に近づいたら容赦なく斬る」
雫はうなずいて、陽のやわらかい体を肩に乗せた。
「陽くん、大丈夫です。僕も鬼人。万が一の時は力を使います」
「ありがとな」
陽の心に、雫への疑心はもはやなかった。
バニラの、甘い香りがした。
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