戦鬼伝

この願いを叶えるためなら、命も、世界も、かけてみせる――。
鈴奈
鈴奈

公開日時: 2020年10月14日(水) 20:00
文字数:471

 夜が深くなってきた。店じまいの音が聞こえる。

 自分たちもそろそろ帰ろうかと、エアコンを消した――その時だった。

 悲鳴と、鉄パイプが散らばる音、獣の奇声が外で響いた。


 鬼だ。


「あれだけ徹底的に守護符を貼っておいたのに、なんで……!」

「子どもがふざけて剥がしたり、神宮団が紛れていたりしたんだろう」

 竜が疑いの眼差しを雫に向ける。雫は、竜の視線に気付き、困ったように微笑んだ。

「一掃してくる。姫は書庫に隠れていろ」

「私だけ?」

「姫が神宮団に襲われたのは、このクソ猫が陰陽師の血を引いているからだ。クソ猫といたら、また襲われる。こいつは信用できない。それにその格好だ、怪我もしかねない。暑いだろうが、鍵のあるところで待っていろ」

 姫を書庫に入れて鍵を閉め、竜は力を解放した。右手中指の蕾が萌え、二本の角、青い刀が顕現する。

「ついてこい。貴様らも、書庫に近づいたら容赦なく斬る」

 雫はうなずいて、陽のやわらかい体を肩に乗せた。

「陽くん、大丈夫です。僕も鬼人。万が一の時は力を使います」

「ありがとな」

 陽の心に、雫への疑心はもはやなかった。


 バニラの、甘い香りがした。

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