戦鬼伝

この願いを叶えるためなら、命も、世界も、かけてみせる――。
鈴奈
鈴奈

公開日時: 2020年10月20日(火) 20:00
文字数:787

「本っ当に、すいませんでした!」

 光は額を地面にこすりつけ、土下座をしていた。竜は容赦なく白色の頭を踏みつける。

 姫と雫は無事に、紙人形から解放されていた。

「竜! やめなさい! えっと、伊達 光さん? たしかにちょっと困ったけれど、でも、警戒するのは当然です。解いていただいて、ありがとうございました」

「女神か! その腕の傷、治らなかったら、俺が結婚して一生償います!」

 鼻の下を伸ばして姫を見つめる光のつむじを、竜が思い切り踏みつける。光の額が、再び地面にぐりぐりとこすりつく。雫が慌てて、傷だらけの体を引きずりながら、竜に近づいた。

「斎王くん、僕にも責任があります。そもそも、僕がみなさんといたから、このようなことになったのです……。ご迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした」

 竜の怒りはおさまらない。体重が、白い頭にのしかかる。怒りの声が、哀れに地中に沈んでいく。

「いい加減にして!」という姫の稲妻で、ようやく、竜の足は両方とも地に着いた。

 砂で汚れた白色の髪をはらい、光は立ち上がった。竜の足元に、砂が混じった唾をペッと吐く。

「ったく、覚えてやがれクソ野郎め……。いやぁ、女神様、助かりました! 金魚のフンも、思ったよりいい奴だなぁ。それ、紙で指切ちまったかんじの痛みだろ。意外と深いから、ちゃんと消毒しろよ? ま、鬼人だから明日には治ってると思うけど。つーか、神宮団抜けたとか、ほんとかよ? じゃ、なんで蒼龍様を襲ってたわけ? いろいろ聞いておかなきゃなんねぇ感じすっけど、今、超眠いんだよな。お前ら、いつ帰るんだ?」

 三人は、竜を見た。

「俺たちは、蒼龍の力を手に入れに来た。手に入れるまでは帰らない」

「ふーん。じゃ、明日の昼過ぎに蒼龍神社の神殿裏に集合しようぜ。ちゃんと消毒して寝ろよ!」

 さんざん頭を踏みつけられたのに、光は溌剌とブルーシートの方へ帰って行った。

 すでに、二十二時を回っていた。

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