朝七時。三人と一匹は、雫と陽の部屋にて、朝食をとった。
黒髪をぴちっと一つにまとめた年配の仲居が給仕だったが、昨日の仲居ほど甲斐甲斐しくなく、食事を並べ、ごはんを盛りつけると、颯爽と出て行った。
陽は、怪訝な眼差しを竜に向けた。姫がどうもしょんぼりしていて、食欲もないのである。
ひゅっと動いて、あぐらをかく竜の膝に爪を立てる。
「お前、何かしたんじゃないだろうな!」
竜は目も合わさず、裏手をつかって、熱い茶を黒い毛玉に叩き込んだ。ギャンと飛び跳ね、避難してきた陽の毛皮に、姫は慌てて、冷たいお絞りを当てがった。
「ひどいことしないで!」
竜はつんとすねて、海苔の袋を破いた。
「姫さん、お疲れですか?」
雫が、心配そうに首を傾げる。姫は、「ちがうの……」とつぶやき、自らの爪に目を落とした。
朝、目が覚めて、ふと竜の方を見ると、竜の布団が、浴衣が、血まみれになっていた。そして、姫の爪の縁にも、こびりついた赤茶色の跡が残っていたのだという。
「深夜に虫に刺されて、怪我のところを掻き壊したんだ。血が止まらなくなって起きたら、姫も起き出して……。寝ぼけたまま手当てしてたから、覚えてないんだろう」
「なんだよ。やっぱお前のせいじゃん。人騒がせな奴だな」
陽は竜を一瞥するも、竜から一瞥を反撃され、ふんと目をそらした。
姫は、合点できなかった。だが、何も分からない。
行き止まりで立ち尽くすような姫の表情を、雫は、しんと見つめていた。
水のように静寂に、氷のように尖鋭に。
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