戦鬼伝

この願いを叶えるためなら、命も、世界も、かけてみせる――。
鈴奈
鈴奈

十三

公開日時: 2020年11月16日(月) 20:00
文字数:674

 開け放たれたやかたに、白い布で顔を隠した三人の男が座っている。

 御座に座る若い夫婦を、何人もの武士が取り囲む。

 武士たちの袖には、五行の刺繍が縫い込まれている。陰陽武士の証だ。


 一人の男が鏡を掲げる。

 その銀光に照らされた途端、女は、真っ白な姿になり果てた。

 髪も肌も目も全て真っ白な、人ならぬ者。

 白い体を、一振りの太刀が貫いた。

 それに続くように、無数の刃が、体を串刺しにした。


 朦朧とする意識の中、女は目を覚ました。

 傷だらけの顔をした男が、何かを言っている。


 かつては、聞こえなかった――聞こうとしなかった声に、耳を傾ける。


「あなたを幸せにすると約束したのに、私は……あなたも……深手を負ってしまった……。追手が来る前に、あなたを、これ以上奴らの手で、傷つけさせないよう……せめて、守らせてください……」


 男は震える体を起こした。唇から血が流れ、女の白い羽衣を赤く濡らす。

 そして男は、震える指で、青い刃を抜いた。


「生まれ変わって、次にあなたと出会えたら、その時は今度こそ、必ず、あなたを、幸せにします」


 青い刃に、体を貫かれる。

 だが、憎しみは、なかった。


 ――ああ。やっぱり彼は、約束を守ってくれる人だった。


 彼に愛され、彼を愛して、ともに過ごした全ての時間が、体を流れていく。

 心が、温かくなる。

 来世の約束なんて、いらない。自分は十分、幸せだった。

 この痛みさえ、愛おしく思えるほどに。


 けれど、彼はきっと、約束を守ろうとするだろう。


 ならば、せめて――。





 残された力で、女は、男の冷たい頬に触れた。



「あなたの幸せが、私の、幸せ……」



 真っ白な瞳から真珠がこぼれ、天女は、微笑んだ。

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