赤い鳥居をくぐると、壊れた社務所が目の当たりになり、二人は立ち尽くした。かんかん照りのもとで改めて見ると、夢から覚めた気分でショックもひとしおである。玄関だけでなく、室内も、鬼人が振るった刀で襖や壁が傷ついたり、障子が破れたりしていた。昭和時代の古い家で辟易していたが、こうまでズタボロになると、ひどく哀しい気持ちになった。
いち早く書庫に行きたい気持ちもあるが、掃除を優先した。
奥の部屋には、真っ二つになった家宝の残骸が転がっていた。陽の血の痕跡は、畳に染み込んでいた。姫は白い指を震わせ、そっと跡をなぞった。
あらかた片付いたのは、十三時を過ぎた頃であった。
コンビニで調達した昼食をとってから、いよいよ二人は書庫に足を踏み入れた。
書庫は一見、社務所の裏に建つ、ただの古ぼけた小屋であった。錆びた鍵で扉を開けると、埃と砂の混ざったにおいがして、息もできないような熱気がむわっと押し寄せてきた。十数の本棚が図書館さながらにそびえ立ち、上から下までびっちりと、古い本が並んでいる。
二人はそれらしき本を選び、クーラーの効いた部屋へ運ぶことにした。
最下段から手が届くところまでを姫が、それより上を陽が見て、陰陽道に関連していそうな本を選び、足元に積んでいく。
山になっては運び、山になっては運び……。何往復かしたところで、ようやく三棚分、精選できた。
姫は額の汗を手の甲で拭って、残りの棚たちを静かに見つめた。
社務所から、十五時を知らせる鐘の音が聞こえてきた。
「今日一日じゃ、とても終わらないわね。今日はこのくらいにして、あとは部屋で、選んだ本を読んでみましょう」
「賛成!」
「そういえば、懐かしい本とかあった?」
「いや、実は入ったことなくて。小さい頃って、なんかこういう小屋にお化けがいるような気がするじゃん? だから入ったこともなければ、当然、本も読んだことないんだ」
「そうなのね。じゃあ、もしかしたら今日、陰陽道のこと、いろいろ分かるようになるかもしれないわね」
「いやぁ俺、人間国宝になっちゃうかも!」
――などと期待したことはおろか、人間に戻るための方法さえ、掴むことはできなかった。
掴む、以前の問題である。書庫の本は全て蛇のようなぐにゃぐにゃの羅列やら、難しい漢字とカタカナで構成された直列やらで記されていた。
つまり、端的に言うと、全く読めないのである。
「日本語じゃないな……」
「そうね、古い日本語なんだわ。漢字とカタカナで書かれた本なら、頑張れば読めそうだけど……」
想像以上に長い道のりになりそうだ。二人は言葉なく、顔を見合わせた。
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