姫をひとりぼっちにして、何をしているのだろう。
真っ暗な部屋で、窓の鍵を、カーテンを閉めて――これじゃあ、姫が無事に帰って来たかなんて、分からないのに。
姫が、自分とは一緒にいられないと、そう言っただけじゃないか。
そんなことは、分かっていた。
いつかそうなるだろう、という覚悟だってできていた。
一緒にいられようと、いられまいと、自分の願うことは変わらない。するべきことは変わらない。
姫が幸せになることを願う。そのために、戦う。
それだけだ。
そのはずなのに……。
竜は、部屋のどこかも分からないところで、膝を抱えていた。呼吸が苦しい。
心臓にぽっかり大きな穴が開いて、もう決してふさぐことができないような、果てしない痛みが走る。体がねじ切れてしまいそうだ。いっそ、ねじ切れてしまえばいいとさえ、思う。
――姫とは、もう、一緒にいられない。
その言葉が脳裏に浮かぶたび、苦しくて、苦しくて、力いっぱい、手を握った。
体が勝手に、浅く、呼吸を求める。
どうして、こんなに痛いのだろう。
ふと力がゆるんだ時、深く吸った空気と一緒に、答えが体中に沁み渡った。
――姫と一緒に、いたかった。
大人になっても、ずっと一緒に、いたかった。
だが、姫はそれを望んでいない。
一緒にいたいなんて、自分の思いでしかない。
自分の思いなど、必要ない。
必要なのは、姫が幸せになること。それだけだ。
――姫が幸せになるなら、それでいい。
一緒にいても、いなくても、姫への想いは変わらない。
どんなに苦しくても、痛くても。それで姫が幸せになるなら、構わない。
竜は、固く握った左手に、口づけた。
幼い頃の記憶に刻まれたクローバーの青いにおいに、すがるように。
窓を打つ雨の音が、ひとりぼっちの部屋にあふれた。
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