戦鬼伝

この願いを叶えるためなら、命も、世界も、かけてみせる――。
鈴奈
鈴奈

十五

公開日時: 2020年10月25日(日) 20:00
文字数:822

 竜は、静かに目を開いた。

 音もない、無の世界。

 温かさに包まれながら、ふわふわと漂っているようだ。

 青白く揺れる、細い煙が見える。


――オマエ ノ タマシイ ハ ナゼ アオイ。


 煙が、言った。どこかで聞いたような言葉だ。竜は、落ち着いて、過去をつなげていった。

 自分は、蒼龍に挑んだ。空から地上に落ちながら、蒼龍の声を聴いた。蒼龍は水になり、自分を包み込んだ。

 

 そうか。ここは蒼龍の中。蒼龍の精神世界だ。

 目の前のあの煙は、蒼龍の魂なのだろう。


 竜は少し考えて、自分でもうまく説明できない問いに答えた。

「俺は、鬼人だ。だが、青い刃の刀を持っている。だからだ」


――アオイ……アア、アノ オトコ ト オナジ……ホントウ……ダ。


「俺はお前を、再びこの刀に宿しに来た」


――ナラバ、ミサダメヨウ。オマエ ガ ワレ ノ チカラ ヲ ツカウ ニ フサワシイ カ。


 竜は、鋭く煙を睨んだ。

「いいや、見定めるのは俺の方だ」

 煙は、風に吹かれたかのように、大きく揺れた。

 消えてしまうのではないかと思ったが、やがてもとのとおり、ゆらゆらと揺れた。

「お前は、不浄な物を浄化する力があると言ったな。鬼神は今、姫の――ある人間の体に宿っている。人間はそのまま生かし、鬼神だけを殺すことは可能か」

 煙は、しばらく静かにゆらゆら揺れた。


――ワレ ハ テンニョ ニ ツクラレタ。テンニョ ハ ワレ ニ シメイ ト チカラ ヲ アタエタ。ダガ アタマ ハ クレナカッタ。ダカラ ワカラナイ。


 ため息をつく竜に、蒼龍はゆっくりと言葉を続けた。


――タマシイ デハ ナク アノ イシ……チカラ ノ ミナモト ダケ タベレバ オソラク。


「可能性はあるんだな」

 返事の代わりに、煙は小さくうねった。

 竜は、右手を差し伸べた。

「俺と契約を交わせ。姫を鬼神から解放すると誓え。代償は、なんでもくれてやる」


――オニガミ ノ クビ デ ジュウブン ダ。ソノ カクゴ、タシカニ ミトメタ。


 煙は最後にそれだけ言い残すと、竜の右手中指の赤い宝石に吸い込まれていった。

 みるみるうちに、竜を包んでいた世界そのものが、指の中に入り込んだ。

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