竜は、静かに目を開いた。
音もない、無の世界。
温かさに包まれながら、ふわふわと漂っているようだ。
青白く揺れる、細い煙が見える。
――オマエ ノ タマシイ ハ ナゼ アオイ。
煙が、言った。どこかで聞いたような言葉だ。竜は、落ち着いて、過去をつなげていった。
自分は、蒼龍に挑んだ。空から地上に落ちながら、蒼龍の声を聴いた。蒼龍は水になり、自分を包み込んだ。
そうか。ここは蒼龍の中。蒼龍の精神世界だ。
目の前のあの煙は、蒼龍の魂なのだろう。
竜は少し考えて、自分でもうまく説明できない問いに答えた。
「俺は、鬼人だ。だが、青い刃の刀を持っている。だからだ」
――アオイ……アア、アノ オトコ ト オナジ……ホントウ……ダ。
「俺はお前を、再びこの刀に宿しに来た」
――ナラバ、ミサダメヨウ。オマエ ガ ワレ ノ チカラ ヲ ツカウ ニ フサワシイ カ。
竜は、鋭く煙を睨んだ。
「いいや、見定めるのは俺の方だ」
煙は、風に吹かれたかのように、大きく揺れた。
消えてしまうのではないかと思ったが、やがてもとのとおり、ゆらゆらと揺れた。
「お前は、不浄な物を浄化する力があると言ったな。鬼神は今、姫の――ある人間の体に宿っている。人間はそのまま生かし、鬼神だけを殺すことは可能か」
煙は、しばらく静かにゆらゆら揺れた。
――ワレ ハ テンニョ ニ ツクラレタ。テンニョ ハ ワレ ニ シメイ ト チカラ ヲ アタエタ。ダガ アタマ ハ クレナカッタ。ダカラ ワカラナイ。
ため息をつく竜に、蒼龍はゆっくりと言葉を続けた。
――タマシイ デハ ナク アノ イシ……チカラ ノ ミナモト ダケ タベレバ オソラク。
「可能性はあるんだな」
返事の代わりに、煙は小さくうねった。
竜は、右手を差し伸べた。
「俺と契約を交わせ。姫を鬼神から解放すると誓え。代償は、なんでもくれてやる」
――オニガミ ノ クビ デ ジュウブン ダ。ソノ カクゴ、タシカニ ミトメタ。
煙は最後にそれだけ言い残すと、竜の右手中指の赤い宝石に吸い込まれていった。
みるみるうちに、竜を包んでいた世界そのものが、指の中に入り込んだ。
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