戦鬼伝

この願いを叶えるためなら、命も、世界も、かけてみせる――。
鈴奈
鈴奈

公開日時: 2020年10月9日(金) 20:00
文字数:328

 陽は、走っていた。唯一頼れる、姫のもとへ。裏庭のびわの木をしなやかに駆け登る。

 見回すと、幸い、暑さのためか、二階の角部屋の窓が少し開いていた。

 部屋に入ると、甘く、優しく、花のような、姫の香りがした。姫の寝顔が、月に照らされる。


「姫! 姫! 起きて! 起きてくれ!」


 ベッドに上がるのは忍びなかったが、四の五の言ってはいられない。陽は耳元で思い切り叫んだ。


「……ん……? 陽の、声……?」


 ぼんやりと枕元のスマホを触ると、画面に時間が表示される。

 午前三時。メッセージの通知も来ていない。


「姫!」


 顔先に現れた姿に、姫はびっくりして悲鳴を上げた。

 ドキドキする胸を押さえて、もう一度、その姿を見る。


「その声……陽、なの?」


 そこには、黒く、小さな、黄金の目をした、


 ――猫がいた。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート