家族や友人の犠牲。
最悪な事態を、考えないことはなかった。
だが、その時に負う心の傷がどれほど深くなるかまで、想像できるはずがなかった。
無二の親友の死で、姫の心は絶望の海に沈んでしまった。
姫を守ると言っておきながら、何も守ることができなかった。
姫も、姫の大切な人も、全部全部守ってやればよかった。
そうすれば、姫の心は守れたかもしれない。
自分にはもう、これ以上、絶望を増やさないようにすることしかできない。
そのために、もう一度だけ、姫を傷つけなければならない。
それでも、これで、最後の一つで、絶望はなくなる。
最初から、そうしていればよかったのだ。
そうすればきっと、こんなに苦しめなくてすんだのに。
姫を傷つけたくないといいながら、動けなかったのは―動かなかったのは。
自分が弱くて、姫の傍にいたい気持ちに負けて、甘んじていたからだ。
真っ暗な部屋で、竜は、青い刃を握りしめた。
自分の気持ちは捨てる。自分にできる限りのことをする。
たとえそれで、姫の傍にいられなくなっても。たとえ、命が尽きようとも。
――奴を、殺す。
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