戦鬼伝

この願いを叶えるためなら、命も、世界も、かけてみせる――。
鈴奈
鈴奈

第七章ー廻ー

公開日時: 2020年11月11日(水) 20:00
文字数:450

 家族や友人の犠牲。

 最悪な事態を、考えないことはなかった。


 だが、その時に負う心の傷がどれほど深くなるかまで、想像できるはずがなかった。


 無二の親友の死で、姫の心は絶望の海に沈んでしまった。

 姫を守ると言っておきながら、何も守ることができなかった。

 姫も、姫の大切な人も、全部全部守ってやればよかった。

 そうすれば、姫の心は守れたかもしれない。

 自分にはもう、これ以上、絶望を増やさないようにすることしかできない。

 そのために、もう一度だけ、姫を傷つけなければならない。

 それでも、これで、最後の一つで、絶望はなくなる。


 最初から、そうしていればよかったのだ。

 そうすればきっと、こんなに苦しめなくてすんだのに。


 姫を傷つけたくないといいながら、動けなかったのは―動かなかったのは。

 自分が弱くて、姫の傍にいたい気持ちに負けて、甘んじていたからだ。


 真っ暗な部屋で、竜は、青い刃を握りしめた。


 自分の気持ちは捨てる。自分にできる限りのことをする。

 たとえそれで、姫の傍にいられなくなっても。たとえ、命が尽きようとも。


 ――奴を、殺す。

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