憎しみが、おさまらない。
もうない体に、ただの砂に、ただの土に。青い切っ先を、深く、深く、めり込ませる。
こんなに憎い魂の塵に、この願いを叶えさせたくない。
右手に吸い込まれるこの砂を、一粒残らず、永遠の苦しみを味わわせて消し去ってやりたい。
肩が荒く息をする。体が、痛い。呼吸が、苦しい。
憎い、憎い、憎い、憎い――。
ふっと、目の中が白くなった。
――背中が、温かい。
見なくても、分かった。姫が、竜の傷を埋めるように、やさしく、頬をくっつけている。
|泡沫《うたかた》を抱きしめるように、細い腕が、竜の体を包み込む。心の奥に、温もりが染みていく。
深く息を吐いて、竜は、願った。
ああ、やっぱり――咲いてくれ。
今感じている幸せを、今までもらった幸せを、全部、全部、返してあげたい。
今でなければ、だめだ。
こんなにいとおしい人に、深い傷を負ったまま、苦しみを抱いたまま、生きてほしくはない。
自分の魂だって、体だって、心だって、世界だって、いくらでも喰べて構わない。
だから、どうか、咲いてくれ――。
赤い蕾から、無数の花びらが開いた。
それは、赤く、小さな、シロツメクサだった。
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