雫の先導によってたどり着いたのは、江戸市の山奥にある古い洋館だった。雫が神宮団だった時、本部だった場所だという。しかし、どの部屋を探してみても、荒れ果てて人の気配はない。
光がばてて、その場に寝転んだ。
「畜生! 他に手がかりねぇのかよ!」
雫も陽も、その場に崩折れた。
ここ以外に奴らが使いそうな場所はどこだ。ゆかりのある旅館、ホテル、施設……。
分からない。検討がつかない。そんなものは、かつてはなかった。俗世に隠れていたからだ。
どうしたらいい――。
シャツが、汗でぐっしょり濡れている。高気温の中の山登りで、頭が沸騰して、うまく頭が動かない。
竜が、こぶしを壁に叩きつけた。古い木がガコンと軋む、鈍い音がした。
雫の額から、滝のように汗が流れる。まつげについた透明の玉で、視界がぼやける。
不意に、動くものが見えた。窓際に、何かいる。
汗を拭って目を凝らすと、それは小さな鳩だった。
鳩は一度だけ喉を鳴らすと、部屋の中を低空飛行し、陽の頭の上に、何かを落としていった。誰かの名刺のようだった。よく見ると、有名な財閥の総帥の名前が書いてある。
もし、これが手がかりだとすれば、この財閥におしかけて総帥の居場所を聞くか、この財閥が抱えている邸宅や旅館をつぶしていけば、行き着くかもしれない。
「みなさん、振り回して申し訳ありません。もう少し、お付き合いいただけますか」
立ち止まってはいられない。可能性がある限り、進み続けなければならない。
彼らは立ち上がり、あふれてやまない額の汗を拭った。
ほのかに、金木犀の残り香がした。
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