奥底に沈む、意識の中で。竜は、業を煮やし始めていた。蒼龍の、がむしゃらで一方通行な攻撃に、ライゴウは幾重もの盾を用意して対抗し、余裕を見せ始めている。
苛立たしい。こんなことをしている場合ではない。こんな奴はどうでもいい。
自分は、姫のために来た。
この体も、この力も、全部、姫のためにある。
行かなければ。今すぐ。
今すぐ、姫を、守るために――!
遠い意識の先へ、強く、手を伸ばす。
その時。
全身を満たしていた蒼龍の力が、さっと引いていくのを感じた。体の感覚が、意識が、はっきりと戻ってくる。気が付くと、太刀に巻き付く白い煙に、確かに、うろこが浮かんでいた。
「つまんないなあ。もうそろそろ、首の骨折っちゃうね?」
ライゴウが、指を動かす。ガチャガチャと金属音が鳴る。そして、鋭い爪を伸ばし、まっすぐに突っ込んできた。
「蒼龍!」
竜の声に呼応して、白い煙が、蒼龍の姿を成した。巨大な口が、無数の牙が、ライゴウを嚙みくだこうと襲い掛かる。ライゴウは一瞬、白い顔をひるませたかに見えたが、蒼龍の口の前に分厚い金色の壁を建て、瞬きのうちに竜の目前に詰め寄った。
薙ぎ払った青い刃が、ライゴウの籠手とぶつかる。全力で押し込んでくる竜を、少女の鼻が嘲笑う。
金鬼ライゴウは、どんな攻撃も跳ね返す、鉄壁の守りを誇る。
蒼龍の浄化の力も届き切らぬほど、濃い守りの力が、奴の身から放たれている。
だが、それは、蒼龍の力をまとった太刀が、届ききらなかっただけのこと。
本物の蒼龍の浄化の力を前に、金鬼の盾など、薄氷にすぎない。
ライゴウの背後から、蒼龍が猛った。
一瞬のうちに、ライゴウの体に巻き付き、黄金の鎧を浄化する。
鎧が溶け、身動きも取れない。焦燥と絶望に染まる、ただの女子高生になっていく。
竜は、ふっと力を抜いて体をかがめると、するりと回転し、ライゴウの腹部を斬り裂いた。
黄色い絶叫が耳をつんざく。少女の体が、みるみる砂になっていく。
砂に追いかけられながら、竜は、がらんどうの玄関に走った。
炎はいつの間にか森に流れ、暗闇を赤々と覆い尽くしていた。
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