戦鬼伝

この願いを叶えるためなら、命も、世界も、かけてみせる――。
鈴奈
鈴奈

公開日時: 2020年10月13日(火) 20:00
文字数:385

 彩と別れると、竜と姫は社務所に上がった。

 襖を開くと、クーラーでキンキンに冷えた居間の真ん中で、負のオーラをまとった黒猫がぐんにゃりと倒れていた。「おじゃましてます」と顔を覗き込むと、涙でびしょびしょになっていた。

「ごめん、姫……。結局、人間に戻るの、間に合わなくて……。約束、守れなくて……」

「そんな。私のことはいいのよ。一番つらいのは陽でしょう。むしろ、彩と一緒に行くように言ってくれて、ありがとう」

 黒い毛玉を引き寄せようと手を差し伸ばすと、竜が、「毛がつく」と制止した。


 陽が猫になってから二週間。相変わらず、人間の姿に戻るための方法は掴めないでいた。


 しかし、一つだけ、大きな変化があった。

「お二人とも、お帰りなさい」

 襖を開けて入ってきたのは、天野 雫である。

 彼の手にあるお盆には、グラスが二つ並んでいた。

 透き通った緑茶の中で、氷とグラスがこすれ合う、涼しい音が響いた。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート