彩と別れると、竜と姫は社務所に上がった。
襖を開くと、クーラーでキンキンに冷えた居間の真ん中で、負のオーラをまとった黒猫がぐんにゃりと倒れていた。「おじゃましてます」と顔を覗き込むと、涙でびしょびしょになっていた。
「ごめん、姫……。結局、人間に戻るの、間に合わなくて……。約束、守れなくて……」
「そんな。私のことはいいのよ。一番つらいのは陽でしょう。むしろ、彩と一緒に行くように言ってくれて、ありがとう」
黒い毛玉を引き寄せようと手を差し伸ばすと、竜が、「毛がつく」と制止した。
陽が猫になってから二週間。相変わらず、人間の姿に戻るための方法は掴めないでいた。
しかし、一つだけ、大きな変化があった。
「お二人とも、お帰りなさい」
襖を開けて入ってきたのは、天野 雫である。
彼の手にあるお盆には、グラスが二つ並んでいた。
透き通った緑茶の中で、氷とグラスがこすれ合う、涼しい音が響いた。
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