生まれつき右手の中指に赤い石が埋め込まれていた光は、すぐに施設に入れられた。
記憶も朧げなほど幼い頃は、日中は実の父母のもとで過ごし、夜だけ施設に帰るような生活だった。
だが、小学校に入学してから、完全に施設の子になってしまった。
こっそりと実家に行くと、母親が赤ん坊を世話しているのが見えた。弟が生まれたのだ。遠目から見ても、小さくて、やわらかそうで、可愛いと思った。
学校帰りは実家に立ち寄って、こっそり窓から中を覗くのが日課になった。チャイムを押したら、追い返されて、二度と来られなくなってしまう気がして、できなかった。
弟は、日に日に成長していった。寝転がって、手足を動かしているだけだった小さな生き物は、たどたどしく立ち上がって、ふらふらと歩けるようになった。ふわふわだった髪もしっかりと生えてきた。どろどろになって食べていたごはんは、スプーンやフォークを使って食べられるようになった。
しかし、三年後。弟は実家から姿を消した。母親が顔面蒼白で涙を流している姿ばかりが目に入る。
光はいてもたってもいられず、学校をさぼって、朝から実家の近くに潜み、様子を伺った。実母がタクシーに、「武蔵第一病院へ」と言うのが聞こえた。
一時間半歩いて病院にたどり着くと、弟は入院していた。
きれいだった黒髪はぼろぼろに抜け落ちて、頭部はまだらになっていた。ピンク色で、いつもよだれで潤っていた唇は、からからにひび割れていた。皮膚は全体的に青白く、腕には大きなトンボが刺さって、包帯でぐるぐる巻きになっていた。ひとりぼっちでぼんやり、手の中の人形を眺めていた。
光は、思い切って病室に入り込んだ。大部屋で相室の子どもの兄弟が、興味本位で話しかけたふりをして、声をかけた。
「それ、何の人形?」
虚ろな瞳が、光の顔を映した。
「ファイトマン……」
はじめて聞く幼い声に、胸がきゅっとした。
その人形は、赤い目の、トンボのような顔をしていた。頭の先が尖っている。体は赤や白、銀色で塗られている。全身スーツなのだろうか。
「好きなのか?」
「うん、すきだよ。ほのおのパンチだすの、かっこいい」
「へぇ」
「おにいちゃん、しらないの? テレビでやってるよ」
災厄の鬼人を詰め込む無機質な施設は、食堂と、数人部屋と、トイレと、シャワーだけ。テレビなどの娯楽はなかった。
光は、ベッドに転がっているもう二体の人形について聞いた。それらは、ぎざぎざの体をした化け物だった。ファイトマンの敵らしい。
光は遊び方を心得て、人形遊びの相手をしに来るようになった。母親が来るのは、朝の十時から十五時。光は学校などお構いなしに、朝の九時から三十分ほどか、十六時から面会終了の一時間、弟の病室に顔を出した。毎日毎日足しげく、一時間半の道を往復した。
弟は次第に心を開き、笑顔を見せるようになった。目をキラキラと輝かせ、ファイトマンを動かす弟を、光はとても愛おしく思っていた。
だが、冬になるにしたがって、弟の体調は思わしくなくなっていった。ひゅうひゅうと息を立てて呼吸をしながら、乾いた唇で、絶望を漏らすことが多くなった。目の下には、青いくまができていた。
「ぼく……しんじゃうんだって……」
「そんなわけない! 病院にいるんだから、治るって!」
「でも、ママとパパ、いつもないてる……」
光は、ファイトマンを弟の額にくっつけた。
「熱いハートに正義を燃やせ! ファイッ! トッ! マーンッ!」
すっかり覚えてしまった、ファイトマンの決め台詞を言い放つ。
「明は、ファイトマンの諦めないところが好きなんだろ。そんならお前も、諦めちゃダメだ!」
弟は、点滴に拘束されて、ぐるぐる巻きの腕をさすった。
「おにいちゃんは……ファイトマンに、にてるね」
「えぇ? 俺、こんな顔?」
ショックを受けて人形と見つめ合う光がおかしくて、弟はかすかに笑った。
その日から、鬼との戦いを始めた。
右手中指の石が花を咲かせれば、なんでも願いが叶う。それならば、弟の治らない病気を、自分が治してやればいいのだ。
十歳の頭でたどり着いた希望に縋り付き、光は、夜の街に繰り出した。
この日まで、鬼と戦ったことなどなかった。施設が鬼に襲われた時も、シェルターに入って免れたり、強い年長者がなんとかしてくれたりしていた。
光の力は、風を出すこと。吹き飛ばして、ちょっと隙をつくることしかできなかった。
襲ってくる鬼を風で吹き飛ばし、電信柱に打ち付けて、台所から持ち出した果物包丁でとどめを刺す。はじめて鬼を刺してしまった時は、ぬめっとした肉感と、細胞がぶちぶちと切れる感じに背筋が凍り、罪悪感でいっぱいになった。
しかし、繰り返していくうちに、慣れてしまった。
一筋縄ではいかない鬼とも、何度も戦った。体中が傷だらけになった。
それでもなんとか生きながらえて、右手の石に砂を吸い込んだ。
二年間戦い続けても、赤い蕾は、膨らみもしなかった。
そんな時、弟が退院をした。薬の効果が出て、治り始めたのだという。
実家に弟の姿を見に行くと、弟はピンク色の唇で、無邪気に母親に抱き着いていた。
母親と父親は、笑顔で言葉を交わしていた。温かな夕日が、三人を橙で包み込んでいた。
――よかった。
でも――胸が痛かった。昨晩深くえぐられた二の腕を握る。
そして一人、窓に背を向けた。
足早に、実家から離れていく。涙があふれて、こぼれて、止まらない。
走って、走って、走って――どこかも分からない橋の下にたどり着いて。
そこでようやく、声を上げて泣いた。
弟が、治ってよかった。家族に、笑顔が戻ってよかった。
それは、本当に思っている。
思っているけど、でも――自分が戦ってきたのは、なんだったんだ?
何のために、ぼろぼろになって、あんな思いをして、戦ってきたんだ?
こんなに戦ったのに、あの橙色の中に、自分は入れない。
弟を救って、あわよくば、家族にありがとうって言われて、迎えてもらって――。
こっそり、そんな希望を持っていた自分に気付いて、呆れかえる。
弟を、そのための道具みたいに考えていた自分にも気付いて、いやになる。
自分のしてきたことは、何の意味もない。
誰にも受け入れてもらえない。
願いなんて、一つも叶わない。
橋の下の影の中で、光は、泣き続けた。
それから光は誰とも会いたくなくなって、施設にも帰らなくなった。
路地裏の隅で一人、膝を抱える。
何時間、いや、何日か経った頃だったろうか。鬼人の不良が取り囲んで、幼い新顔を覗き込んだ。
奴らは、光を廃屋に連れて行き、光の皮膚に釘を刺して遊んだ。
光は、怒りに任せて、風で廃屋を滅茶苦茶に壊した。
その噂が広まると、鬼人や鬼に絡まれるようになった。
傷つけられるたびに、傷つけるたびに、心が暗く、濁っていく。
――全てから拒絶されたい。全てを、拒絶したい。
その一心で髪を染め、ずたずたの耳にピアスをつけた。近づいたら肌が切れてしまいそうな空気が助長され、光に近づく者は、次第にいなくなっていった。
一人でいると、時々、絶望が胸でうずいた。
――こんな世界、なくなっちまえばいいのに。
――なんで俺、食いつないでんだろ。生きてねぇで、とっとと死んじまえばいいのに。
黒い心が爆発するように、しばしば、鬼人の力が暴走した。ビルを一棟、壊してしまったこともあった。
その直後だっただろうか。路地裏で壁にもたれかかって座っていると、中年の男が近づいてきた。しゃがんで、顔を覗き込んでくる。
男は、珍しく不良ではなかった。かといって、警察という風合いでもなかった。ごく普通の、右手中指に赤い石がない、人間だ。十一月、冬に近づきつつある秋の日には似合わず、薄い長袖シャツに、半ズボン、サンダルといった姿だった。散歩をしに出てきたような気楽さが怪しかった。
「お前、いくつだ?」
光は答えず、顔を背けた。
男はまじまじと、光の頭のてっぺんから、ぼろぼろの靴の先までを眺めた。パッと目につく金髪やピアス、皮と骨だけの傷だらけな体、死人のような目、血や汗で汚れたままのよれた白いシャツ。何日体を洗っていないのか、異臭が漂っている。
男は、顔をむんとした。
「俺は、怪しいもんじゃない。ここらでビルをぶっ壊した奴がいたって聞いたんで、どんな奴か見に来ただけだ。そしたら、こんな危ないところにお前みたいな子どもがいたんで、気になってな。家は? 施設か?」
「……るっせぇ」
「あ? なんてった?」
男が聞き返した途端に、光の脳裏で、プチンと切れた音がした。
「うるっせぇ! 向こう行け、じじい!」
額から一角が生え、牙が伸びる。振り上げた右手が、男に強烈な風を打ち付けた――はずだった。
男は腕で風を受け、その風圧を使って体を上に移動させると、しなやかに跳んで、光の背後に立った。そして静かに、光の後頭部に何かを貼った。一角も牙も、右手の石の輝きも、しゅんとおさまった。
「てめぇ……何しやがった!」
「ちょいと封印させてもらった。竜巻で壊されたと聞いていたが、そうか……お前か」
光は、睨んだ。獣のような目だった。
男は、光の骨のような腕を掴むと、ぐいと引っ張って路地裏を出た。
力の使えない光は、ただのガリガリの子どもになってしまった。
抵抗も虚しく、民家の間にある小さな神社に引きずり込まれた。温かな電光がこぼれる社務所を、男が、がらりと開ける。橙色の明かりが迫ってきて、目の奥が痛くなった。
中年で小太りの、優しそうな女性がびっくりした顔で出迎える。十歳くらいの少年が、階段の上から、おびえた様子で、目だけで覗き込んでいた。
困惑しているうちに、男は次々と二人に指示を出した。光は着替えとタオルを押し付けられ、洗面所に押し込まれた。少し考えて、そっと洗面所の扉を開けると、男が立っていて、ぴしゃりと扉を閉められた。風呂に入らないと、ここから出してもらえないらしい。
渋々、体をお湯で流した。温かくて、心まで溶けていくようだった。体も心も冷えていたのだと気付いた。黒やら赤やら茶色やら、なんだかよく分からない色のお湯が、体をつたい、足元から流れて行った。
十歳の子ども服は少し小さかったが、やせ細った体には、ちょうどいいくらいだった。
居間に連れ込まれ、布団がくっついた卓に入らされた。中で火が燃えているのか、足が焼けてしまいそうだと思った。布団はなんだか、湿っているような、べたついているような気がした。知らない家のにおいがした。
男は光の肩を掴んだまま、いろいろなことを尋ねた。名前とか、どこの施設だとか、どうしてあそこにいたのかとか、どんな生活をしていたのだとか……。
光は膝を抱えて、布団に唇をくっつけ、卓の上のミカンを睨んでいた。
居間の襖がおずおずと開いて、少年がおびえた目を覗かせた。
「お父さん……布団、敷けたけど……」
男は、光の肩を力強く叩いた。骨の奥にずんと響いた。
「明日、もう一回聞く。とりあえず、今日はうちで寝ろ」
少年に案内されるまま二階へ行くと、小さな和室に、布団が二つ敷いてあった。少年は、入り口側の布団を指差して、「こ……こっち、使っていいよ」と言うと、そそくさと窓側の布団に潜った。頭から白い布団を被って、小刻みに震えていた。光が怖いのだろう。
光はやや悩んだ。今なら、出ていける。このまま眠ったら、明日の朝、警察に突き出されるかもしれない。施設に戻されるかもしれない。
だが、布団の誘惑には勝てなかった。
光は布団に潜ると、冷たくなった鼻を掛布団でこすった。数か月ぶりの布団はひんやりしていて、自分の体温を教えてくれるようだった。体中の痛みやだるさが吸い取られていく。何かの花のにおいと、畳のにおいがした。
「……名前、何ていうの?」
背後から、小さな声が震えた。
「……光」
なんとなく、苗字は言いたくなかった。
「僕は、|幸輝《こうき》」
光は、こうき、と小さく繰り返した。
「光くんは、いくつ?」
「今年で十二」
「見えないね」
「あぁ?」
威嚇すると、隣の白い布団は、さらに形を丸くした。
二人は、口を閉ざした。外が森だからだろうか。耳慣れない、コロコロした虫の声が聞こえる。
今まで吸ってきた汚いものを出すように、光は大きなため息をついた。
「…………光くんって、武蔵六小? 僕は五小なんだけど……」
眠りに落ちそうになっていた時に、また話しかけてきた。繭の中に閉じこもっているくせに、度胸がある。ちぐはぐな奴だ。それでも、いつもの奴らのように毒気がなく、答えてもいいか、という気分になるから不思議だった。
「……行ってねぇ。学校の名前なんて、知らねぇ」
「この辺に住んでるの?」
「この辺ははじめて来た」
「どこに住んでるの?」
「……どこにも住んでねぇ」
「だから、うちにきたの?」
「知るかよ! てめぇの親父に無理やり連れてこられたんだよ。なんなんだ、あいつは……」
振り返って吼えると、幸輝も繭から顔を出し、くるりと光の方を向いた。
「お父さんは、陰陽師だよ」
光は、はっとした。
ファイトマンで遊んでいた弟と、同じ目をしている。
光が茫然としているので、陰陽師を知らないと思ったのか、幸輝はワクワクと説明した。
「お父さんは今、陰陽師の力で、鬼人と人間が一緒に生きられる世界をつくろうとしているんだ。本当は鬼も一緒に生きられればいいと思っているんだけど、それはどうしても難しいんだって」
光の心に、ほんの蛍ほどの小さな希望が宿りかかった。
しかし、すぐに心の闇に溶けてなくなった。
「そんな世界がつくれるんだったら、とっととつくっておけよ。おせぇよ」
光は、繭になった。耳も、口も、働かせるのをやめた。
幸輝に起こされるまま目を覚ます。連れられるまま居間に入ると、茶色い卓に、食事が並んでいた。暗い食堂でかじった干からびたパンでも、店から持ち出した冷めた飯でも、お盆の上に無造作に盛り付けられた給食でもない。どのお碗からも、湯気が立っていた。温かいにおいがした。あまりに理想的で、美しくて、自分が口に入れてはいけない気がした。
幸輝は当たり前のように完食し、黒いランドセルを担いで、走り去っていった。
三口だけごはんを食べて、箸を持ったまま固まってしまった光を、男はじっと見つめていた。
「幸輝から聞いた。お前、光、というらしいな」
光は、箸を置いて、男を獣の目で睨んだ。
「善人面しやがって……。どうせこれから俺を、サツに突き出すんだろ」
「いや、突き出さん。知り合いの刑事に軽く話しとく」
「じゃあ、なんだって俺をここに連れてきた」
男は、眉間にしわを寄せた。
「そんなもん、死にそうな子どもがいたら、助けるに決まっているだろう!」
光は、奥歯を噛み、男の目の前に、右手の中指を突き出した。
「俺は、鬼人だ! 家族からも、施設からも、学校からも捨てられてんだ! 俺なんて、鬼人なんて、なんでそんな意味のねぇもんを助ける必要がある!」
その瞬間、男が卓を掴み、光の方に投げた。食べ残したご飯も、味噌汁も、肉じゃがも、海藻サラダも、ごちゃまぜになって光に降りかかる。畳も布団も、滅茶苦茶になった。
男は、ひっくりかえった光の胸ぐらを掴み、引っ張り上げた。
「意味がないだと? そんな命があるか! いいか。死んでいい命なんて、はじめから生まれてきていない。生まれてきたことも、生きていることも、意味があるんだ!」
「じゃあ……言ってみろよ! 俺なんかになんの意味があるんだ! 弟も助けられなくて、家族にも捨てられて……なんで俺は生きてるんだ!」
「知るか!」
男は思い切り、光を放り投げた。残飯の海に尻もちをつく。
「生きている意味なんて、はじめは誰でも分からねぇんだ! お前の生きている意味はこれだって決められて、その通りに生きていけると思うか? 一生懸命に生きて、考えて、自分で見つけろ!」
「なんだよ、それ……」
真っ黒な心に、白い液体が混ざって、ぐにゃぐにゃになっていく。ごちゃごちゃになって、光は頭を抱え、うずくまった。
男が、そっと光の手を包んだ。はじめて、大人の男の手に触った。大きな手は、温かくてごつごつしていた。
恐る恐る目を上げると、大きな顔の後ろから、やけにまぶしい電光が射していた。
「お前は、いい子だ」
信じられない言葉に、目と鼻が、熱くなっていく。
男は、優しく笑った。
「お前はたしかに、ビルを壊したり、喧嘩をしたりしてきたかもしれん。だが、それは何かに絶望したからだ。人間は、でっかい希望を持っていればいるほど、でっかい絶望に落とされる。お前は今、その絶望の中にいるだけだ。本当は、すばらしい希望を持って、それに挑戦できる奴なんだ。お前は、絶対、生きる意味を見つけられる。この世界に、必要な存在になる」
男が、光を抱きしめた。
誰かに抱きしめられたことははじめてで、どうしたらいいのか、分からなかった。
熱いものが瞳からあふれる。
シャワーより、布団より、食事より温かな、男の温もりを感じた。
それから光は、影宮神社で暮らし始めた。
四人で朝食を食べて、幸輝と学校に行って、なんとなく過ごして帰ってきて、幸輝や男の弟子たちと陰陽道や剣道の稽古をし、幸輝と風呂に入って、四人で夕食を食べて、テレビを観て談笑して、寝る。
光の心は、半年と経たず、白く満ちた。
鬼や神宮団が襲ってきたら、最前線に立って、影宮一家を守った。
「助かった、ありがとう」
そんな言葉を、はじめてもらった。
――世界なんて、なくなってしまえばいい。
そんな風に思っていたことが、嘘みたいだった。
この人たちのいる、この世界を守りたい。いつのまにか、そう思うようになっていた。
稽古の休憩中だっただろうか。光は、男―師匠に、師匠の生きる意味は何か、と聞いてみた。空の下側が橙に輝く、秋風が冷たい夕方だった。
「とりあえず、この世に生きるものたちが、自分らしく、幸せに生きられる世界をつくるためだと、俺は思っている。俺たちの世界は、それぞれの命が、生きる意味を果たし合ってできている。人間も、鬼人も、鬼も、動物も。だからこそ、互いを認め合い、手を取り合いながら、皆が平和に暮らせる世界をつくるために生きていきたいと、俺は思う。……まあ、とどのつまり、世界の平和のためってとこだ」
夕日を浴びる師匠の横顔は、揺るぎない信念に満ちていた。弟の、幸輝の、キラキラした目がどんなふうに世界を映していたのか、光は、今、ようやく分かった気がした。
――正義のヒーローだ。かっこいい……!
言葉にすると、単純で幼稚になってしまう。そんな感動だった。
今は、この尊い人たちを守るために生きている自分だが、いつか、世界の平和を実現させることこそ自分の生きる意味だと、胸を張って言えるようになりたい。
ぐんと伸ばした足の先に、気まぐれな赤とんぼが止まった。
真っ赤な目をした、ファイトマンを思い出した。
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