竜は、自らが落ちた所に戻ってきた。人一人分が横たわれる大きさのブルーシートが敷いてあり、缶詰、雑巾のようなタオル、火を焚いた後の炭が転がっている。
竜が落ちた時には誰一人いなかったが、今は想定通り――いた。
さなぎのような寝袋姿の、さっきの少年である。安らかな顔で眠っている。
竜は怒りに任せて腹部を踏みつけると、首を絞めて、上体を起き上がらせた。さなぎ少年は充血した目を開け、しぱしぱと瞬きをした。
「今すぐ術を解け!」
「……神宮団。自分から来やがったな」
さなぎ少年はニヤリと牙を剥いた。いつのまにか一本角が額に生えている。彼の体の周りから、不思議な風が渦巻いた。
「待て! お前、伊達光だな? 三十年前、じいちゃんに弟子入りしてたっていう……」
風が、鎮まった。黒猫を目に映しながら、眉をひそめる。
「あれ、さっきの猫? なんだお前、しゃべれんの? ジイちゃん?」
「俺は、影宮 陽。じいちゃんは、影宮 聡一郎だ」
さなぎ少年は、みるみるうちにパアッと顔が明るくなった。
「師匠の、お孫さん?」
どす黒い怒りの塊に首を掴まれていることなど、なんのその。
満面の笑みのさなぎ少年―伊達 光の背景には、ポップな花が漂っていた。
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