こんな筈じゃなかった。
と心の中で思いながら、一人暮らしの静かで暗闇に支配されたような明かりを消した陰気な一室で、布団にくるまりながら床へと指を当てて動かし、こんな筈じゃなかったと繰り返し書く。
俺の狙いは、復讐は、麗華が俺の事を好きになるように仕向けて、もう俺以外は考えられないくらいになるまで夢中にさせた頃合い、恋としての気持ちが最高に達しているであろう瞬間にネタばらしをし、絶望の気持ちで麗華を満たす事だった。
その復讐は成功したと思った、間違い無くだ。
今まで見た事がない麗華の動揺した顔、緊張感と戸惑いを感じる雰囲気、そして何より不快感を激しく感じた事による嘔吐という行為によって、俺は自分の復讐が満たされた事を実感していた……………がーー。
その実感は秒にも満たないと言える程に、体感として短く。
嘔吐という、此方としては復讐の成功を記す行為が、勘違いをした此方に失望した意味表示であることに気づくまでに、そう時間はかからなかった…………がーー。
何だ!?
それでも何だ!?
兎にも角にも何なんだ!!??
辿り着いたと思っていたゴールに待っていたのは、敵の皮を脱いだ本当の敵、本来の北條美麗………?
巫山戯んな、笑わせるな、いい加減にしろ!!!!
………と、異性良く言葉で言う事など簡単に出来るのだが、あの出来事による俺の心情的影響は深く、夏休みが終わり二学期へと入っている学校だが、俺は見ての通り部屋に引き篭って早くも一週間、明日も引き籠る気満々ーー、というよりは学校に行きたくない、北條美麗に会いたくないという嫌気が何百をも超える槍となって俺の背中を突き刺し抉り、外に出させる気を無くされていると言ったところだ。
何せ俺は一年半………準備も合わせれば5年以上の歳月をかけて、やっと、とうとう、遂にここまで来た、ここまで来た………と自分を奮い立たせていたーーのに。
それがこの結果、ボスからの裏ボス展開、否、ボスはまだ真の力を見せていなかった展開だとは余りにも酷い。
これはもう神などいない、これからは祈るのはやめようと決意してしまうくらい、神よ、お前を恨むと言う程だ。
……………神様ぁぁああ!!!!!この状況から俺を救い出してくださいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!
だが、祈る事は止められない。
『ガチャ』
困惑する思考を覚ますかのように、玄関近くからドアノブを捻り扉が開けられた音が耳へと入ってくる。
玄関のドアには鍵を掛けている。
だから開けられるのは当然、鍵を持っている者のみ。
それは俺とーー。
「こんにちは、そして夏休みはとっくに終わっているよ?田中樹君」
北條美麗の二人だけだ。
「…………何しに来たんだよ」
「何をしに来た?その発言は如何なものかね、1年半も男女として付き合うまではいかずも、それに似た関係を続けてるんだから、夏休みが明けて一週間、学校に来なかった君を心配して看病に来るのは、そう可笑しい事じゃない、それにここに来る為には合鍵が必要、それを渡してくれたのは君じゃないか?」
「…………俺が合鍵を渡したのは、今のお前じゃなくて………その、、演技のお前だ………だから返せよ、鍵」
腑に落ちず、納得出来ない意思に変わりはないが、変化した相手に戸惑い続けるのは情けないと感じ、少し強がるように素直な意見を言いながら、麗華が見せてきた合鍵を返すようにと手を伸ばす」
「おっと、いやはや残念ながら返す訳には行かないね、これから先の事を考えれば、この合鍵は私にとっても、君にとっても重要なアイテムの一つになるだろうし、それに騙されていたとしても他人に鍵を渡すという軽率な行為をしたのは君であり、その戒めとして持ち続けるのが、親しい関係ながらの当然だと思うよ?」
「っ、、なんだお前………その学者みたいな、いけ好かねえ話し方………今までのが全部嘘みたいに、面影が全くねえ………!!!!」
「嘘だからね」
「っ………!!」
そんな簡単に、と俺に続けて言わせないような迫力が遠慮なく伝わってくる。
「私は……うーん、いや、本来の自分と演技の自分を分かりやすくするように、僕と言わせてもらおうか………僕は再開した瞬間に、君があの田中樹だと気づいていた、、、、小学生の頃、僕の気の済むままに虐めた存在である君にね」
「……そんな簡単に言いやがって………!!!!」
別の理由で、言おうとしていた言葉を言い放つ………その様は高校生の男が本気で激怒している雰囲気で、普通の女なら確実に何かしらの反応を示すはずだが、麗華は全く動じることなく、実験物を見るかのような冷ややかな笑みが見える目で、俺を見つめている。
「まあまあ、そう警戒し、邪険にし続けても何も変わることは無い、無駄な事だよ?で、僕は君と再開し、君が隠そうと知るだろうけど隠しきれない憎しみの意思から、君が僕に復讐しようとしていることに気づいた」
「……………」
「だけど僕はそうなることを知っていた、というより、そうなるように仕向けていた、小学生の時から」
「………………は?」
「敢えて誰がそうなのかは明かす事はしないが、君が高校生となる今までに、僕へと復讐の計画を立て、実行するまでの過程………今こうして考えてみれば、何か不自然だとは思わないかい?」
「…………どういうことだよ……!?」
「虐められっ子が虐めっ子に復讐………何てのは所詮、漫画やアニメ、無理な事から逃れる為の妄想でしかなくて、実際そういう事件の結末は、心と体が傷付き過ぎた虐められっ子に対して、虐めっ子は捕まること無く、お金を払って、社会的に破滅するだけ………ただそれだけ、最も、見学者達はそれで満足するみたいだけれど」
「おい、何が言いたーー」
「でも、君は出来た、復讐の準備、計画を立て、僕に弄ばれてたに過ぎないが、復讐の手前まで足を踏み出していた…………周りはそんなこと出来ていないのに、どうして君にはそれが出来たんだい?自分だけ特別と考えてしまえば簡単だけど、答えはいつも自分の隅に転がっている…………思い出してみなよ、考えてみなよ、君がここまで来るのに力を貸してくれた者達の事を………ね?」
「………はあ?…………はあ!?………はあ!!??」
もしもこの女の言っていることが、嫌悪感しか抱けないこの北條美麗が言っていることが正しいのならば。
俺の復讐への協力をしてくれたアイツと、復讐への利用をさせてもらったアイツと、あの子は………全部、全部ーー。
この女の罠だった………なんて。
「ふふっ、絶望し、落胆し、さあここから君はどうしようか?」
「………………」
こんな筈じゃなかったーーではなく。
こんな筈になると最初から仕組まれていたんだ。
分かってはいたけど、分かり切っていた筈だけど。
それ以上に、この北條美麗という女は異常だ。
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