青春謳歌という言葉があるように。
謳歌を切り取っても青春という言葉が残るように。
人には個々の差はあれど大人になって振り返り、懐かしみ戻りたくなるような思い出の記憶がある。
しかし、青春はある者にとっては良い。
そして、青春はある者にとっては悪い。
と、良し悪しという表現の変化がある。
悪しとされる青春とは?
あくまでも例として、提案するような形で述べるならばー。
友達が一人も出来ず、ただ家で寝ていた夏休み。
修学旅行、組める他人がおらず仮病で欠席。
と、要は他人と関わりを持たなかった日々の記憶が悪い青春となる。
それはさも当然のように、良い青春とは他人と楽しく、仲良く過ごした事だと決めつけられているからであり、その固定概念は意識する間もなく身に付いている。
舞台は生温い風が吹き荒れる夜中の外。
整備された道に建てられた街灯の眩し過ぎる光とは少し違い、何処か穏やか、そして周りの雰囲気に包まれて賑やかさも感じてしまいそうな優しい光。
夏休みが終わりを告げる前の、青春という思い出作りにはピッタリな、花火大会を締めとした祭り。
出店から漂う焼かれていく食べ物の香ばしい香りや、景品を当てようと必死に楽しんでいる子供達の群れ………そのどれもが鮮やかであり、綺麗であり、不自然だと思うことなく、自然に青春と口に出してしまうようなこの状況……しかし、上には上がいるとは良い表現だといわんばかりに、花火が打ち上がろうとしている最中、その打ち上げの瞬間が見やすいーー男と女が愛を伝え合う、又は片方が伝えるにはピッタリな場所で、周りから視線を向けられている一際目立つ男女二人。
何故一際目立つのか、それは何千人の誰が誰だが良く分からない人混みを歩く俳優、女優、芸人があっという間に気づかれてしまうように、視線を向けられている二人には周りを惹き付ける魅力が十分にある。
先ずは男の方。
俳優のような整ったスタイル、身長は男性としても高いと言える180cm台、スポーツでもしてないと付かないさり気なくも染み付いた筋肉、髪の毛の色は黒、そしてその形は何処か不良、荒っぽさを感じとれるような剃り込みが深く、全体的に刺々しいワイルドツーブロックだ。
次に女の方。
男と同じく整ったスタイル、身長は女性としては高いと言える170cm台、バレエや体操でもしているように感じる細い手足、髪の毛の色は少し桃色っぽさを感じとれる夜では妖艶な色合いを見せる赤色髪で、男性が女性にして欲しい髪としてのイメージが高いが、似合う者が限られるツインテールだ、言うまでもなく似合っている。
二人の紹介が済んだ所で、二人の状況説明に入るとしよう。
二人は今、告白するとされるの状況に入っている。
告白するのは男の方、告白されるのは女の方………しかし、二人が出会ったのは高校一年から二年の夏の一年半で、この月日の中で好感度を感じている振り幅は女の方が圧倒的に多い。
しかしながら、男の方が告白する………それは何故かと言われたら、意地だから、そういうものだからと濁らすしかないのだろう。
「…………好きだ、麗華」
シンプルながら、相手に想いを伝えるとしては正に100点、それもただの男ではなくイケメンが言っているのだから、100点は当然としてそれを多く上回っている。
「……………………っ!!!!」
男の言葉を聞いた女、麗華は頬を赤く染めると恥ずかしいのか下へと顔を向ける。
恥ずかしいの裏返しは嬉しいであり、地面を見つめる麗華の顔は分かりやすいほどにほころんでいる。
そしてーー。
「樹、私も好きーー」
「なんてな」
「…………………………え?」
麗華の表情から笑顔が消える。
「くくく…………あーーー!!!!はっはっはっはっ!!!!!!あははははは!!!!ははははははは!!!!!!」
男、樹が笑う。
大きな声で笑う。
それは明らかに可笑しな笑い声で、今起きている状況を心から望んでいる事が伝わってくる。
そして樹は、ずっと隠していた秘密を言い放つ。
「麗華、お前さぁ………小学生の頃、一人の男を酷く虐めてたろ?その男は深く、深く、心に深ーい傷を負って………自分を虐めた女が憎くて、憎くて、仕方が無くて………復讐を誓ったんだ…………」
「………ま、まさか………樹って………あの…………っ!?」
「そうだよっ!!!!俺がお前に虐められてた田中樹だよ!!!!名前変わってないのに、高校生になって出会ってみれば、お前は俺の事なんか覚えてなかった…………でも、それで良かったんだよ、そうだったからこそ、お前に俺を惚れさせるという復讐を進めることが出来た」
「…………あ、ああ、あああ…………!!!!」
麗華は、今起こっている状況が信じられずに再び顔を下に向ける。
「どうだっ!?今の気分はっ!?何でもかんでも自分の思い通りに生きてきたのに、そうならなかった、台無しにされた今の気分はっ!?お前は虐めてた情けない男に惚れたんだよっ!!そして今まで俺がお前にしてきた事は全部本心じゃなくて演技!!演技演技演技演技ーー!!!!!お前みたいな糞女!!!!最低女!!!!好きになるわけねーだろバーカッ!!!!!!あははははははははは!!!!!!あははははははははは!!!!!!あははははははははは!!!!!!あははははははははは!!!!!!」
樹は笑う、ただただ笑う。
この時の為に、この瞬間の為だけに、憎くて仕方がない女と恋愛ごっこをしていた……一年半。
それはもう爽快なのだろう、快感なのだろう。
今感じる気持ちが、今自分がいるこの場が、気持ちよくて、気持ちよくて、気持ちよくて、気持ちよくて、仕方が無いのだろう。
「………う、うぶっ!!うぇぇ!!!!おぼろろろろろろろろっ!!!!!ろろろろろろろろっ!!!!!!」
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪いと感じ続ける気持ちに体が答えるように、ストレスを飲み込み続けた麗華の口からストレスが吐瀉物となって、嘔吐される。
吐く、吐く、全部吐く。
今までの楽しい思い出。
今までの楽しい恋愛。
今までの、今までの、今までの、今までのーー。
【演技】を。
「バーカッはお前だよ、バーカッ!!!!!!!!!」
「…………………………は?」
当然、樹は驚く。
しかし、ストレス最高潮の麗華はもう止まらない。
「あのさぁ…………どうしてバラしたの?お前は本当に馬鹿なんだな、阿呆なんだな?そんなの会った時から気づいてたよ、お前があの田中樹だってことはよ〜〜!!!!」
「………えっ?は、は?ええ?」
「人が折角、気付いてることを、のうのうと復讐しに来たお前を気遣ってやったのに、私の結婚相手としてこのまま選んでやろうとしたのに…………そうすればお前は大金持ちで、私は普通の女っぽい、結婚生活を遅れたってのに…………はぁ………阿呆だな?君は本当に阿呆なんだなぁ………」
「…………………だ、誰?」
戸惑いを重ねた挙句の果てに、樹は放心状態で言う。
この女は誰だ?
この女は北條美麗じゃない。
俺が知っているあの北條美麗とは何もかもが違う。
この女は誰だ!?
「おい、放心状態という分かりやすい行動パターンを取るな田中樹…………まぁ、1年半もかけて私に復讐しようとしたその執着心に配慮して、私を教えてやろう」
美玲は、否、樹が知らなかった本当の北條美麗は、樹の目の前に中指と人差し指を重ねた手を差し出すように向ければ、大きな音で指を鳴らす。
「今まで君が知っていた北條美麗は演技の存在で、本物の北條美麗は私だ、そして私は普通の人間らしく生きたいという目的の為に行動している」
「ふ、普通の………人間………?」
「そうだ、然らば田中樹、復讐は失敗に終わり、今の君には生き甲斐がないだろう?よって私が君に生き甲斐を与えよう…………なぁ、田中樹ーー」
【卒業までに、私がお前を好きになるようにしてみろ………そうすればお前の復讐も自然と叶う。】
「正にWinとWinの関係性だ、というわけで改めてよろしくな、私の彼氏候補、田中樹君?」
「……………………………………はあ!!!!????」
これは、青春謳歌する者達の物語………ではなく。
これは、青春嘔吐する者達の物語。
そして重要な事を言っておこう。
この物語に、【ヒロイン】は居ない。
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