金色のロボットが出現する、奇しくもその隣のエリアに光太郎とリルカがいた。突然現れたデーモンから逃れるためビルの中に隠れていたのだが、そこの窓から巨大ロボットが大きなデーモンと戦い始めるのを見ていた。
「アニメの世界かよ、おいリルカあれ知ってるか?」
光太郎は窓枠から迂闊に顔を出さず、端から覗き込むようにして外をみている。外にいるデーモンに見つからないようにするためだ。現に向かいのビルに逃げ込んだ人はうっかり窓に身を晒したせいでデーモンに襲われてしまった。
「わ、わかんないよ」
オフィスビルの一室、その中のデスクの下にリルカが隠れている。見知った元気さはどこへやら、すっかり怯えきっていた。
「ねぇ、そんな事よりもここから逃げた方がいいんじゃないかな?」
「やめた方がいいだろ、下にはあの化け物共がいやがるぜ、とてもじゃないがあそこを突っ走るのは危険だ」
かといってこのまま籠城しても同じことだろう、更にここには二人以外いないからいざ見つかった時に囮にできる人間がいない。
そんな事したらリルカに怒られるだろうからむしろいない方がいいか。
「しばらくここに隠れてた方がいいな」
「そっか」
光太郎もデスクの下に入って身を隠す。お互いそのまま沈黙し続けていた。
「あのさ」
「黙ってろ、奴らがやってくるかもだぞ」
「ごめん」
少し言いすぎたかもしれない、おもえば彼女はいつだって喋っていた、いつでも屈託の無い笑顔で取り留めもない会話を心の底から楽しんでいた。そんな彼女に黙っていろは酷だろう、こんな状況なら尚更。
だがこんな状況だからこそ黙って息を潜める必要がある。そして隙をみて脱出をせねばならない。
「ん?」
「どした?」
突然リルカが何かに気付いたようで耳を済ませて注意深く観察を始めた。合わせて光太郎も真似をして注意深く周りに意識を向けると。
「きゃぁぁぁ」
悲鳴が聞こえた。
「下から聞こえた」
「う、うん。助けなきゃ」
「バカっ、んなことできるかよ!」
「でも!」
冷酷だが、自分達ではどうにもならない。まず自分が生き残ることを考えなければ。リルカもそれがわかっているのだろう、それ以上は何も言わなかった。
念の為窓から下を覗き込むと、道路に面した所にある喫茶店の周りにデーモンが四体集まっていた。
「あそこか」
じきに四体のデーモンが突入して中は阿鼻叫喚の地獄絵図と化すだろう。
「今からでも助けられないかな」
「諦めろ、俺達に何ができる」
「でも」
リルカはどうしても助けたいそうだ、あれほどまで怯えていたのに。他人が危険に陥るとそんな怯えは勇気で覆い尽くされるのか。
そんなやり取りをしてる間に一体のデーモンが喫茶店に突入した。
「もう遅いな」
間もなくあそこにいる人は死ぬだろう、そう思っていたのだが、予想に反して喫茶店からデーモンの方が弾き出されていたのだ。
「まじかよ!」
「なになに?」
先程突入したデーモンは地面に倒れていたが、すぐに起き上がって威嚇のために咆哮をあげた。
その向かう先からは、長い棒を持った黒髪の女性が倒れた喫茶店のドアを踏みしめながら現れる。年の頃はリルカとそう変わらない。
「あの女がやったのか?」
どうやらそうらしい、襲いかかるデーモンを女性は一体ずつ手にした棒であしらっていく。最初に襲ってきたデーモンを一突きで動きをとめ、横から来たデーモンは石突きで横打ちにして怯ませる。
その間にポジションを変えて四体を見据える位置につく。
「すげぇ」
しかしどうやら倒すにはいたらないようだ。
「ネットで見た、デーモンて塩水が弱点らしいよ」
「ここ確か給湯室あったよな!」
「うん!」
それは極自然なことだった。女性の奮闘ぶりを見せられた光太郎は闘争本能に火がつき、リルカは更なる勇気をもって冷静に物事を考えられるようになっていた。
二人は急いで給湯室に駆け込み、そこで塩と水筒を見つけた。
「配合はわかるか?」
「今調べてる」
「急げ、グズグズしてたらあの女やられちまうぞ」
「わかってる! あった!」
「よし!」
リルカが計りを使って塩を計測する。
その間にも女性はジワジワ追い詰められていた。
「俺は先に行ってる、急いで俺を助けに来い!」
「わかった」
こうして光太郎は給湯室からフライパンを持って飛び出して、ビルからも飛び出した。二階まで降りてそこの窓から豪快にだ、フライパンを振りかぶって下にいるデーモンに投げつけながらの落下、お世辞にもカッコ良さからはかけ離れていた。
「いっっってえええええ!!」
着地の威力を殺せず足裏に激痛がはしった。骨に異常が無いだけ運が良い。
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