チャイナタウンの路上にデーモンが転がる。金色の小型戦車に撃ち抜かれたそのデーモンはもれなく砂となって崩れ落ちる。
デーモンを倒した張本人であるエヴァンはその様子をみて舌打ちをした。
「また砂かよ、さっき倒したやつは普通に消えたし。デーモンが二種類いるってことか」
通常のデーモンの方が強いが、数では砂の方が圧倒的に勝る。ある意味砂の方が厄介ともいえる。
この辺りのデーモンはあらかた倒したので、次は生存者の確認をする。エヴァンはゴールドローターの操作に切り替えて街中を移動して回り始めた。彼自身はチャイナタウンの外れにあるビルの中に隠れていた。
「熱源の反応は.......これはハンターだな、スルー。よしここに逃げ遅れた人はいない」
ローターとタンクを自動操縦に切り替えてから通信機を取り出す。交信先はベルカ研である。
「よお、チャイナタウンは一通り見て回ったけど逃げ遅れた人はいなかったぜ」
『了解した、次はイーストビレッジを頼む』
「おう」
イーストビレッジは北側にある、エンパイアステートビルに近いためデーモンが多いようだ。ここには市民が逃げこんだシェルターがあり、現在そのシェルター付近にて戦闘が行われてるらしい。
つまるところエヴァンのやることはそれの援護である。
「移動ルートはこうか」
イーストビレッジ近くのビルにアタリをつけてそこまでキューブで移動する。遠隔操作ではあっても、距離が離れていればいるほどラグが酷くなるのである程度近くにいたいのだ。
目的地に近づいた頃、不意に空が薄暗くなった。最初は雲が太陽を隠しただけだと思っていたが、どうやら違うようで。
「げぇ、俺あれ知ってる。映画とかゲームで見た」
それはマンハッタン全てを覆い尽くす程の円形の何かだった。幾何学模様で彩られ、妖しく明滅している。
ファンタジーでよく見られる魔法陣そのものであった。
「これなんか召喚されるやつじゃね?」
その通り、しばらくして魔法陣から巨大なデーモンが降りてきたのだ。大きさにして十メートル程、見た目はどれも同じ、牛のような頭と馬のような下半身、筋骨隆々とした人間の身体を合わせたようなものだった。
「俺あれも見たことある! ゲームで! ミノタウロスてやつだろ!?」
『その名称を採用しよう』
ベルカ研のドクターが予想外に採用した。ベルカ研とは魔法陣が現れた時に通信を飛ばしていた。
「でもどうやって倒すんだ? ミサイルに塩水詰め込んでぶつけるか?」
『それだと塩水で弱体化する前に、塩水が蒸発してしまうな』
「かといってこれだけの数のミノタウロス全てを弱体化出来るほどの塩水なんて無いだろ?」
『無いことはないが、効率よくかける手段が無い。今取れるのは消防ホースでぶっ掛けることだな』
「ヘリで上からぶっかけるとかは?」
『空にもデーモンがいるからあまり得策じゃないな、やるなら空のデーモンをある程度減らしてからだ』
「じゃあ俺はどうすればいい?」
『最初の予定通りイーストビレッジを援護してくれ、もうじき君の助っ人が来るから、合流したら改めて命令をだす』
「助っ人?」
『君のよく知る彼らだよ』
「誰だよ」
その質問には答えてくれなかった。
とにかくエヴァンは指定されたポイントにタンクを向かわせる。ローターは別方向から向かわせ、ビルの影に隠しておいた。
指定ポイントでは警官達と屈強な市民が銃を手にして応戦したていたが、塩水が足らないのかデーモン相手に効果的なダメージは与えられずにいた。このままではもたないだろう。
「まずは手前の奴ら」
タンクの砲撃で一番接近していたデーモンを吹き飛ばす。塩水をかけていないため倒すには至らなかった。
エヴァンはスピーカーをオンにして呼びかける。
『おいお前ら! 今こっちに援軍を要請しておいたからもうしばらく持ちこたえろ! あと塩水もってこい塩水』
「わ、わかった」
しっかり伝わったかどうかはわからないが、ひとまず警官の一人が残りのメンツに伝言を残してどこぞへと走り出す。
『おいおまえどこ行く気だ!』
「そこの雑貨屋に塩があるんだ!」
『よしそこの筋肉野郎もいけ!』
警官に紛れて銃を撃っていた民間人を横につけておく、念の為潜ませておいたローターで彼らの周りにいたデーモンを一掃しておいた。
程なくして塩の入った袋を抱えて戻ってきた。
『急いで塩水を作るんだ!』
これで少しは何とかなりそうだが、更なる困難がエヴァンの前に現れた。
「おいおい、いくらこのエヴァン様でもこいつはキツイぞ」
デーモンの群れの奥、そこにさっき出現した巨大デーモンことミノタウロスがいたのだ。
流石にこの大きさのデーモンを倒すことは困難、しかも背後には避難シェルターもある。人々を逃がしながら戦うなんてのは不可能だ。
「ここはダメだ、他へ逃げるしかない」
タンクとローターは遠隔操作でエヴァン自体は安全地帯にいる。ゆえに直ぐに逃げる事ができる。戦略的な面で見てもそうするのが良い、しかし。
「逃げる.......嫌だね、そんな事したら俺は俺の事が嫌いになっちまうじゃねぇか」
再びスピーカーをONにして呼びかける。
『ありったけの塩水をもってこい! それから警官共は避難民を連れて逃げろ! できるだけ時間を稼いでやる、俺がダメだったら次は警察がやれ、それもダメだったら勇敢な奴がやれ』
自分の護衛のために置いておいたキューブも向かわせる。その間に警官達が塩水の入ったポリタンクをいくつか置いていったので、それをキューブに入れていく。
ミノタウロスは少しずつ迫っている。
『はあ、やっぱ一人で全部やるのはキツイわ』
ついポロっと零してしまう。実際一人で三機のゴールドシリーズを操作するのは非常に困難である。
チームで活動してた時の方がよほど能率よく動けていただろう。
そんな事を不意に考えてしまった。
だからだろうか。
「やあ、だったら僕達が手伝ってあげるよ」
聞こえる筈の無い、かつてのチームメイトであるマシューの声が聞こえてきたのだ。
「やべえ、俺もついに幻聴が聴こえるようになっちまった。耳舐めASMR聞きすぎたからか」
「言っておくけど幻聴じゃないよ、正真正銘マシューさ」
「は?」
ほんとにマシューの声が聞こえる。
声の方向を探れば、エヴァンが隠れてるビルの一室、そこに隣接してる廊下にマシューが立っていた。慌ててタンクとローターを自動操縦にして適当に掃射させておく。
「おま、なんでお前がここにいんだよ!!」
「僕だけじゃないよ」
遅れてマシューの隣にエレナが、その隣にリックが現れた。三人ともバツの悪そうな顔をしている。
「えっと、久しぶり、相変わらずデブいじゃん」
「悪かったなエヴァン、あの時は俺が不甲斐なかったせいで迷惑かけた」
「いや、でもお前らここがどういうところかわかってんのか? 直ぐに引き返してベルカ研に逃げろ、あとデブ言うな!」
とエヴァンが言えば、三人は間の抜けた表情を浮かべた後一斉に笑いだした。
「笑うなよ!」
「ごめんごめん、でも僕達はわかっててここにいるんだ。もう逃げるつもりはないよ」
「お前らまさか、いやドクターが言ってた助っ人ってお前らなのか?」
「やっと気づいたのか」
「頭の中も変わらず脂肪でいっぱいなのね」
エレナはさっきからデブとしか言ってない気がする。
「エヴァン、僕達と一緒に戦おう」
マシューが前に歩み出て右手を差し出した。
その意味は流石のエヴァンでもわかっている。
「へ、言っとくが今回はお前達の方から来たんだからな。後悔すんなよ」
差し出された右手をエヴァンは強く握った。
ゴールドチームの再結成である。
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