式典開始一時間前、営業再開されるエンパイアステートメントビルの前は人だかりが凄い事になっている。ニューヨークだけでなくアメリカ全土から人が集まっているのだ。
これでは最早アリの巣の方がまだ余裕がある。
「いよいよこの日が来ました」
人だかりから少し外れた路地にて、四人の男性がいた。一人は顔に薔薇のタトゥーを入れたスキンヘッドの男、一人は筋骨隆々とした強面の男だった、一人はスーツの上からダッフルコートを着たいかにもサラリーマンといった感じの男、最後の一人はシルクハットを被った壮年男性だった。
最初に口を開いたのは壮年の男だ、どうやら彼がこの集団のリーダー格らしい。
「我々魔術結社が表舞台に出る時です」
「我々? 笑わせるな、お前がだろ? サンジェルマン」
筋骨隆々とした男が一笑に付した。
「これは手厳しい。まあ確かに結社の配下は全て砂の魔王にしてきましたので、生きてるのはここの四人だけですね」
「ヒュー、派手にやるねぇ」
薔薇のタトゥー男は口笛を吹いていかにも驚いたと表現しているが、その実何も感じていない。
「時間なので先に行かせてもらうぞ」
「えぇ、ここからは自由にやってください」
「そのつもりだ」
それだけ言ってからサラリーマン風の男は路地からでて民衆の中に紛れていった。
「んじゃ俺も行くかな、楽しませてもらうぜ」
薔薇のタトゥー男もまた民衆に紛れて街へと溶け込んだ。
最後に残ったサンジェルマンと筋骨隆々な男はしばし沈黙したままその場に留まる。
「あなたはこういうの好かないんですよね、バルバトスさん」
「わかっているなら参加させるな、バアル」
「お断りします、それに貴方は私には逆らえない」
「ふん」
バルバトスと呼ばれた筋骨隆々な男は、恨めし気な瞳をサンジェルマンに向けてから街へと出る。
残ったサンジェルマンは不気味なまでの笑顔を顔を貼り付けてエンパイアステートビルを見上げた。
「今日こそは私の全てを取り戻す、忌々しいエリヤはここにはいない。今度こそ私は!」
そして、式典が開催される。
最初に異変が起きたのはエンパイアステートビルがある地区から離れたハーレム地区だった。そこにいるホームレス達が焚き火で暖をとっていると、ホームレスの中の一人が砂を吐き始めたのだ。
更に吐き出された砂からデーモンが産まれたとなればパニックがおこるのは必至。
それを皮切りに、したのかはわからないが、マンハッタンのあちこちで砂を吐く人間とデーモンが確認されるようになった。
更に同時に式典が開始されたため、SNSでは式典とデーモンが入り乱れる混沌とした物となり、ベルカ研や警察組織はあちこちに出動がかかっててんてこ舞いだ。
そうこうしてるうちに式典のセレモニーが終わり、そして……本命が姿を表した。
「レディーーース! エーーンド! ジェントルメーーン!」
エンパイアステートビルの第一展望台にシルクハットの男が現れた。サンジェルマンである。
彼は展望台の屋根の上に立ち、拡声器も何も使わずビル周辺にまで聞こえる声量で話始めた。
「このような目出度い日にこれだけの人が集まった事に感謝します」
人々はこれをサプライズ、もしくはセレモニーの一貫だと思った。式典関係者は妨害行為と思いサンジェルマンを引き摺り下ろそうとする。
彼等を冷ややかに見つめながらサンジェルマンは更に続ける。
「そして……さようなら」
飛び降りた。第一展望台から、サンジェルマンが飛び降りた。誰もが自殺だと思った、しかし直ぐに間違いだと気づく。
サンジェルマンは落ちながら身体の形状を細胞増殖のように不気味に変化させていったのだ。それはほんの数秒の出来事、数秒でサンジェルマンは自身の身体を四メートル近くにまで伸ばし、下半身には虫の脚が、腹は縦に避けてそこから猫のような顔が見える。
より不気味なのは顔の部分はサンジェルマンのままだと言うことだ。
「私の名はバアル」
それから挨拶代わりにと腕を伸ばして周辺の人間を百人程殺害した。
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