スティール・フェデレーション

四人の主人公が紡ぐオムニバス・ヒーロー・サーガ
芳川 見浪
芳川 見浪

7th PROJECT

公開日時: 2020年11月18日(水) 20:22
文字数:3,863

 三ヶ月後。

 マイソンシティから近いとこにあるゴルフ場で、今まさにゴールドシリーズの起動演習が行われていた。

 それぞれのコースで一機ずつ、データをとるため様々な動きをする。


 No.1、ゴールドキューブ。

 一辺三メートルの金ピカの正方形が、片面からブースターをだして飛び回る。スィーと真っ直ぐ飛んで停止、そのまま向きを変えず右へ移動して次は上昇、左へ行ってからまた上昇。自由自在に飛び回る。


 No.2、ゴールドタンク。

 キューブの次にきたシリーズだ。

 幅三メートル、奥行五メートル、高さ二メートル。タンクと名がつくとおりシルエットは戦車に近いが、戦車砲は取り付けておらず、代わりに対戦車ミサイルを搭載している。

 無限軌道により悪路走行も用意であり、また重量が五トンと意外に軽いため市街地で走行してもアスファルトを傷つける事は少ない。


 ゴールドタンクはあえて障害物だらけにしたゴルフコースを縦横無尽に走り抜けていく、時速四十キロメートルで岩や車を踏み越える。

 廃車が確定したワゴン車の上に乗ると、タンクはその場で向きを変えて、コース端にある的へ向けて対戦車ミサイルを放つ、連続で十二発撃って再び移動し、物陰に隠れてリザルトを確認した。ミサイルは十発命中、他は周囲に着弾とでた。

 あくまでミサイルは模擬戦用のものなので爆発はせず、その場に突き刺さるか転がるだけである。



 NO.3 ゴールドローター。

 タンクと同時に納品された三番目のシリーズ、今のところ唯一の航空戦力となる。キューブは飛べるだけで戦闘能力はない。

 形はヒラメのようであり、ステルス機のナイトホークに近いデザインをしている。当然色は金色である。

 主に偵察(目立つ色なのに)やタンク等の支援攻撃を目的としているため、武装はロケット砲二門と機関砲のみであり、また重量制限のため装弾数は少ない。


 ゴールドローターは他二機とは違ってゴルフ場全体を飛び回り、急加速、急降下、急停止、急上昇等機体の負担になる行動を繰り返して耐久性を測っている。

 時折あちこちに設置された的に向かってロケット砲や機関砲を放ったりするが、あまり命中精度はよろしくなかった。






「目下の課題はローターか」


 サブカル研究室のソファに脂肪満載の身体を沈みこませながらエヴァンが言う。手にはローターの記録が表示されたタブレットがある。


「そうだね、飛ぶくらいは問題ないけど……戦闘までいくと少し厳しいかな」


 マシューがコーヒーを飲みながらテーブルの上のレーザーキーボードを叩いて操作しながら告げた。

 モニターではローターの3Dモデリングがくるくると回っていた。


 現在サブカル研究室にはエヴァンとマシューの二人だけで、リックとエレナは講義中である。


「まいったな、ローターが一番の戦力なんだが」

「タンクをメインに運用した方がいいね、最後の一体はいつ来るんだい?」

「もうじき完成とは聞いてるけど」

「当面アテにしない方がいいな」

「ま、とりあえず三機でもやれるだろう。実戦行くか」

「もうかい? まだ早いと思うんだけど」

「なあに、今回はアーチボルト家の私兵も一緒だから平気だって」

「ん〜、確かに実戦データは欲しいし」

「決まりだな、あいつらには俺から伝えておこう」

「なんだか嫌な予感がするなあ」

「ばっかおめぇ、今回は大丈夫だって」

「…………前回がああだったから信じられない」


 マシューが冷たい瞳でエヴァンを睨みつける。前回、時期としてはマシューをスカウトした三日後になるのだが、その時エヴァンが「まずデーモンについて知らないとな」と言い出したのだ。

 他三人はデーモンについて知識は有しておらず、見たこともなかったのだ。彼等はデーモンを倒すためではなく、ゴールドシリーズが面白そうだから話に乗っただけに過ぎない。だからエヴァンはデーモンについて知ってもらおうと呼びかけたのだ。






 その日の夜、彼等はデーモンがいると思われる廃ビルに来ていた。


「ねぇ、ほんとにここにいるの〜?」


 エレナはビクビクと震えながらマシューの上着の裾を掴みながら歩いていた。廃ビルは真っ暗で足元もおぼつかない、頼りになるのは手元の懐中電灯と外から差し込む星と月の明かりだけ。


「何かお化け屋敷に来たみたいで楽しいな」


 リックに至っては呑気にこの雰囲気を楽しんでいる。実際彼にとっては遊びの一環なのだろう。

 先頭を歩くエヴァンがふいにシっと口に指を当てるサインをして、廊下の角で立ち止まる。その途端緊張が四人の間を伝播して硬直した。


 エヴァンがゆっくり角から覗くようジェスチャーし、それに従って三人が角から顔を出す。

 そこから見えたのは、赤黒い身体の化け物だった。昆虫のカマキリのような身体から人間の手足が生えており、顔にあたる部分には、無理やり三角形にされたような犬の頭が付いていた。カマキリの鎌にあたるものはギロチンのような鈍く光る刃になっている。


「な、なんだあれ」

「やだ」

「初めて見る生物だ」


 リックとエレナはデーモンに恐れを為しているが、マシューは何故か興味津々なようでじっくり観察していた。


「あれがデーモンだ、いいかお前ら、あまり大きな音をたてずにここから離れるぞ、音をたてるなよ」


 とエヴァンが言った瞬間。


 ぷぅ〜〜。


 空気が抜けるような音が辺りに響き渡った。


「わりぃ、屁がでた」


 エヴァンのお尻からでたオナラであった。そしてその音は思いの外大きかったらしく。


「あのデーモンがこっちに来たよ」


 マシューが淡々と状況を説明した通り、オナラの音を聞きつけてデーモンが四人のいるところへ迫ってきたのだ。


「逃げろぉぉおおお」


 叫んだエヴァンを置いて三人は走り出す。エヴァンは一応走ってはいるものの、手元で何かを操作しながらのため進みが遅かった。


「早くエヴァン! 何してるの!?」

「落ち着けマシュー、まあ見てろって」


 カマキリのデーモンはもうすぐそこまで迫っている。人間の手足をわしゃわしゃさせながら猛スピードで追いかけて来ており、追いつかれるのも時間の問題だった。あと数秒でデーモンの鎌の間合いに入ろうという時、不意にエヴァンが立ち止まってデーモンと向かい合った。


「エヴァン!」

「おいエヴァン何やってんだ!」

「さっさと来いデブ野郎!」


 三人が呼びかけるのだが、エヴァンは聞く耳持たない。外は変わらず月光が綺麗で、窓から差し込む光がデーモンを照らしている。

 デーモンは尚も迫り、鎌を振り上げ……そして横から飛んできた金色の箱に弾き飛ばされた。


「フォォォォ! 最高のタイミングだぜ! つか今デブって言ったの誰だ!」


 デーモンは窓から突入してきたゴールドキューブにより壁にめり込んでいる。逃げる時にエヴァンはレイノルドに連絡をとってゴールドキューブを呼び寄せ、タイミングよくデーモンにぶつけられるよう指示していたのだ。

 ゴールドキューブに押さえつけられているデーモンはジタバタとのたうって逃れようとするが、キューブはブースターを吹かせて尚キツく押さえ付ける。


 エヴァンはコントローラーを取り出して操作権をレイノルドから移譲してもらう。コントローラーを弄ったエヴァンは、ブースターをそのまま吹かせてデーモンを押さえ付け続けるようにし、自分はキューブに近付いてその壁に触れる。

 触れた部分がガショッと変形し、ホルスターのような形をとる。ホルスターには黒光りする拳銃が納められており、エヴァンはそれを抜いてデーモンへと向けた。


「この拳銃に込められてる弾は特殊なやつでな、デーモンの弱点である塩水が弾の先端に詰め込まれてるんだ」


 そしてエヴァンは引鉄を引いて弾を発射する。弾は真っ直ぐ銃口から放たれ、僅か二メートル先のデーモンに向かって飛んでいき、その脇の壁に命中した。

つまり外した。

 さらに。


「腕゛が……痺れた」


 反動でエヴァンの腕が痺れて動けなくなってしまった。


「ダッサ」


 エレナが言った。実際ダサいので仕方ない。ちなみにさっきデブ呼ばわりしたのも彼女だ。

 見兼ねたリックがエヴァンから拳銃を奪って代わりに引鉄を引く。六発撃ってその全てがデーモンに命中した。

 主に顔と心臓あたりに弾が集中していた。


「ふぅ〜、何とか終わったな」


 動かなくなったデーモンを見てリックが一息つく、拳銃をどうしようかと悩み、しばらくしてからキューブのホルスターに戻した。

 落ち着いたようで、エヴァンが自信たっぷりに立ちあがり、偉そうな口調でモノを語りだす。


「うむ、まあ皆ご苦労だったな。俺様がいなければ今頃全滅してたとこだ、感謝しろよ」

「はぁぁぁ〜〜?? そもそもアンタがデッカイオナラなんかするからこんな化け物に襲われるんでしょうが! ちょっとは腹の脂肪落とせデブ!」

「俺の腹に詰まってるのは脂肪じゃなくて夢とロマンと愛と勇気なんだよ! つかさっきデブつったのエレナだろ! デブなめんな!」

「デブだから仕方ないじゃない! デブ! デブ!」


 生死を共にしたからなのかどうかはわからないが、エレナがエヴァンに対して容赦がなくなっている。


「何やってんだお前ら、おいマシュー……マシュー?」


 呆れたリックがマシューと先に降りようと思った時、マシューがデーモンの傍で何かをやっているのを見つけた。


「すごい、皮膚がこんなに硬いなんて。マグナムでも貫けるのかな……なんで塩水が弱点なんだろう……塩と皮膚が反応するからなのか……興味深い」

「お前も何やってんだ」






「そんな事もあったなあ」


 どこか遠いところを見るような、優しげな瞳をたたえてエヴァンが思いにふける。


「今度はオナラしないでね」

「事前にウンコしてくから安心してくれ!」


 とても不安だ。

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