「おりゃあああああああああ!」
フランクの右フックが、ジャックに向かって叩き込んだ。
ジャックはひるむことなくハルバードの斧頭で拳を受け止める。
と同時に、床が爆発したかのよう弾けた。
「ぬうっ! ……確かに以前よりはやるようだ」
ジャックの言葉にフランクが吠える。
「ふん! その余裕、いつまで続くか……なっ!!」
フランクが左足を上げ、ジャックの頭に向かって蹴りを繰り出す。
即座に頭を下げて蹴りをかわしたジャックは、フランクの腹に向かって右ひざを入れた。
「ぐおっ!?」
フランクは、腹を押さえながら1歩後ろに下がってしまう。
引く行動が良くなかった。
壊れた床の材木に足が引っかかり、一瞬バランスを崩してしまった。
「しまっ――!」
その一瞬の隙をジャックは逃さず、ハルバードの槍先で突いて来た。
避けられないと判断したフランクは、とっさに左腕を自分の心臓の前に持って行った。
予想通り槍先は心臓を狙っており、左腕に突き刺さった。
「いってぇ! ちくしょうが!」
「読まれてしまうとは我もまだまだ……ふんっ!」
ジャックは力をこめ、ハルバードを上に持ち上げる。
左腕が刺さっているフランクの体も持ち上げられた。
「おいおいおいおい! マジかよ!?」
普段は人を持ち上げる側であるフランク。
そんな自分が持ち上げられるとは思いもせず、つい驚きの声を上げてしまった。
「――せいあ!」
ジャックはハルバードを床に向かって降り下ろし、フランクを床に叩きつける。
「――がはっ!」
その衝撃に肺の空気を吐いてしまうフランク。
「…………興覚めだ。秘薬を飲んでもその程度とは」
ジャックは槍先を抜き、呆れたような仕草をしてフランクに背を向けた。
「へっへへ……勝手に冷めてんじゃねぇぞ……こっちは、やっと薬が体に馴染んで来たんだからよぉ」
フランクは、口角を少し上げながらヨロヨロと立ち上がった。
小さなため息をつき、ジャックが振り返る。
「まだやる気なのか?」
「だから言っただろ、馴染んで来たってよぉ…………忠告してやる、次のパンチ……避けた方がいいぜ」
そう言うと、フランクは拳を強く握りしめて構えた。
ジャックは何も言わず、ハルバードの斧頭でガードをする姿勢をとった。
また同じ様に受けて止めてやる……そう言っている様に見えた。
「忠告はしたからな! 後悔すんなよおおおおおおおお!」
フランクの右ストレートがジャックに向かって撃ち込まれる。
先ほどと同じ様に、ジャックは斧頭でフランクの拳を受け止めた…………が。
「――なっ!?」
ハルバードの斧頭が粉々に砕け散り、フランクの拳がジャックの腹部にめり込んだ。
「ぐおっ!」
「うおおおおおおりゃああああああああああああ!」
右拳により力を込めてジャックを吹き飛ばす。
吹き飛ばされたジャックはギルドの壁に激突した。
「まだだあああああああ!」
フランクが助走をつけ、肩を突き出してジャックに向かってタックルを当てる。
タックルの衝撃はすさまじく、2人は壁を突き破って外部に飛び出した。
「はあーはあー…………これ以上ここで戦うとギルドが壊れっちまうな……」
フランクは右肩を回してから、ジャックの右足首を掴んだ。
「続きは広場でやろうぜえええ!」
雄たけびと共に、ジャックは町中にある広場の方へと投げ飛ばされる。
「お前等! 後の事は頼んだぜ!」
そう言うと、フランクは空中を飛んで行ったジャックの後を追いかけて行った。
「フランク! っアタイも後を追うよ!」
シーラは立ち上がり、壊れた壁に向かって走り出す。
それをツバメは慌てて引き止めた。
「ちょっ、ちょっと待って下さい! シーラさん!」
「止めないでおくれ!」
「そうじゃなくて! ……これを!」
受付カウンターの下から1本の治癒ポーションを取り出し、シーラに向かって投げた。
ポーションのラベルには試作品と書かれていた。
「試作品……?」
「より効果を高めたポーションです! いざって時に使ってください!」
「わかった! ありがとう!」
シーラは壊れた壁から外に出て、フランクの後を追いかけていった。
「ツ、ツバメさン……今のってまだ副作用が残っていたんじゃア……?」
ハナが恐る恐るツバメに質問をする。
ツバメは片目を閉じつつ笑顔で返した。
「秘薬に耐えたんだから、ちょっとした副作用くらい大丈夫よ。さっ、みんな! 【影】達が目を覚ます前に捕らえちゃいましょ!」
パンパンと手を叩きながら指示を出すツバメ。
ハナは不安そうな顔でシーラが出て行った壊れた壁の方を見る。
「……本当に、大丈夫なのかナ?」
※
ジャックの背中から竜の翼が飛び出し、羽ばたき音と共に空中で静止する。
「……このような痛みは久しいな」
鈍痛がする腹を擦っていると、下の方から怒声が聞こえて来た。
「降りてこい! そこで決着をつけてやる!!」
声のする方を見ると、広場に向かって走って来ているフランクの姿があった。
ジャックは羽ばたきを緩め、ゆっくりと広場の真ん中に着地する。
広場は人っ子一人おらず、あるのは破壊された沢山の露店と、地面に倒れている化け物が数体。
その光景は実に惨憺たるものであった。
「ぜぇー……ぜぇー……お、追いついたぜ」
肩で息をしつつ、フランクが広場に到着した。
「……息が上がっているな」
「いっ今整えるとこだよ! ……すぅ……ふぅ…………うし、ここなら思いっ切りやれるな」
ポキポキと指を鳴らしながら笑顔を見せるフランク。
「そうだ、ハルバードは壊れたが戦えるのか?」
「……何も問題はない。我の肉体で戦うのみだ」
「そうか……ならよお…………!」
フランクはジャックに向かって走り出す。
ジャックも構えを取り、迎撃の態勢に入る。
「素手だけじゃなくて素顔で戦おうぜ! なあ!?」
フランクが右ストレートを放ち、それに合わせてジャックが左フックでカウンターを狙った。
「――バァルの旦那よおおおおおおおお!」
「――っ!?」
フランクの言葉にジャックの反応が一瞬遅れ、お互いの顔面に拳が叩き込まれた。
パンチの衝撃でジャックのフードがめくれ上がり、仮面が粉々に砕け散る。
仮面の下から、鋭い眼光でフランクを睨みつけているバァルの顔があった。
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