【完結】ヒトリぼっちの陰キャなEランク冒険者

Eランク冒険者は目立たず、静かに、ひっそりとした暮らしを望んでいる。
コル
コル

4・VSジャック

公開日時: 2024年8月23日(金) 20:03
文字数:2,466

「おりゃあああああああああ!」


 フランクの右フックが、ジャックに向かって叩き込んだ。

 ジャックはひるむことなくハルバードの斧頭で拳を受け止める。

 と同時に、床が爆発したかのよう弾けた。


「ぬうっ! ……確かに以前よりはやるようだ」


 ジャックの言葉にフランクが吠える。


「ふん! その余裕、いつまで続くか……なっ!!」


 フランクが左足を上げ、ジャックの頭に向かって蹴りを繰り出す。

 即座に頭を下げて蹴りをかわしたジャックは、フランクの腹に向かって右ひざを入れた。


「ぐおっ!?」


 フランクは、腹を押さえながら1歩後ろに下がってしまう。

 引く行動が良くなかった。

 壊れた床の材木に足が引っかかり、一瞬バランスを崩してしまった。


「しまっ――!」


 その一瞬の隙をジャックは逃さず、ハルバードの槍先で突いて来た。

 避けられないと判断したフランクは、とっさに左腕を自分の心臓の前に持って行った。

 予想通り槍先は心臓を狙っており、左腕に突き刺さった。


「いってぇ! ちくしょうが!」


「読まれてしまうとは我もまだまだ……ふんっ!」


 ジャックは力をこめ、ハルバードを上に持ち上げる。

 左腕が刺さっているフランクの体も持ち上げられた。


「おいおいおいおい! マジかよ!?」


 普段は人を持ち上げる側であるフランク。

 そんな自分が持ち上げられるとは思いもせず、つい驚きの声を上げてしまった。


「――せいあ!」


 ジャックはハルバードを床に向かって降り下ろし、フランクを床に叩きつける。


「――がはっ!」


 その衝撃に肺の空気を吐いてしまうフランク。


「…………興覚めだ。秘薬を飲んでもその程度とは」


 ジャックは槍先を抜き、呆れたような仕草をしてフランクに背を向けた。


「へっへへ……勝手に冷めてんじゃねぇぞ……こっちは、やっと薬が体に馴染んで来たんだからよぉ」


 フランクは、口角を少し上げながらヨロヨロと立ち上がった。

 小さなため息をつき、ジャックが振り返る。


「まだやる気なのか?」


「だから言っただろ、馴染んで来たってよぉ…………忠告してやる、次のパンチ……避けた方がいいぜ」


 そう言うと、フランクは拳を強く握りしめて構えた。

 ジャックは何も言わず、ハルバードの斧頭でガードをする姿勢をとった。

 また同じ様に受けて止めてやる……そう言っている様に見えた。


「忠告はしたからな! 後悔すんなよおおおおおおおお!」


 フランクの右ストレートがジャックに向かって撃ち込まれる。

 先ほどと同じ様に、ジャックは斧頭でフランクの拳を受け止めた…………が。


「――なっ!?」


 ハルバードの斧頭が粉々に砕け散り、フランクの拳がジャックの腹部にめり込んだ。


「ぐおっ!」


「うおおおおおおりゃああああああああああああ!」


 右拳により力を込めてジャックを吹き飛ばす。

 吹き飛ばされたジャックはギルドの壁に激突した。


「まだだあああああああ!」


 フランクが助走をつけ、肩を突き出してジャックに向かってタックルを当てる。

 タックルの衝撃はすさまじく、2人は壁を突き破って外部に飛び出した。


「はあーはあー…………これ以上ここで戦うとギルドが壊れっちまうな……」


 フランクは右肩を回してから、ジャックの右足首を掴んだ。


「続きは広場でやろうぜえええ!」


 雄たけびと共に、ジャックは町中にある広場の方へと投げ飛ばされる。


「お前等! 後の事は頼んだぜ!」


 そう言うと、フランクは空中を飛んで行ったジャックの後を追いかけて行った。


「フランク! っアタイも後を追うよ!」


 シーラは立ち上がり、壊れた壁に向かって走り出す。

 それをツバメは慌てて引き止めた。


「ちょっ、ちょっと待って下さい! シーラさん!」


「止めないでおくれ!」


「そうじゃなくて! ……これを!」


 受付カウンターの下から1本の治癒ポーションを取り出し、シーラに向かって投げた。

 ポーションのラベルには試作品と書かれていた。


「試作品……?」


「より効果を高めたポーションです! いざって時に使ってください!」


「わかった! ありがとう!」


 シーラは壊れた壁から外に出て、フランクの後を追いかけていった。


「ツ、ツバメさン……今のってまだ副作用が残っていたんじゃア……?」


 ハナが恐る恐るツバメに質問をする。

 ツバメは片目を閉じつつ笑顔で返した。


「秘薬に耐えたんだから、ちょっとした副作用くらい大丈夫よ。さっ、みんな! 【影】達が目を覚ます前に捕らえちゃいましょ!」


 パンパンと手を叩きながら指示を出すツバメ。

 ハナは不安そうな顔でシーラが出て行った壊れた壁の方を見る。


「……本当に、大丈夫なのかナ?」



 ジャックの背中から竜の翼が飛び出し、羽ばたき音と共に空中で静止する。


「……このような痛みは久しいな」


 鈍痛がする腹を擦っていると、下の方から怒声が聞こえて来た。


「降りてこい! そこで決着をつけてやる!!」


 声のする方を見ると、広場に向かって走って来ているフランクの姿があった。

 ジャックは羽ばたきを緩め、ゆっくりと広場の真ん中に着地する。

 広場は人っ子一人おらず、あるのは破壊された沢山の露店と、地面に倒れている化け物が数体。

 その光景は実に惨憺たるものであった。


「ぜぇー……ぜぇー……お、追いついたぜ」


 肩で息をしつつ、フランクが広場に到着した。


「……息が上がっているな」


「いっ今整えるとこだよ! ……すぅ……ふぅ…………うし、ここなら思いっ切りやれるな」


 ポキポキと指を鳴らしながら笑顔を見せるフランク。


「そうだ、ハルバードは壊れたが戦えるのか?」


「……何も問題はない。我の肉体で戦うのみだ」


「そうか……ならよお…………!」


 フランクはジャックに向かって走り出す。

 ジャックも構えを取り、迎撃の態勢に入る。


「素手だけじゃなくて素顔で戦おうぜ! なあ!?」


 フランクが右ストレートを放ち、それに合わせてジャックが左フックでカウンターを狙った。


「――バァルの旦那よおおおおおおおお!」


「――っ!?」


 フランクの言葉にジャックの反応が一瞬遅れ、お互いの顔面に拳が叩き込まれた。

 パンチの衝撃でジャックのフードがめくれ上がり、仮面が粉々に砕け散る。


 仮面の下から、鋭い眼光でフランクを睨みつけているバァルの顔があった。

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