GROUND ZERO 〜特級スキル『パーフェクト・コピー』を持つ訓練生は、氷雪系最強の血筋、“フローレン家”の名を受け継ぐ暗殺家一家の御曹司〜 【第1巻】

遠い昔の記憶は、風と共に来た。
平木明日香
平木明日香

第9話

公開日時: 2024年7月25日(木) 21:30
文字数:1,208


 スタジアム内に繋がる通路を通り、更衣室やミーティングルームなどがある屋内スペースに入った。


 クラウスはすでにやる気満々だ。


 ルシアは相変わらず…というより、ほとんどやる気がない。


 ルシアにはルシアの思惑があった。


 “練習嫌い”とはいえ、訓練の重要性は重々理解していた。


 ただ、いかんせん相手が相手だった。


 彼の「教育係」であるジークハルトは、学園一の熱血漢で知られている。


 その実力は折り紙付きだが、ルシアとはどうも相性が良くなかった。



 「さっきも言ったが、無闇に前に出るのは得策じゃない」


 「あー?ひよってんのか?」


 「そういうことじゃなくて、むざむざ突っ込むなって話だ」


 「じゃあなんだ、じっとしてろってのか?」


 「相手の得意分野ってものがあるだろ?近接距離は先生のテリトリーだ。ちゃんと距離さえ保ってれば、それなりの闘い方ができる」


 「やっぱひよってんじゃねーか」


 「何でそうなる…」



 トレーニング用のスポーツスーツに着替えた後、競技スペースへと続く通路の階段を登った。


 観客席からの景色もそうだが、スタジアムの“下”から見る景色は、また違った雰囲気がある。


 空を切り開いたような天井の作りは、競技スペースから見るとより壮観だ。


 「スカイボウル」は空中を駆使して戦う競技のため、それ専用に設計されたスタジアム内の空間は、まるで外にいるかのような立体的な臨場感を演出している。


 眩しい日差しが真っ逆様に降ってきていた。


 直径130mにも及ぶ広いスペースの真ん中には、スカイボウル用のフィールドラインが、スタジアムの中心を区切るように引かれていた。


 スタジアム内のフィールドの形状は、真円に近い形状になっていた。


 真ん中に引かれたフィールドラインを囲うように、フェンスの端まで白い線が伸びている。


 フィールドの中心には、腕を組んで立っている男がいた。


 褐色の肌に、額の傷。


 見るからに筋肉質で、逆立った前髪の下には鋭い眼光が見える。


 ジークハルト・レインズ。


 無精髭の男臭い顔立ちと、教員とは思えないほどにラフな格好。


 元海兵の一員で、ガルバディア領の沿岸及び島嶼部の防衛を任務とする「海軍第1軍団アルカディア騎兵旅団」という軍事組織に属していた。


 右腕の上部に彫られたタトゥーには、“アルカディア”のチームロゴが入っていた。


 「アルカディア」というのはイーフリート大陸北部にあるアルカディア山脈から取られた名前で、“勇猛さ”、または“強さ“を象徴していると言われている。


 彼が海軍に属していたのは3年も前だが、その実力もあって、海軍第1軍団の“隊長“にも任命されていた時期があった。


 しかし隊の指揮系統にも影響及ぼしかねないほどの酒癖の悪さと、海軍の隊員としてはあるまじき不祥事の連続で、海兵隊としての職務を罷免されていた。


 海軍でも最強と謳われる第1軍団に所属し、その中に属する一隊の隊長を任されるという実績を持ちながら、あまりいい噂の聞こえてこない内面的な問題を抱えていた。

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