ジークハルトはハッとなった。
(…そういえば、今日は動いていないな)
その違和感の矛先にいたのは、スタート位置から動いていないルシアだ。
なんでアイツは動いていないんだ?
いつもなら、クラウスと一緒に向かってきてるはずなのに。
「大丈夫か?“先生”」
普段なら、そんな敬称は絶対に使わない。
大抵は“ゴリラ”とか“クソ先公”とか、そのような蔑称ばかりだ。
これ見よがしに煽りながら、クラウスは腕を組んでいた。
まるで、“今日は俺が見下ろす番だ”と言わんばかりに。
「一体何をしたんだ?」
「教えてやるかよ!」
「…まあいいさ。こういう時のために動画は撮ってあるしな」
スタジアムには多方向から映像を記録できる電子媒体が埋め込まれている。
「訓練場」としての利用が多い分、分析や自己解析を行うための確認用ツールとして設置されていた。
スタジアム内の「メディアステーション」という場所で、その映像を確認することができる。
ただし、ジークハルトには便利なアイテムがあった。
鳳凰院の各種施設のコンピュータにアクセスできる、教員用のパスコードを持っていたのだ。
これによって、彼は手元にある電子機器でも、遠隔で保存された「データ=動画」を閲覧することができた。
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