GROUND ZERO 〜特級スキル『パーフェクト・コピー』を持つ訓練生は、氷雪系最強の血筋、“フローレン家”の名を受け継ぐ暗殺家一家の御曹司〜 【第1巻】

遠い昔の記憶は、風と共に来た。
平木明日香
平木明日香

第31話

公開日時: 2024年8月18日(日) 21:50
文字数:710



 ゴッ——




 鈍い音が、ジークハルトの“頬”を襲った。


 音は“通り”過ぎていた。


 わずかな反響を残しつつ、小さな振動を空間にこぼしていた。


 意識は下に傾いていた。


 それは事実だ。


 クラウスの攻撃は、顔面ではなく下。


 ——ジークハルトの腹部を目掛けて放たれていた。


 しかし、予期しない角度から「視界」が揺れる。




 スッ

 


 と、暗闇が顕われる。




 距離が、見えない。



 不意に意識を襲った不可解な感覚は、糸で引っ張ったように頭のてっぺんを“突いた“。


 ジークハルトは、「防御」への意識に傾いていた。


 上半身に流れる筋繊維を束ね、迫る攻撃に備えようとしていた。


 ダメージを恐れての行動ではない。


 彼の実力を鑑みれば、それがどの程度の攻撃であったとしても、全てのエネルギーを吸収することができただろう。


 たんに受けようとするならば、その場に留まっているだけでよかった。


 その選択を無視しての「防御」に意識を投じたのは、彼がクラウスに伝えようとしたからだ。



 攻撃は通じない。



 その“メッセージ”を、より強い形で表示しようとした。


 何をしようとしているにせよ、効かない。


 鉄を殴るような「硬さ」を味わわせてやる。


 クラウスの動きに合わせていたとはいえ、“避けきれない”というのは彼の癪に触っていた。


 だからこそ、「逆に弾いてやる」という意識だった。


 腹に力を入れ、魔力を使った“硬質化”を施す。


 ジークハルトからすれば、これ以上ない万全の状態だった。




 グニャッ




 ほくそ笑むジークハルトの顔が、歪む。

 

 左半分の皮膚がクラウスの拳の形に沿って窪んでいき、クの字に口が曲がる。


 ジークハルトの腹に触れようとしていたクラウスの右腕が、なぜか彼の顔面を捉えていた。


 踏み込んだ下半身が、尚も「下」へと流れていながら。



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