ゴッ——
鈍い音が、ジークハルトの“頬”を襲った。
音は“通り”過ぎていた。
わずかな反響を残しつつ、小さな振動を空間にこぼしていた。
意識は下に傾いていた。
それは事実だ。
クラウスの攻撃は、顔面ではなく下。
——ジークハルトの腹部を目掛けて放たれていた。
しかし、予期しない角度から「視界」が揺れる。
スッ
と、暗闇が顕われる。
距離が、見えない。
不意に意識を襲った不可解な感覚は、糸で引っ張ったように頭のてっぺんを“突いた“。
ジークハルトは、「防御」への意識に傾いていた。
上半身に流れる筋繊維を束ね、迫る攻撃に備えようとしていた。
ダメージを恐れての行動ではない。
彼の実力を鑑みれば、それがどの程度の攻撃であったとしても、全てのエネルギーを吸収することができただろう。
たんに受けようとするならば、その場に留まっているだけでよかった。
その選択を無視しての「防御」に意識を投じたのは、彼がクラウスに伝えようとしたからだ。
攻撃は通じない。
その“メッセージ”を、より強い形で表示しようとした。
何をしようとしているにせよ、効かない。
鉄を殴るような「硬さ」を味わわせてやる。
クラウスの動きに合わせていたとはいえ、“避けきれない”というのは彼の癪に触っていた。
だからこそ、「逆に弾いてやる」という意識だった。
腹に力を入れ、魔力を使った“硬質化”を施す。
ジークハルトからすれば、これ以上ない万全の状態だった。
グニャッ
ほくそ笑むジークハルトの顔が、歪む。
左半分の皮膚がクラウスの拳の形に沿って窪んでいき、クの字に口が曲がる。
ジークハルトの腹に触れようとしていたクラウスの右腕が、なぜか彼の顔面を捉えていた。
踏み込んだ下半身が、尚も「下」へと流れていながら。
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