「ゆ……幽霊?」
美和の声は情けないぐらいに震えていた。
突然、現れた奈美と少しずつ距離ととる。
「まぁ、この姿だもの。そう言われても、仕方がないか」
幽霊と呼ばれても、しょうがないだろう。
奈美自身、肉体を失い魂だけの存在となっていた。
「私は原田奈美。都の母親よ」
「都の……お母さん?」
「――そうよ」
美和は呆然と奈美を見つめた。
「どうして、私のところへ?」
「皆の成長を見て回っているの。あなたが最後よ」
別れの挨拶みたいなものだと。
都の新しい家族を見て見たかった。
どんな、子供なのか興味があった。
「ごめんなさい」
「なぜ、謝るの?」
「都の気持ちをわかってあげられなくて」
守ってもらってばっかりで。
美和は何もできない自分に、苛立ちしかなかった。
「都がデザインズ・ベイビーだということは、知っているのね?」
「――はい」
「あの子。変なところで頑固だからね。都から事実を聞くことを、諦めてないでしょう?」
「私は諦めてないです」
「諦めなければ、都に気持ちは伝わるわ」
だから、都が話すのを待ってあげてほしい。
「そうですよね。待つしかないですよね」
「美和さん。都を認めてくれてありがとう」
家族として幸せをわけてくれて、ありがとう。
都に居場所を作ってくれて感謝しかないわ。
母としてお礼を言うわ。
「都には私に会ったことを、内緒にしておいてくれる?」
「どうしてですか?」
「あの子はあの子の道を、進もうとしているのよ。邪魔をしたらいけないわ。それに、私の親としての役目は終わったの」
「会えてよかったです」
親心を聞けてよかったと美和は思った。
「――私も同じです」
見届けられてよかったと。
「そろそろ、いかないと」
光が散り散りになり、奈美がいなくなる。
美和の部屋に静寂が戻った。
都。
あなたの心が決まるまで。
決断をくだす日がくるまで。
私たちはずっと、待っているよ。
美和は海を見つめながら、思いを新たにした。
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