デザインズ・ベイビー

遺伝子操作を受けデザインズ・ベイビーとして誕生した少年の物語。
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第九章「卒業」1

公開日時: 2020年10月17日(土) 17:00
文字数:1,043


相田実。

海外に単身赴任中


相田和江

都を引き取り育てている。


相田美和

都の義姉。

自分のことを話そうとしない都に、困惑している。

都がデザインズ・ベイビーだと、知っているかどうかは不明。


隆はキーボードを打つ手をとめた。


登録してある都の家族構成を確認する。


どうやら、一般家庭に引き取られたらしい。


普通の家庭に引き取られたからといって、幸せだとは言いきれないだろう。


「彼に会ってきました」


鈴が言う彼とは、都のことだろう。


「黙れ」


隆は眉間にしわをよせた。


自分の支配下にいるくせに、自由に動く鈴が気に入らない。


隆の濃紺の瞳が、鈴を睨んだ。鈴は涼しい顔で着ている制服を脱ぐ。


ラフな格好に着替えて、長い髪をポニーテールにする。


「本当にいいのですか?」


実の息子と争うなんて。


殺し合うなんて。


悲しいだけですよ?


苦しいだけですよ?


「お前はいつから、私に意見ができるようになった?」


作られた存在で偉そうに。


「意見をして悪いですか? 私にも感情というものがあります」


自分だって一人の人間だと、思えるようになったのはごく最近だった。


「――笑わせるな」

「自分の気持ちに、素直になっただけです」


利用されるだけの駒ではないのだと。


「今更、普通の生活などできないはずだ」


私に依存しているお前が。


「私が教授を撃てないとでも思いましたか?」


隆の頬を銃弾がかすめていく。


心臓を狙わなかったのは、無駄な殺人をしたくなかったからだった。


鈴は隆と間をあける。


その場の空気が、凍りついていく。


悲しい運命(さだめ)。


生い立ちなんて関係ない。


動かなければ、変わらない。


変われない。


前に進めない。


そのために、立ちあがった。


自分の足で歩こうとした。


誰にも縛られることなく。


未来を見ようとした。


「――使えないな」

「教授のやり方に、疑問をもっただけです」

「忘れてないか? お前の命は私が握っている」


都の命も。


「そちらこそ、大丈夫ですか?」


一般人よりも情報処理能力が、高いことをお忘れですか?


研究結果なら頭に入っていると隆に告げる。


「そこまでして、生きたいとは無様だな」

「何とでも言ってください。私は生きることを決めました」


生き抜いてみせると、隆に吐き捨てる。


あなたの脅しには屈しません。


「殺したいのならどうぞ?」


ご自由に。


作った子供を殺せるのなら。


その勇気があるのなら。


隆自ら追いかけてくるというのなら、私は逃げません。


隠れたりはしません。


むしろ、どちらかといえば戦うつもりでいた。


「長い間、お世話になりました」


後悔はない。


鈴は戸惑うことなく、研究室をでた。

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