「本日はお忙し中、お集まりいただきありがとうございます。私、原田湊及び山口鈴より大切な話があります」
カメラのフラッシュが光る。テレビも多数回っていた。
「結婚ですか?」
「いいえ。違います」
「知っている方も多いでしょう。私の父親は遺伝子学者の原田隆です」
「それは、知っていますが……今回の会見と何が?」
「私の父は自分の息子を実験台にし、デザインズ・ベイビーを作りあげました」
突如、湊から爆弾が投下された。湊の発言は記者たちに衝撃をあたえた。
それは、波紋となって広がっていく。
「その根拠はどこから?」
鈴と湊にマイクが向けられる。二人は慣れたもので、表情をかえることはない。
「今から、資料をお配りいたします」
スタッフとマネージャーが資料を配っていく。
そこには、隆が行っていた実験の詳細がこと細やかに書かれていた。写真や映像は手に入らなかったが、鈴がわかりやすく隆の様子を絵にしてくれていた。
もちろん、都の分だけではない。鈴の分も用意をしていた。都の分だけを公表するのは、フェアではないと鈴が判断したのである。
「教授が言った未来の子供たちのためにというのは、嘘ということでしょうか?」
「私はセカンド・タイプ――いわば、第二世代のデザインズ・ベイビーです。私は教授に一番、近い人物でした。ただ、教授は子供たちのためではないです。いいように、甘い言葉で誘導をしていようとしていました」
「なぜ、今、公表しようと思ったのですか?」
「私のような子供たちを今後、生みださないためです。犠牲になった原田都君のためにも――」
鈴は淡々と話していく。一個人の山口鈴として話していた。
それは、湊も同じだった。
「私たちはどちらを信じればいいのでしょうか?この発表も国民を混乱させるだけなのでは?」
「確かに、国民を混乱させるだけかもしれません。私は山口さんを含め――応援してくれている人たちを信じています。ただ、それだけです」
「もし、その思いを裏切られたらどうしますか?」
「その時はその時です」
鈴と湊は質問した記者をまっすぐ見つめた。二人の力強い眼差しを感じて、記者は気まずそうに視線をそらす。
「他に質問はありませんか?」
確認をするように周囲を見渡す。
「最後に一つだけ聞かせてください」
「何でしょうか?」
「あなたたちは一体何者ですか?」
「私? 私はただの俳優です」
「私もただの女優です」
二人は静かに微笑む。その笑顔に引き込まれていく。
演技ではない。
鈴と湊の本来の笑顔だった。
「他に質問はございませんか?」
「では、以上で会見を終了いたします」
鈴と湊は深々と頭をさげた。
数日後――。
やはり、会見の効果は大きかった。世論の声は隆よりも鈴と湊に集まりつつあった。
応援の手紙や手紙も沢山きていた。
会見の日から鈴と湊は関係も深まり、敬語なしで会話をするようになっていた。
「会見の効果は抜群ね」
「ありがとう。山口さんの協力があったからこそ。あとは、僕に任せて」
それが、別れの言葉のように感じて――。
鈴はピクリと肩を震わせた。
「原田さん?」
「――ん?」
「あなたは帰ってくるよね?」
また、二人で仕事ができるよね?
「僕はね。患者を見捨てることはしたくない」
「その言葉を信じているわ」
「約束」
湊がスッと小指を差しだす。
鈴は自分の小指を絡ませた。
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